催眠少年は瞳佳を犯す


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 銀鈴学院高校。
 転入初日の自己紹介を乗り切るも、ちょっとした経緯があって、積極的に柳瞳佳と仲良くしたそうな子のタイプには偏りができていた。つまり『占い』や『霊感』の話が好きな子。
 本当はそういうものとの関わりを減らしたいのだったが、今さら否定してまわるのも不自然だろうし、何より右も左もわからない新天地で、せっかく仲良くしてくれようという人達に文句があろうはずもない。

「ねえ……柳さん。ちょっといい?」
「うん?」

 そして帰りの陣部をしかけていた瞳佳は、そう呼ばれて顔を上げた。
 たしか――木茂くんだっけ、と、瞳佳は今日の記憶からその男子の名前を探り出す。瞳佳に話しかけてきた占いや霊感話好きはクラスの色々な層に満遍なくいたが、男の子にまで積極的に寄って来られたのは、たった今これが初めてだ。
 見た目から大人しそうで、オドオド気味で、フレームの太い黒縁眼鏡が、必要以上に地味っぽさを醸し出す。ダンゴのように丸っこい鼻の形と、吹き出物の多い肌に、それに崩れきった顔立ちは、お世辞にも格好いいとは言えなかった。
「なに? たしか、木茂くんだったよね」
 実際に名前を声に出してみて、木茂くんという言い方は、イジメのための意地の悪いあだ名に聞こえなくもないことに気がついた。
「う、うん。あ、あ、あのね。催眠とか、興味あるかなって思って……」
 明らかに喋り慣れていない木茂は、緊張なのか挙動不審に見える震え方で、声の出し方さえもオドオドしている。
 どうしたものか。
 きっと勇気を出して声をかけてくれたのだろうし、友達になりたいと思ってくれるのは、男子であっても嬉しい申し出ではあるが、少しばかり考えてしまう。
 こういっては悪いが、いかにも不器用そうで顔も悪い、たどたどしい木茂の振る舞いを見ていると、この人に必要以上に好かれたら嫌だなと、残念ながら思ってしまう。
 まさかストーカーとまでは言わないが、執拗に声をかけ、瞳佳と仲良くなりたがる。
 その男子が、これ。
 失礼なのはわかっているが、少なくとも第一印象では気になる異性の範疇には入らない。それに女子のたしなみというか心得として、いかにも面倒になりそうな男の子は、どうにか軽く受け流して身を守るのも、トラブルを避けるためには必要だ。
「催眠は、どうかな。占いとはまた違うし……」
 ここは『占い』や『霊感』とは別物だと言い切って、せめて催眠だけでも、興味がないということにしておこう。
「こ、これ見て欲しいんだ」
 木茂はそう言って、スマートフォンの画面を見せてきた。
 そして、見てしまった。
「う……!」
 くらっとした。
 急な眩暈に見舞われたかのように、立ちくらみのように頭が揺らぎ、ぼんやりとした心地にさせられる。眠りに入る直前の、だんだんと意識が閉じていく感覚と共に、ぼやけてやまない視界の景色が、完全に見えたものではなくなった。
 意識が、消えた。
 それはしかし、一瞬のことだった。
「え? あれ?」
 一瞬で目が覚めて、たった今の感覚に瞳佳は困惑した。
 何だったのだろうか。
 画面を見た途端だったが、何か起こったのだろうか。
「柳さん。僕と、友達になってくれない?」
「まあ、いいけど」
 瞳佳は軽く受け答えた。
 転入初日で声をかけてくれた男の子だ。わざわざ勇気を出してまで、ありがたい申し出をしてくれたのだから、それを断るのは『失礼』だし、受け入れるのが『当前』ではないか。断る理由がなかった。
「アドレスを教えてくれる?」
「あ、うん、いいよ」
 瞳佳は気軽に頷く。すでにみひろや積極的な何人かとアドレスも交換していたので、今さら拒否感はない。一度バッグにしまっていたスマートフォンを出して、何だか緊張気味にしている木茂とアドレスを教え合う。木茂が自分のスマートフォンをあまり良くない手際で操作しながら、瞳佳に言った。
「じゃあ、メッセージ一つ送るから驚かないでね」
「うん」
 瞳佳が快く頷いて、数秒後。
 瞳佳のスマートフォンが通知音を鳴らし、送られてきたメッセージを表示した。
 そこには。

『セックスしよう』

「……」
 見た瞬間、瞳佳は固まった。
 目を疑ったが、どう見てもセックスしようと書いてある。
 え?
 え?
 しばらく目を丸くして、瞳佳はそのメッセージを見ていた。
 どういうことだろうか。

 この拒否感のなさはなんだろう?

