入国身体検査の国-キノ-


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 森には一本の道があった。
 広大な緑を二つに等分するように、真っ直ぐ通った長い道は、頭上が葉っぱの天井で覆われている。快晴の木漏れ日が暖かく降り注ぎ、風がそよいで心地良い道となっている。
 一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が、道を真っ直ぐに進んでいた。後輪の両脇と上に、旅に持つを満載している。かばんの脇に引っ掛けられた、銀色のカップが揺れていた。
 運転手は白いシャツに、胸元を開けて黒いベストを着ていた。腰を太いベルトで締めて、右腿にはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のホルスターがある。腰の後ろにも、細身の自動式をつけていた。
 黒髪の上に鍔のある帽子をかぶり、ゴーグルをしていた。
 その下の表情は若い。十代の半ばほど。
「城壁が見えてきたね。キノ」
 走りながら、モトラドが突然言った。
「ああ、見えた。もう少しで着くみたいだな。エルメス」
 国を取り囲むための城壁が、森の中からドンと大きく聳えている。最初は遠く小さく見えた城壁が、今はだんだん近づいていた。
「あの国は身体検査が厳しい。だっけ?」
「厳しくしておくことで、スパイとか悪人の入国を萎縮させる効果がある。とか、前の国にいた人は言っていたな」
「裸にされて、尻の穴まで探られて、最後は写真もパシャパシャ撮られるってね。すごく恥ずかしそうだけど、キノは受けるの?」
「……まあ、嫌だとは思うけど、そうしないと入国できないだろうから」
 キノと呼ばれた運転手は、城門へ向けて速度を上げた。


「人権侵害よ! 女性にまで全裸を要求するなんて、どうかしているわ!」
 城門外側にある小さな詰め所で、番兵兼入国審査官と、一人の女が言い争っていた。
「規則は規則ですので」
「だったら! その規則を作ったのは誰よ!」
「我が国の政治です」
 女は気性の荒い様子だが、審査官の男は冷静で淡々としている。
「どうせ政治家が民意を無視したんでしょう? でなければ、そんな横暴で下品でハレンチな身体検査がまかり通るわけがないわ!」
「規則は規則ですので」
「じゃあ、どうしろっていうのよ! 他に行ける国もないのに、野宿でもしろっていうの?」
「ですから、人権や羞恥心などへの配慮のため、旅人にご宿泊頂くための宿が、城壁の外の方にございます」
「何よそれ! 外で寝ろってこと?」
「そちらの宿では十分な施設を提供し、料金の方もお安くさせて頂いております」
「ふん! いいわ! 今日のところはそっちに泊まらせてもらうけど、また抗議に来させてもらうんだから! 待ってなさいよ?」
 怒った女はぷいっと振り向き、すたすたと審査官から去っていく。
「あら、あなたもこの国はやめた方がいいわよ? とんだ変態なんだから」
 キノに向かって、女はそう言い残した。


「移住希望ですか? それとも、旅の途中の一時滞在ですか?」
 女と入れ替わるようにして、キノは審査官の元へ歩み寄る。
 自分達は後者で、三日間の滞在を希望すると伝えた。
「この国が、精密な身体検査を実施して、衣服や所持品はもちろんのこと、全裸のボディチェックを実施していることはご存知ですか?」
 審査官が、念を押すように尋ねて来る。
 キノは頷いて、
「何故厳しいのか。理由を聞いても構いませんか?」
 と、尋ねた。
「旅人が危険な人でないかを調べるのはもちろんですが、主な理由としては、スパイや犯罪者など、悪質な入国者の入国を萎縮させるためですね。この国から数キロほど離れた場所には、我が国を敵視する敵対国がありまして、たびたび工作員を送ってきますので」
「なるほど」
「さきほどの女性にも伝えましたが、人権上の配慮という問題もあります。もし全裸で細かい部分まで調べる身体検査を拒否なされたい場合は、城壁の外にも宿を設置しております」
「わかりました。一日目はそちらへ行ってみようと思います。一日考えて、決心がつくようならまた来ます」


