それを捧げる雪乃


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*ラプンツェルネタです。

     *

 白野蒼衣はふと、一度だけ考えたことがある。
 魔が差す、という言葉。
 <泡渦>と呼ばれる現象を解釈する上、概念上『神』と呼ばれるものを置く。それは人類の意識の遥か底、集合無意識の奥底で眠っており、そこから切り離された悪もの泡が、上へ上へと浮かび上がるものと捉えるわけだ。
 上へ――人々の、意識に向かって。
 そこで、では急に魔が差したとかいった理由で、今まで善良だった人間が発作的に犯罪を犯すようなケースはどうだろう。犯罪じゃなくてもいい。突如思いついたように、思い出したように、何かの事柄を思いつき、それをやりたくて仕方がなくなることなどは――。
 神は全知なので、この世に存在するありとあらゆる恐怖を一度に見てしまう。そして神は全能なので、眠りの邪魔になる、この人間の小さな意識では見ることすらできないほどの巨大な悪夢を、切り離して捨ててしまう。
 そうして浮かび上がった<悪夢の泡>を<泡渦>と呼んではいるものの、童話型の大規模なものは本来ならばもっと少ないはずらしい。
 だとしたら、本当の泡は浮かび上がる過程でもっと細かく分散され、異常現象の欠片さえ起こすことがなくなるほどに小さくなったら、それは人の心やその日の気分といったものに影響を与えるのではないか。
 <保持者>には耐性があるといっても、泡の大きさしだいによっては、気分くらいは変わることがあるのかもしれない。
 別に、ただそういう考え方を思いついたというだけだ。神がいて、悪夢の泡があり、その細かなものが人の様々な心や行動に影響を及ぼす。そんな確証があるわけではなく、本当にふとした思索で、寝る前の考え事で思いついたというだけだった。

      †

 非常に癪なことだと、時槻雪乃は思っていた。
 白野蒼衣の<断章>が暴発したことをきっかけに、神狩屋ロッジに舞い込んだ<騎士>への依頼は、明らかに嫌がらせだと断言できる。
 本来なら――。
 原因も、中心になっている人物も、その人の<断章>の原型になったトラウマまではっきりしている上に、人の目から隠さなければならないほどの異常現象も起きていない。普通なら、これは中心人物を<ロッジ>がケアして収束を待つ。
 そう、本来なら――。

『ラプンツェル』

 雪乃達がその町を訪れる前、『神狩屋』を出てからほどなくして、そろそろ駅に着きかけていた雪乃の携帯に、神狩屋が電話をしてきたのだ。
 そして、<グランニギョルの索引ひき>からの予言を告げた。
 獲物は大きいほど良い。
 しかし、当の依頼をしてきた、田舎のおばさんといった風体の女性は、蒼衣の<断章>暴発についての責任を追及して、あの女としては嫌がらせの意図に違いはない。主婦の集まりのように下らない吊るし上げを行って、そんな手合いが嫌いなんどあ。
 おそらくはこの世で三番目に嫌いなものだ。<泡渦>と、それから自分の<悪夢>の権限である姉の、その次に。
 雪乃は、蒼衣が嫌いだ。
 そしてその蒼衣が、これから雪乃の経験とは比べ物にならない非難に晒される。
 雪乃は、その非難者たちがもっと嫌いだ。
 そしてその大嫌いな連中に、例え蒼衣であっても攻撃されて壊されるのを、何もせずに看過できるような性格では、雪乃はなかったのだ。
 だからこそだ。
 ビジネスホテルの狭い部屋、その浴室。
 大嫌いな連中に壊させてやらないため、雪乃はまずシャワーを浴びていた。決して蒼衣をどう思うわけでもない。嫌い以外の感情など断じて抱いていないのだが――。