 常識的にはもっと引いたり、品性を疑うものだが、そうした感情が沸きもしない。それに転入初日だというのに、ここまで積極的に誘ってくれるのが、嬉しくすら思えるのだ。
 初対面でセックスなんて、普通は嬉しいだろうか。
 でも、嬉しい。
 何故なのだろう。
 瞳佳は、困惑した曖昧な笑いを浮かべて言った。
「……まあ……いいけど」
「あ、ありがとう。もう一通送るから、待っててね」
 そう言って文字打ち操作に入り込む木茂は、次に場所や日程のことを送ってきた。怪しまれないように別々に校舎を出て、さっそく待ち合わせの形で落ち合おうというものだった。
「……えーっと、また明日ね?」
 またすぐに会うことになるのに、また明日というのもおかしいが、曖昧に手を振って、すると木茂も応じて教室から出て行った。
 転入初日から彼氏ができるのはさすがに目立つ。
 まあ、付き合うわけではないのだが、二人一緒に行動しては怪しいだろう。
 木茂は友達だ。
 ただし、友達は友達でも、これからセックスフレンドになる仲である。

     ***

 渡り廊下をいくつか通ると、見たことのない教室ばかりが目に入るようになり、やがて明らかに使われていない教室が並んでいる一角までたどり着く。金属製のドアがあると、メールに書かれた案内を見て、その通りのドアを見つけて全身で引っ張って開ける。
 そこは人の気配もない、空気に埃の臭いさえ感じる静かな廊下だった。
 がちゃん、と開いたドアを閉めると、すでに遠くなりつつあった学校の喧騒が、ほとんど聞こえなくなった。そして代わりに、この建物の中に広がっている空気の涼しく冷えて停滞した静寂が、耳の中に入ってきた。
「……ここなんだね。木茂くん」
 そこに木茂は立っていた。
「ここの教室を使おうと思って、あんまり人が来ないから」
 誰もいない、静かな静かな教室で、埃を拭き取った綺麗な机が、何台か寄せ集められ、くっつけてある。これがベッドの代わりなのだと、言われるまでもないく理解した瞳佳は、これから自分が木茂とセックスをする事実に緊張してきた。
 しかし、転入生が初日でクラスの男子と性交するのは、何もおかしくない。
 当然、常識、断るのは失礼。
「もう一度、画面を見てもらえる?」
「うん。見るだけ?」
「見るだけでいいよ」
 木茂のスマートフォンに表示されているものの正体は、一瞬のうちにくらりとして、眩暈に襲われたように視界もぼかす瞳佳にはわからない。辛うじて理解できるのは、見たが途端にフラフラして、意識が眠ることだけだ。
「これから柳さんから羞恥心がなくなります」
「…………」
 瞳佳は、目が虚ろな人形でしかない。
 木茂の声など届いていないようにしか見えなかった。
「平気で丸裸になりますが、手の平をパンって叩く合図によって、失われた羞恥心が蘇ります」
「…………」
「だけど、隠せません。隠してはいけません」
「…………」
 瞳佳は始終、何も見てはいなかった。瞳の焦点はどこにもなく、視界にある全てのものが瞳佳の意識外にあった。
 それも、数秒。
 ハッと意識を目覚めさせると、今まで自分が何をしていたのか思い出せない瞳佳は、ちょっとしたパニックのようにキョロキョロとあたりを見回した。
「あ、あれ? 私、立ったまま寝た? って、そんなわけないか」
「うん。大丈夫。ちょっと、ぼーっとしていたみたいだけど」
「そうなんだ」
「ところで、全裸になってくれる? ああ、靴下は残した方がいいな」
「全裸か……靴下だけ残っても……」
 何も隠せない衣類など、裸にされてはないに等しい。
 しかし、友達の頼みとあっては服を脱ぐくらい普通のことで、瞳佳は特に躊躇いなく制服を脱ぎ始めた。
 リボンを解き、ボタンを外し、だんだんと肌を晒していく瞳佳は、スカートまで脱ぎ落とすことにより、純白の下着姿となっていた。背中に両手をまわし、ホックを外し、ブラジャーも外したあとは、最後にショーツを下ろして完了だ。
「気をつけ」
「はいはい。どうぞ、ごらんあれ」
 裸を見せるくらい何でもないので、言われた通り靴下のみを残した状態で姿勢を正し、食い入るように見つめる木茂の様子でも眺めていた。
 おっぱいに顔を近づけ、胸ばかり見ていたと思ったら、おもむろにしゃがむ木茂は、アソコに生えた毛の部分を凝視する。
 それにしても。
 転校初日の人間関係は、こうして男子の友達までできたわけで、順調といえるだろう。霊感などと、うっかり口走ってしまったときは、やらかしてしまったと焦ったものだが、結果的には話しやすい相手もできた。
 こんな風に裸を見せてあげるのは、親睦の証というべきか、いたるところを夢中になって視姦している木茂の喜んでいる姿を見るに、ひとまずの安心を得られた感じがする。あとは余計なことに巻き込まれないように気をつければ、退学などと不名誉を賜ることはないだろう。
 いきなりだった。
 木茂が両手を打ち鳴らす。