「いい宿だな」
 キノが、エルメスから荷物を下ろしながら言った。
 部屋の中は、ふんわりとしたソファに、清潔で柔らかそうな真っ白なベッド。壁には電気スタンドと扇風機が置かれている。
「そう? なんか普通だけど」
 部屋の隅にセンタースタンドで立つエルメスが答えた。
「そう、普通なんだよ。普通に綺麗で、ベッドとソファは使い心地が良くて、掃除も行き届いているし、料理も美味しい。普通に充実している」
「つまり?」
「城壁の外に建てたにしては、十分に整っているってこと。下手をすれば、他所の国のホテルよりも高級だ」
「あ、なるほど。身体検査なんて受けられない、って人を外に放り出しておくための宿だから、もっとオンボロで壁も床も穴が開いてて、ベッドもしちゃくちゃで黄ばんでて、そこらじゅうにネズミとか、ゴキブリとかがいるのを期待いてたんだね。残念」
「いや、別に期待はしてなかったけれど……」
 キノは荷物をベッド脇におろし、ホルスターを外してベストを脱ぐ。
 その時だった。
「離して! 離しなさいよ!」
 隣の壁の向こうから、さっきの女の声が聞こえてきた。


 キノが大きな音を気にして部屋を出ると、さきほど審査官に文句を言っていた女が、両脇を二人の番兵に抱えられ、廊下から連れ去られている最中だった。
「何よ! 何だっていうのよ!」
 女は髪を振り乱して、ひたすら吼えている。
「あなたにはスパイ容疑がかかっています」
「スパイ? そんなのデタラメよ!」
「話はあとで聞きましょう。その際に弁護士を立てることも可能です。一旦、留置所まで同行して頂きます」
 淡々と言って、二人の番兵は女を引きずって行く。
「どうなされたんですか?」
 もう一人の番兵が廊下が、女の部屋から出てきたのを見て、キノは尋ねてみた。
「どうもこうもスパイだよ。ま、まだ容疑段階なんだけどな」
 番兵は肩をすくめて呆れながら答えた。
「先程、入国審査官の方に文句を言っているのを見ましたが」
「ああ、そういう奴なんだよ。ここから西にある国が、領土を拡大しようと隣国に工作員を送り込むんだ」
「続けて下さい」
「服も所持品も全てチェック。全裸になった体にもボディチェックをするような厳しい検査があったら、敵国の工作員にとって都合が悪いから、女性団体のフリをして廃止させようって魂胆なんだ」
「なるほど」
「アンタも身体検査は無理って口か? たまにいるんだよな。ま、スパイなのかただ恥ずかしいのかは知らないが、この宿からでも旅に必要な品物は注文できる。注文雑誌みたいなリストがあって、そこから選んで受付に頼めば、わざわざ国の中から商品を運んできてくれる仕組みというわけさ」
「それは便利ですね」
「ああ、便利だろう? スパイを萎縮させる上、旅人への対応もきちんとできる一石二鳥だ」
「中はどんな国なんですか?」
「どんなって、普通に平和な国だよ。この国では歴史ある建造物が観光地になっていて、それなりに楽しめる酒場とか風俗宿があって、商店街はそこそこ賑やか。これといった特徴らしい特徴は別にない」
「そうですか」
「俺は他に仕事があるから、忙しいからこの辺でな。あばよ」


 二日目の朝。
「入国してみるよ」
 キノはエルメスに言う。
「へえ! てっきり、恥ずかしいからもうやめたのかと思ったよ」
「まあ、そうなんだけれど……。全裸になるなんて、本当は受けないにこしたことはないけど、必要な品物はちゃんと自分の目で見て選びたい」
「粗悪品なんて掴みたくないからね」


 入国審査官の元を訪れると、キノは検査用の別室へと案内された。
「所持品を全てチェックすることになりますので、まずはそちらのモトラドと、かけてある荷物を拝見することになります」
「分解とかしないでよね」
 エルメスが言った。
「理由がなければ分解はしないでしょう」
「武器の持ち込みは制限されていますか?」
 きっぱりと答える審査官に、キノは尋ねた。
「護身用に携帯自体は許可しています。ただし、種類や口径など、所持している種類に関しては全てチェックし、書類にまとめ、国内で犯罪が起きた時のための捜査資料として、ここに記録が置かれることになります」
「わかりました」
 キノは持っていたパースエイダーとナイフを全て渡した。
「こちらへどうぞ」
 さらに別室へ案内された。