 バスタオル一枚だけを巻いた姿で出て行った。

 そんな雪乃の姿を見た蒼衣は、ぎょっとした目を見開き、勢いよく赤らんだかと思うと、真横へ視線を逸らしていった。
「ゆ、雪乃さん。あの……」
 ベッドに座っていた蒼衣は、そのままの姿勢で硬直して、真横を向いた後頭部だけをひたすら雪乃に向けている。
「何よ」
「早く服を……」
 蒼衣の反応などお構いなく、大胆にも雪乃は隣に座った。
 決して、雪乃は別に平然とこんなことをしているわけではない。普通の日常を捨て、そんな雪乃に恋愛経験があるはずもなく、つまり性経験はなく、羞恥心の強い年頃からして、そうそう大胆なことはできはしない。
「暴発されたら、困るのよ」
 と、雪乃は言う。
「そ、それは……」
 申し訳なさそうに蒼衣は俯く。
 違う、そうじゃない。そんなことを言いたいわけではない。
 それでは、追い詰めてしまう。
 しかし、自分で考えてのこととはいえ、結果としてタオル一枚だけの姿で、それ一枚を取れば丸裸となる状態で、異性の隣に腰を下ろしている自分自身に事実に柄にもなく緊張する。頬の強張る雪乃の顔つきは、一見すれば世界の全てが気に喰わない不機嫌そのものだ。
 例えまともに目を向けられない蒼衣でも、雪乃の素肌に意識があり、タオルの内側について気にかけているのがよくわかる。雪乃の姿を少しは見ようと、首が動きそうではあるのだが、理性がそれを抑えてか、雪乃を向きそうで向いていない。
 雪乃としても、これは想像以上の恥ずかしさだ。
 ただこうしているだけで、顔はどんどん赤みを増していき、白かった肌が耳まで染まる。
「暴発、されたら――つまり、あなたは安定する義務があって……」
 精神的に不安定でいるべきではなくて、慰めを与える措置が必要なはずで、だからこそ雪乃はあくまで<騎士>として考えて行動して……。
 何をどう理屈的に考えても、自分に対する言い訳に思えてくる。だが、断じて違う。蒼衣を慰めたいとは思っていない。ただ嫌いな人種が癪なだけで、そして精神的な措置については何か考えておくべきで、もっとも簡単に思いつくのはこういうことだ。
 他人を慰めるやり方など、雪乃はとっくに捨ててしまっている。だからこそ、安直に思いつく方法しか浮かんで来なかった。
 すっ、と。
 雪乃が蒼衣の膝に置くのは、パックに閉じたままのコンドームだ。それを黙って差し出すことが、最大のメッセージだった。
「ゆ、雪乃さん……!?」
「どうするの? アンタは」
「僕は――――」

      †

 非常に恐る恐る、触れれば雷でも落ちて来るのではというほど慎重に、白野蒼衣は雪乃の白い肌へと手を伸ばす。びくびくとした気持ちで肩に触れ、その柔らかさにゴクリと息を呑みながら、雪乃が何も言わないことにホッとした。
「……いいの?」
 蒼衣は尋ねる。
「ここまで来て、言葉にしないとわからないの?」
 確かに布一枚の姿にコンドームと、ここまではっきりとしたメッセージがわからない蒼衣じゃない。
 ただ、これから初めてとなる蒼衣だ。
 思春期の少女の肉体へと踏み込むには相応の勇気がいるし、雪乃としてもほとんど振り絞るべき気持ちは出し切っている。あとは全てが蒼衣しだいという状況で、プレッシャーというか緊張というか、こちらから積極的に手を出さなければ進めない。
「……するからね? 本当に」
 最後通告であるように、蒼衣は力なく尋ねる。
「……しなさいよ」
 口ぶりだけはそっけない雪乃。
「ははっ、ありがとう」
 いつものように力なく笑ってみせると、雪乃はいつものように不機嫌そうな顔をした。
 ゆっくりと、押し倒す。雪乃は特に抵抗せず、ただ蒼衣と決して目を合わせるでもなく、頬が朱色に染まりきった顔を横向きに背けたままベッドに倒れた。巻かれているバスタオルに手をかけても、雪乃は何も言ってこない。
 ゴクン、と息を呑む。