 パン!

 それが合図のように、瞳佳は今の自分の恥ずかしさを思い出した。何でもなさそうにしていた瞳佳の顔は、急速に赤みを帯びていき、触れれば熱がありそうなほどの羞恥に歪んだ表情が浮かび上がった。
「え? あれ、私――ハダカ!?」
 馬鹿な、そんな馬鹿な――。
 いや、自分で脱いだのだ。頼まれたから普通に脱いで、気をつけの姿勢も取って、どうして自分が平然と裸体を晒したのか、瞳佳自身にも理解できない。
 反射的にしゃがみ込み、両手で恥部を隠そうとする気持ちが瞳佳にはあった。
 だが、体がそのようには動かなかった。
「え? あれ、おかしいな……」
 手足が言うことを聞かない。動かない。完全に動けないわけではないが、どうやら隠そうとする意志には反応してくれないらしい。考えてもみれば、自分で脱いでおきながら、それを隠すだなんて、友達に対して『失礼極まりない』行為じゃないか。
 となると、今になって隠すわけにはいかない。
 だが、恥ずかしさは想像以上だ。
 乳房の発育具合も、乳首の色合いも、下の毛やお尻の形も、木茂は女としての部分を全てくまなく視姦している。
「写真撮らせて?」
「え? まあ、ちょっとだけだよ」
 瞳佳の許可を確認するなり、すぐにスマートフォンのカメラ機能を呼び起こした木茂は、まず全裸直立が画面にすっかり収まるようにパシャリと押す。カシャ、っというシャッター音声が耳に入ると、ああ撮られたんだと、事実が明確に伝わった。
 ちょっとだけと言ったのだが、木茂は何枚も撮っていた。乳房のアップや性器のズームに、お尻まで、そんなに必要なのかと疑問になるほど、執拗にシャッターを切り落とし、瞳佳の裸体が画像記録として木茂のスマートフォンに蓄積していく。
 撮った写真の処遇はいかなるものか。決まっている。
 一人で、家でじっくり鑑賞するのだ。男の子はオカズを使ってオナニーをする生き物だと、瞳佳も知識的には知っている。瞳佳が寮で勉強したり、寝たり食べたり、私生活を営んでいるあいだにも、自分の裸をネタに木茂が自慰行為に耽るかもしれない未来を思うと、正直なところ何も言葉は出なかった。
 自分がいかに性の対象になっているかと思うと、どうにも肌が疼いてきて、下腹部が引き締まる感覚を瞳佳は感じていた。
「ねえ、柳さん。そろそろセックスしよう?」
 あー、そうだった。と、瞳佳は思わず苦笑いした。
 実のところ、自分ではわからないが実際にそういう顔をしているのだろう。他人から「人が良さそう」と見られて色々と声をかけられたり、頼みごとをされたりするのは、瞳佳にとって日常茶飯事だ。それで妙なことに巻き込まれるのもよくあることだ。
 そしてそういう頼みに、結局、ほいほい応じるのも。
「……わかった。いいよ」
 友達とのセックスなど『普通』である。
 なんだかんだで、実際人がいいのが瞳佳という人間だった。