 キノは全ての衣服を脱いで、一枚一枚をテーブルに置く。
 全裸になって、両手で胸とアソコをそれぞれ隠した。
「特に何もありませんね」
 審査官はシャツやベストを調べていき、ポケットの中に何か仕込んではいないか。布を二重にすることで、危険物をこっそり持ち込もうとはしていないか。そういうことについて、一枚ずつ丁寧に確かめている。
 さすがに時間がかかるため、衣服を調べているあいだ、キノはずっと全裸のまま両手で恥ずかしい部分を隠し続けていた。
「こちらはどうでしょう」
 審査官は目の前でショーツを持ち上げ、その柄や色についてコメントを口にする。堅苦しい論評を読み上げるような口ぶりで、地味めなグレーの無地、リボンがついている、まだ少し体温が残っているなど、キノにとっては恥ずかしいことばかりを述べてきた。
 裏返しにして、おりものの染みまでじっくり観察され、キノは真っ赤に染まってしまった。
「身体を調べます。両手を横に下ろして下さい」
「……はい」
 キノは気をつけの姿勢を取ると、審査官は肩やうなじに触り始める。腰に太もも、ふくらはぎやアキレス腱。いたるところを撫でたり揉んだり、皮下に何かが隠されていないかを調べ始めた。
 口や鼻、目や耳などにもライトを当てる。
 そして、審査官の手の平はキノの乳房を包み込んだ。
「あ、あの……」
「何でしょう?」
「いえ、早く終わるといいなと思いまして」
「ええ、じっとして頂ければ、可能な限り早く終わります」
 審査官はあくまで事務的な顔をしているが、キノの控えめな膨らみにべったりと手の平を這わせたまま、何度も何度も指に強弱をつけて揉んでいる。やがて乳首が突起して、審査官の手の内側をつつき始めた。
「あの……」
「乳首が立っていらっしゃいますね」
「……そうでしょうか」
「はい。とても硬くなっています」
 審査官は乳首をつまみ、つねるようにして弄ぶ。人差し指で何度も上下に弾き続けて、また乳房全体を揉みしだく。しばらく揉んだら、再び乳首に集中して、審査官は十分以上かけてキノの胸を触り続けた。
「とても、時間をかけるんですね」
「はい」
「下心を疑われたりはしませんか?」
「そうですねえ、女性団体を名乗る声はありますが、敵国にとって都合の悪いものを潰そうとする工作活動でしょう」
「……そうですか」
 次に性器を調べるというので、審査官の指示に従って、キノはテーブルの上に横になる。天井にM字開脚を向けるようにして、審査官はキノのワレメを指で開いて観察する。
「よい色合いですね」
「そう言われましても……」
「指を入れますので、動かないで下さい」
「はい」
 審査官は中指を立て、キノの膣口へ挿入する。男の指が膣内へ侵入してくる異物感に、キノはなんとなく身をよじり、恥ずかしさで顔をみるみる赤らめた。
「血色の良さから、健康的な肉ヒダと言えますし、中身もとても温かい。キノさん。これは名器ですよ」
 といって、審査官は指を出し入れする。
「あの……」
「膣壁を調べています」
 審査官は探るような顔つきで、膣内を指の腹で擦っている。
「……そうですか」
 何かを言いかけていたキノは、諦めた表情で耐え忍ぶ。審査官は指をグリグリと回転させ、膣壁のいたる部分を触りながら、何度も何度もゆっくりと、時間をかけて指を出し入れさせ続けた。
「四つん這いになって下さい」
 キノは黙って従う。
 審査官は突き出された尻たぶを両手で鷲掴みにして揉み始める。手の平全体に強弱をつけ、丁寧に揉みしだき、尻の感触を味わい続ける。最初は指先で何かを探り、皮膚の内側に隠されたものがないかをチェックしている動きに感じたが、だんだんと単に揉みしだいているだけの手つきになっていた。
「……うぅっ」
 キノは静かに耐えた。
「張りがあり、弾力も強く、とても良いですね」
「……褒められても、困ります」
 それだけ言って、耐え続けた。
 審査官はなおも揉み込んで、しばらくすると撫で回す。手の平全体が触れるか触れないかの加減で、丸い尻の表面を何度も何度も、撫で回す。
 キノの顔は赤かった。
「さて、ワセリンを塗って……」
 そして、肛門に指を挿入した。
「あぅぅ…………」
 キノは異物感に声を上げた。
 にゅぷり、にゅぷりと、審査官の指が出入りして、肛門の中身を探っている。
「いま、お尻にキュっと力が入りましたね?」
「……いえ」
「いいえ、確かに入りました。キュンといった具合に引き締まり、あなたの肛門括約筋が私の指を締め付けました」
「……」
「さて、これから肛門の皺の本数を数えます。動かないで下さいね?」
「……はい」
 審査官は指を引き抜くと、四つん這いの尻たぶを両手で鷲掴みにして、ぐっと穴に顔を近づけ至近距離で視姦して、声を出して数え始めた。
「いーち、にーい――」
 とても元気にカウントを重ね始めた。
「うぅ……」
「さーん、しーい」
 無邪気な笑顔で、とてもとても楽しそうに、審査官はキノの肛門の皺の本数を数えていました。
 それが終わると、今度はスリーサイズの測定が始まった。審査官はメジャーを伸ばして巻きつけて、バスト、ウェスト、ヒップの順に計った数値を「○○センチ!」と、いちいち大声で読み上げた。
 ノギスで乳首と乳輪のサイズを測った。
 アソコの割れ目と、クリトリスのサイズも測った。
 肛門の直径も計った。
 写真撮影に移ると、まずは直立不動の姿勢で正面から一枚撮り、その次に左右から撮り、背面からの写真も撮ると、乳房、アソコ、お尻のアップまで写し撮り、肛門さでもを写真の中にきっちり収めた。
「キノさんのスリーサイズは上から○○センチ・○○センチ・○○センチ」
 審査官は書類に書き込んだ内容を読み上げる。
「…………」
 キノは全裸のまま、自分の測定データの発表を聞かされていた。
「乳首は○○センチで、乳輪は○○センチ」
「……」
「性器の割れ目は○○センチ! クリトリスは○○センチ!」
「うぅ…………」
 俯いたキノは真っ赤な顔から煙が出そうなほど、激しく恥らっていた。
「肛門の直径は○○センチ! 皺の本数は○○センチ!」
「す、全て知られた……。ボク自身も知らなかったことが全て……」
 やっとのことで服が返され、キノは元の服装に着替えていく。
 その目の前で、審査官は書類をまとめ、カメラを持って検査部屋から出て行った。これらの書類は写真と共に保存され、特に理由がない限り、国が滅びでもしない限り、永遠に破棄されることはないのだとも言っていた。


