知覚同調性交


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『ミリーゼ少佐。今どちらにおられますか?』
「自室で休んでいますが」
『お暇なようでしたら、少々お礼をと思いまして』
「お礼? 何のお礼ですか?」
『人間もどきのエイティシックスにいつもご丁寧なご挨拶。そんなミリーゼ少佐に感謝の気持ちを送りたいのです』

 エイティシックス。有色種を差別する蔑称。
 まだスピアヘッド戦隊の担当となる前、これはとある部隊の隊員と起きた出来事だ。
 戦場にて<ジャガーノート>で戦うエイティシックスの通信手段には、知覚同調と呼ばれる画期的システムが使われる。
 理論上、五感のどれでも同調できる。
 基本的には聴覚が利用され、体感的には電話や無線機と大差がないので混乱も少ない。声での通信を受けたヴラディレーナ・ミリーゼ――通称レーナは、少しばかり迷い、一分少々の時間をかけて考え込んでから、ようやく『お礼』に応じてみた。
 皮肉や冷ややかさのようなものが入り混じり、向こうが何かしらを企んでいそうなことは理解していた。知覚同調は聴覚の共有だが、同調に際し互いの意識を経由している以上、顔を合わせている程度の感情は伝わる。
 馬鹿正直にプレゼントでも期待したわけではないが、果たして直接顔は合わせない、現実には戦場と安全圏で離れ離れの場所にいる相手に何ができるか。まさか白系種への報復のためだけに自傷行為など、そんなことを考えるわけもないだろう。
『触覚を繋いで頂ければわかります』
 その状態で自殺でもされれば、痛覚の共有が恐ろしいが、さすがにそれはないだろう。
 だから、繋ぐ。
 彼が指定した一人の女子隊員に――その途端だった。
 すぐに身体が火照った。動悸が激しくなり、繋いだ相手である女子の、恍惚としたよがる感情まで伝わる。
「――ひゃうん!」
 レーナは自らの股を手で押さえ、おかしな声で鳴いていた。
『ははははっ、どうですか? 少佐ぁ!』
「あぁぅっ! あっ、あぁぁ……!」
 まさか、そんな。
 きっと、そのためだけに、よほど丁寧に温めていたに違いない。空気にも触れたくないほど敏感に仕立て上げ、女の一人や二人は簡単に無力化する。
 快楽の共有だ。
「なっ! なにをなさるのですか!」
 通信の向こうで、公然と行われている情事に顔を赤らめ、レーナは思わず怒鳴りつけた。
『なにって、我々は少佐に良い思いをさせたいのですよ。だからみんなで協力して、いつもお世話頂いている少佐殿には気持ちよくなって頂きたいと』
「そ、そんなことは――あぁっ! あん!」
『そんなことは、なんですか?』
「――それは――だ、だからぁ……! あっ、んんん!」
 一対一の性交かと思ったが、身体中をまさぐる目には見えない感覚は、全身という全身の素肌を撫で回す。一体何人でそうしているのかわからない、もしかしたら十人以上で愛撫している手の数々が、その触覚がレーナを襲っていた。
『おやおや、ご満足頂けているようですねぇ?』
『ではもっとサービスしましょうか』
『この辺りなんて如何です?』
 体感的には、手首だけを切り取った数多い手の平が、全身にペタペタと張り付いて、それぞれ自由に揉んで撫でてとしているようなものだった。五感共有である以上、衣服の存在など無視して、皮膚に直接それがある。
 耳にうなじに、背中の部分と、指先でそっと触れられればゾワっとするところが、産毛だけをくすぐるように撫でられている。胸を揉んでくる手は一人分だけではなく、両方の乳房が鷲掴みのされているばかりか、乳首にも手二つ分の指が来て刺激してくる。
 尻も大胆に撫で回され、アソコに至っては指まで挿入されていた。
「や、やめな……さ……あぁ……!」
 もう立っていられなくなり、レーナは自分のベッドへ倒れていく。
『そろそろ挿れて差し上げましょうか』
「え!? そんな――ま、待っ――――」
 全ては幻の感覚にすぎない。本当に処女を失うわけではない。
 けれど、だからといって。
「ああぁあああああああああ!」
 初めて肉棒で貫かれる感覚は、十六歳の乙女には衝撃が強すぎた。
『いい声ですねぇ? 本当に少佐とヤったらどんな感じがするんだか』
 小刻みに腰を振り、現実に交わっている女子の喘ぎ声も通信で聞こえている。
「んむっ!」
 そして、硬く大きな熱気が、その幻の感覚が口内に入り込むと、現実の女子隊員が一体何を咥えたのかなど簡単にわかった――フェラチオだ。さらに手足の触覚で、床に触れている部分に合わせて姿勢を変えると、レーナのポーズは女子隊員と同じ四つん這いとなる。
 前後から挿入されている感覚に、実物を咥えたわけでもないのに太さに合わせて口を開き、快感に支配されるままとなっている。
「んん! んんん!」
『出しますよ? 少佐』
 そして、口内に放出され、尻にもかかる熱い液体は――それが幻だと忘れ、思わす本当に体にかけられてしまったような、混乱による動揺にレーナは震えた。
『どうでしたか? 少佐。とてもよかったでしょう』
「はぁ……はぁ……貴方達…………」
 そう、現実の体験ではない。幻の体験。
 それでも、レーナはやり捨てられた事後によく似て、ぐったりと倒れ込んでいた。




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