***

 寄せ集めた机によって成された固い板のベッド。
 上履きを脱いだ瞳佳は、やはり靴下だけは履いているまま、机に上がって横たわる。すぐに木茂も上に来て、犬のように息を荒げていた。
「や、柳さん。これから、せ、セックスするけど、別に嫌じゃないよねぇ?」
「うん。友達なら普通だし、嫌ってことはないけど、でも初めてだからちょっと……」
「……へへっ、き、緊張する?」
「まあ、ちょっと……」
 生まれて初めてエッチをするのに、何の感慨も沸かないはずはない。早鐘のように鳴り続ける自分自身の心臓の音が聞こえて、表情もどこか強張り、そしてこれから行う胸を揉んだり挿入なりといった数々のことに今のうちから赤面した。
「触るよ」
「うん」
 瞳佳が頷くと、木茂は真っ先に胸を揉む。
 ムカデが這うような、ウネウネと指の踊った手つきは、乳房の皮膚をまんべんなく絡め取ろうと蠢いている。
「んっ、んぅぅぅ……」
 すぐに瞳佳は感じていた。
「はぁ……! はぁっ、柳さん……!」
 木茂は鼻息を荒げた。
 快楽と緊張と、それから恥ずかしさに目を細め、頬を朱色に染めている表情は、男にとっては魅力の塊でしかない。すっかり瞳佳の顔に見惚れた木茂は、より一層と指使いを活発にして責め走る。
 鎖骨を撫で、二の腕を撫で、ヘソをくすぐり、腰のくびれをまさぐりまわす。太ももに手の平を這わせてやり、それこそ全身という全身を撫で回した木茂は、とうとうアソコの割れ目にも愛撫を施していた。
「んくぅ……! あぁ……ふぁぁ……!」
 ラインに沿って指の腹が上下に動けば、瞬く間に滲み出る愛液が、活性油となって滑りをどんどん良くしていく。瞳佳の様子を見ながらコツを掴んで、しだいに上手に責めていく木茂は、陰核包皮の内側から突起してくるクリトリスの存在に指で気づいた。
 くりくりと、ぬりぬりと、指の腹でクリトリスを苛めた。
「あぁ……! あっ、あぁぁ……!」
 瞳佳の乱れている姿が、その髪を左右に振り乱している色気の顔が、ますます木茂を興奮させていた。そして瞳佳自身、自分のこの乱れ具合を見ることで、木茂がより鼻息を荒くしていることを何となく理解していた。
 その責めは、さらに続いて数分以上。あるいは十分以上なのかもしれない。喘ぎ乱れる最中に時間など確かめる余裕はないが、長々と続いた愛撫の末に、木茂は言い出した。
「……い、挿れるよ! 柳さん!」
「うん。わ、わかった」
 緊張しつつ、瞳佳は静かに股を開いた。
「ふひっ、へへへぇ……」
 いかにも鼻の下を伸ばして、M字気味となった瞳佳の股へと、木茂は自分の肉棒を押しつけて、切っ先をやや沈めることで膣口に狙いを定める。
 いよいよ処女を失う瞬間がやってきて、瞳佳はさらに緊張で強張った。
 こんなこと、今まで誰ともしたことがない。
 本当にどうして、自分は初めて会ったばかりの男の子に――いや、せっかく友達になってくれたんだから、これくらいは『普通』のことで『何もおかしくない』のだ。
 だから、構わない。
 ここで初めてを体験しよう。

 ずにゅぅぅぅぅぅぅ――。

 一本筋だったアソコのラインへと、亀頭が沈んでゆくごとに、その太さに合わせて穴幅を広げる膣口は、破瓜の痛みを伴いながら肉棒を飲み込んでいく。
「うっ、くぅ……」
 体内に異物が侵入してくる違和感に悶える瞳佳は、この感覚に耐えよう耐えようと、一生懸命なまでに深呼吸を繰り返す。そうすれば何かが和らぐ気がして、とにかく大きく息を吸い、吐き出して、少しでも楽になろうとした。
 そんな瞳佳の奥を目掛けて、みるみるうちに一ミリずつ、ゆっくりと肉棒は進行する。袋を絞り込んだかのような膣壁の密閉は、肉槍の先端によって広げられ、ついには竿の半分以上までもが入り込み、そのまま根元までもが瞳佳の内部に収納された。
「あぁぁ……! あ、は、入って…………!」
 瞳佳の全神経が、意識が、肉棒に向けられた。初めて入ったものの猛烈な存在感は、それだけで意識を引きずり、肉棒以外のことをたった一瞬でも考える余裕がない。入っている、根元まで、初めてで、硬くて太くて、そればかりのことが瞳佳の心と脳を占拠していた。
「う、動くよ? 動くからね? 柳さん……!」
 木茂が腰を揺さぶると、瞳佳の中で肉棒の存在感はますます膨らみ、もう心の中にも挿入されている心地がした。

 にゅる……! にゅる……!