「あなたは旅の人?」
 パースエイダーを腰に吊るした強そうな女の人が、エルメスを引いて歩いていたキノを見つけて声をかけた。
「ええ、まあ」
「その通りだよ!」
 キノとエルメスは同時に答えた。
「ということは、あなたも検査を受けたのね?」
「……ええ、一応」
 女の旅人は半ば怒っている様子で、
「私もなの。旅をしていて、補給が必要で、しょうがないから入国を求めたら、あんなに厳しいとは知らなかったわ」
 プンスカと撒き散らす。
「隣国のスパイ対策と聞いていますが」
「たぶん、この検査はずっとなくならないでしょうね」
「といいますと?」
「そう、スパイ対策よ。だから厳しくしているの。なのにそれを撤廃させようとして、女性団体のフリをした工作員が、声を高々に上げていつもいつも抗議しているのよ?」
「なるほど、よくわかりました」
 それだけ聞いて、キノはすっかり納得していた。
「え? キノ。どういうこと」
 エルメスが尋ねる。
「つまりね、エルメス。こちらの国は女性団体が工作員の集まりだって見抜いているから、撤廃させようとする抗議が続いている限り、ずっとずっと撤廃されないと思う」
「ほうほう」
「もし、あの検査方法が緩むとしたら、抗議の声が鳴りを潜めて、スパイへの警戒を緩めてよしと判断が下されて、それからになると思う」
「じゃあ、そんな日は来ないね!」
「さあ、わからないけど。来るとしても、ボク達には関係ないくらいの未来だろうね」


 さて、その国の帰りだった。
「出国時にも検査はあるというわけですね」
 キノは再び全裸にされ、審査官に体中を触られていた。腰を撫で、胸を揉み、尻へのタッチを行う審査官の手は、全て検査のためのものなので、反発することはそのまま国に逆らうことと同じになる。
「確かにキノさんですね。いえ、これは本人確認ですので」
 といって、審査官はずっとキノの身体を触り続けた。
「あの、早くして欲しいです」
「いえいえ、慎重に確かめる必要がありますから。あ、それとスリーサイズと乳首と乳輪とアソコと肛門のデータを照合しないといけませんね」
「…………」
 ずっとずっと、イタズラは続いた。


「ボクはわからないという言い方をしたけど」
「うんうん」
「あれは訂正する。撤廃の日は永遠に来ない」
「だね! あれじゃあね!」




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