 そして蒼衣は、雪乃のバスタオルを左右に開いて取り外した。

 眩しい白銀の裸体が瞳を照らす。それでなくとも艶やかな肌は、蛍光灯の反射で光沢を帯びることにより、一層眩しく輝きを放つ。半球ドームのような丸い乳房の頂点には、桜色の乳首が咲き飾られ、下には薄っすらとした三角形の毛が生えっていた。
 顔だけは赤面で赤い。
「……雪乃さん」
 恐る恐るといった具合に手を伸ばし、無難な両肩を手に掴む。それから乳房へ近づいて、雪乃が何も言わずに抵抗もしないことをよく確かめて、遠慮がちな手つきながらも、蒼衣はついに乳房を揉んだ。
「――――っ」
 恥じらいか、緊張か。肩の強張った雪乃は目を閉ざす。蒼衣が乳房に熱中して、一心不乱に指を躍らせ続けていると、まだ染まっていなかった耳までもが、しだいに朱色を帯びていく。
「すごく柔らかい」
「そ、そう……」
「下も、触っていい?」
「ふん。勝手にしなさいよ」
 恥じらいに震えた声は、それが限界であるかのように裏返り、表情もどこか羞恥や緊張に歪んでいる。秘所の方へ手をやると、雪乃の肩はピクっと弾み、静かに黙々と愛撫を受け入れていた。
「じゃあ、触るね? 雪乃さん」
 薄く生え揃う三角形の陰毛の毛先と、閉じ合わさった肉貝の縦筋の感触が、蒼衣の手の平全体と指によく馴染む。割れ目にフィットするように絡めた指で、上下になぞる刺激を与え、雪乃はそれに腰をくねらせた。
「――――んっ、ふぁぁっ」
 きっと、喘ぎ声。
 自分の手で雪乃を感じさせたのかと思うと、どことない充足感に満ち溢れ、蒼衣はさらに懸命に指を動かす。感じさせよう、気持ち良くさせようと、割れ目のラインをまわってぐるぐると周囲をなぞっていきながら、やがて突起するクリトリスの肉芽を見つけて弄くりまわす。
「んっ、んぅぅ……ふぅぅ…………」
 息を荒くした雪乃の胸は、呼吸に合わせて上下に動く。その赤面ぶりは熱湯で茹でたあとのように熱く蒸気を放つ勢いにまでなっており、振り乱した髪がベッドシーツに散らかる光景は官能的だ。
「くぅん――!」
 指を挿入してみれば、雪乃は普段から似つかわしくないほどに可愛く鳴く。その声と姿に息を呑み、蒼衣はより熱意を込めて指を出し入れした。
「くはぁぁ……あぁぁ…………」
 雪乃は喘ぐ。
「ぼ、僕もう……!」
 限界を超えた蒼衣は、勢いよくコンドームを手に取った。装着したペニスを突き立て、一気に膣を貫くと、雪乃は苦悶の表情を浮かべて呻く。
「――うっ! くぅぅぅ!」
「雪乃さん……!」
「白野……く……ん…………」
 あとはもう、一心不乱の腰振りだ。処女穴の狭い締め付けを味わおうと、獣のように蹂躙し尽くし、喘ぐ雪乃の両手首を押さえつけては首に吸い付く。幾箇所にも口付けの跡をつけ、大胆なストロークで何度も雪乃を貫いた。
 弓なりに腰を引き、一撃。
「くぁ――――!」
 さらにまた腰を引き、貫く。
「んあぁぁ……!」
 喘ぐ雪乃の髪を振り乱す姿に見入られ、そして肉棒への激しい快楽に取り憑かれ、蒼衣は衝動のままにピストン運動を行っていた。
 ――ニチュ、ニチャ。
 粘液を捏ね合わせるような水音。
 やがて射精に達した蒼衣は、存分にその精を吐き出し、息切れにも似た興奮の息遣いのままに肉棒を引き抜く。
「…………」
「……」
 しばらく、無言。
 ゆっくりと熱が冷めていきように、少しずつ平静を取り戻した蒼衣は、あまりにも自分本位に動きすぎたと、慌てて反省の色を浮かべた。
「ご、ごめん! 僕、つい……」
「……済んだわね」
 雪乃のそっけない一声はいつも通りで、そんなことに思わず蒼衣は安心する。
「ありがとう。雪乃さん」
「別に」
 顔を背けた雪乃は、背中の下に広がったままのバスタオルを改めて巻きなおし、自分の身体を隠してしまう。乳房やアソコが視界から隠れたことに、少しばかり残念がる蒼衣だが、冷静に考えればバスタオル一枚の女の子が目の前にいるだけですごいことだ。
「で」
 口を開くのは雪乃。
「ご感想は?」
「え? ああっ、ええっと――」
 いきなり感想を聞かれても、気持ちよかったとか、雪乃とやれて嬉しいだとか、言葉にすれば下品に聞こえそうなことばかりが浮かんでくる。
「その。雪乃さんと距離が縮んだ気がして、嬉しかったよ」
 などと、言い繕った。
「縮んでるわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」
「あー。ええっと……」
「だいたい、痛かったわよ」
「……ごめん」
「次はもう少し丁寧にしないと、殺す」
「あはは。え?」
 力なく苦笑しかけた蒼衣は、重要な一言に気づいていた。
 次は? 次が、あるんだ。
「ねえ、雪乃さん」
「何よ」
「一緒に寝ていい?」
「絶対に嫌よ」




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