 肉棒の太さに対して、窮屈なはずの瞳佳の穴は、愛液のおかげで想像以上にあっさりとピストン運動を通している。
「……あっ! あぁっ、あくっ、むっん、んぁっ」
 快感か、圧迫感か。それとも処女だからある性交痛か、あるいは木茂が上からかけてくる重心なのか。自分がどうして喘いでいるのかも、瞳佳にはわからなくなってくる。肉棒が出入りしている事実だけで頭が染まり、とうとうそれ以外の全てが、瞳佳の頭から消失した。
「ああっ、気持ちいいよ? 気持ちいいよ? 柳さんのナカ……!」
 木茂はせっせと腰を振る。
「あぁぁ……! いっ、うぅぅ……! んぁっ、はうぅぁぁ……!」
 瞳佳はひたすら喘いでよがる。
 あとはもう、射精のときまで延々と腰振り運動が続いていく。木茂が瞳佳を味わいつくすばかりである。下腹部に力の入った膣圧が、ぎゅっと肉棒を掴む快感を木茂は楽しみ、そして瞳佳の全身を使った色気あるよがりを見るために、一心不乱に奥を貫いていた。
 全てが終わる頃には、瞳佳はただ放心しきっていて、真っ白な頭の中には、何一切の思考といえるものなどありはしなかった。
 初体験を通した精神的な驚きと、疲弊しきった感じとで、目が少しばかり虚ろな瞳佳は、事後の写真を撮られていることに気づきもしない。シャッター音声が何となく聞こえたが、生きた人形でしかない瞳佳には、撮られている自覚など持てなかった。
 ただ、またあのスマートフォンの画面を見せられて。
「気持ちよかったね? 最高だったね?」
「……うん」
 意識が回復したわけでもなく、虚ろな瞳を維持したまま、そう言われればそう答えた。
「またしようね?」
「うん」
「誘ったら、きちんと応じるんだよ」
「うん」
「でも、僕達の関係は内緒だよ? いいね?」
「うん」
 ただ、うん、と返事をするだけの機械と貸して、そうやって刷り込みを受けてから、さらにまたしばしの時間が経ち、本当にやっとのことで意識の回復が始まった。
 ああ、そっか。
 ここでセックスしたんだっけ。
 瞳佳はごく自然に事実を受け入れ、友達である木茂と別れてから、寮での夜を過ごした翌朝には登校して、何事もないように一日を過ごす。
 まるで、何もなかったように。
 仮に友達から木茂について聞かれても、セックスをしたとは決して言わず、単なる友達で週に何度かメールをしなくもない程度と答えている。瞳佳の中で木茂という男は、実際にそのくらいの存在で、にも関わらず、間違いなくセックスフレンドだった。
 たまにメールが来れば、都合に応じて誘いに乗る。
 それは別に普通のことだし、セックスは気持ちよくて面白い。ちょっと友達と遊んでいるだけのことだから、瞳佳はそれを何とも思わない。

『ねえ、瞳佳ちゃん。よくないと思うよ?』

 ん? 何が?
 と、そのメールを見るに、瞳佳は本気で首を傾げた。
 確かに不純異性交遊はよろしくないが、木茂は正式なセックスフレンドで、性交しても問題のない相手だ。
 別にいいじゃないか。
 おちんちん、気持ちいいんだから――。

      ***

 誰の目から見ても、柳瞳佳の様子に変わりはない。
 もちろん、転校してまだ日が浅く、瞳佳の日頃の様子といっても、友達みんなが瞳佳についてそこまで詳しいわけではない。しかし、それにしたって、日常的に授業を受け、休み時間には友達と話をして過ごす様子には、特筆しておかしな様子はないのだった。
 だが、間違いなく瞳佳の日常は歪んでいた。

 ねえ、今日空いてる?
 男子トイレでしたいんだけど。

 ああ、またか。
 まあ今日は暇だし、付き合ってやろう。

 木茂からのメールを見て、瞳佳の心はそんなものだった。
 普通として、受け入れていた。




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