深雪 羞恥の定期検査(前編)


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 定期検査を迎えた当日。
「嫌ですわ。検査だなんて……」
 登校前の朝になって、深雪は達也の胸元へ縋りついた。
 助けを求めるような上目遣いを向けられて、どうしたものかと困り果てる。我が儘を聞いてやりたいのは山々だが、ここで深雪の願いを叶えても、本人のためになりはしない。
 兄として、言って聞かせなくてはならないところだ。
「仕方ないだろう? 深雪」
「ですが……」
「それが学校で定められた規則なんだ。
 俺にはどうにもできないし、お前自身のためにも検査は受けた方がいい」
 深雪は実に悲しげな表情になり、それを見た達也は胸を締め付けられた。
 妹にきちんと検査を受けさせるのが兄の役目とはわかっているが、問題の検査の厳しさを思うと深雪が可哀想なのも否めない。
 国立魔法大学の付属教育機関である第一高校は、魔法技能師育成の為の国策機関だ。
 この学校のノルマは、魔法科大学、魔法技能専門高等訓練機関に、毎年百名以上の卒業生を供給すること。
 供給を安定させるためには、大切な一科生徒の健康は学校側が責任を持って守らなくてはならない。
 世の中には恐ろしい病気が存在する。医療科魔法の発展により、病気による患者の死亡率は激減しているとはいえ、決してゼロではない。いくら治療魔法が優れていても、自覚症状のないケースでは、本人が病気に気づかない。知らず知らずのうちに病気が進行し、気づいた頃には手遅れという事態を防ぐには、定期的な健康診断以外に手段はない。
 一科生徒が何らかの理由で魔法を使えなくなったり、退学した場合の穴埋め要因として二科生徒がいるとはいえ、やはり一科生徒を卒業させるに越したことはない。万が一の病気は検査で対処できるのだから、しておこうというのが学校側の考えだ。
 残念ながら、検査内容は非常に徹底的だ。診察のため、誤診を防ぐため、どんな小さな病気も見逃さないため、検査を受ける生徒には脱衣が要求される。医師の目線から細かく肌を観察し、わずかな皮膚病さえも早期発見早期治療を心がける。
 必ずしも女医の都合がつくとは限らないので、男の医者が女子生徒の裸を『診る』ケースはザラである。
 定期検査とはいえ、深雪は他人に肌を見せることに抵抗があるのだ。
 だから複雑だ。
 何があっても妹を守るのは達也にとって絶対事項だが、一時の羞恥心から妹を守った結果として、万が一の病気を見逃しては意味がない。
 せめて、達也自身が医者になれば深雪の心も救われるだろうか。
 いや、兄が妹の裸を見ればいいという問題ではない。仮に達也が検査担当に成り代わるような真似が出来たとして、赤の他人よりも家族の視線の方がより恥ずかしいはず。今回ばかりは言うことを聞かせるしかない。
「検査なんて受けたくありません!
 だって、はしたない姿を晒すだなんて破廉恥じゃありませんか!」
 妹は兄の胸元へ縋りついたまま、体を押し付けながら喚いてくる。
「深雪、医者という存在に他意はない。
 彼らにはあくまで診察という気持ちしかないぞ?」
 達也はくびれた腰へ手を回し、するりと撫でて抱きとめた。
「ですが……」
「医者は患者の身体を診察対象として認識している。
 治療すべき症状を探り、適切な処方を施すに過ぎない」
「わかっています。わかっていますが……」
 頭でわかっても、気持ちで納得できない、といった素振りだ。
「ではこうしようか。
 お前がきちんと検査を受けたら、深雪の言うことを何でも一つ聞いてやろう」
 提案した瞬間、深雪の表情がパッと輝いた。
「な、なんでも!? 本当ですか!」
「……あ、ああ。あまり無理を言われても困るが、大抵のことなら何でも聞くよ」
「でしたら、夜中に添い寝をして頂いてもいいのですね?」
 玩具を与えられた子供のように深雪は喜ぶ。
「何故そんな……。まあ構わないが」
「一緒にお風呂に入って頂いてもいいのですね?」
「それは……どうだろうか……」
 そんな事を本気で要求されたら、水着でも着させて凌ぐくらいしか思いつかない。
「深雪は今のお兄様の言葉を絶対に忘れませんよ?
 今から撤回しても、もう遅いのですからね」
 深雪はきっぱりと言う。
「……だろうな」
 本気で何を要求してくるかわからない深雪を前に、達也は半ば苦笑いして汗を流した。
 さて、どうしたものか。
 添い寝か風呂までなら一線を保てるとして、もし、もっと生々しい願いを言われたら、果たして約束を守らないと深雪は怒るだろうか。
 添い寝、風呂。
 あるいは別のスキンシップ。
 せいぜいその程度で済むことを達也は願った。

        ◇ ◇ ◇

 深雪は自分の格好を気にしながら、尻をぺたりと椅子に乗せ、教室に着席していた。両腕で胸を覆い、肩を縮めて、自分の惨めさに震えながら下ばかりを見つめている。深雪以外の女子生徒も深雪とほぼ同じ状態だ。
(このようなはしたない格好で教室にいるなんて。
 学びの場で罰当たりな気がしてしまいますわ……)
 深雪は自分の惨めさに打ちひしがれた。深雪以外の教室にいる限りの女子生徒も、全く同じ気持ちを抱いている。
 この学校の定期検査では、効率を最優先する関係上、女子生徒であろうとショーツ一枚になるよう指示される。
 もちろん男女別々に実施され、女子の検査が行われる最中、男子生徒は一定エリア内への立ち入りを禁止されるが、仲間内の視線がなければ気持ちが軽減されるわけではない。こうして脱衣の指示を受け、裸体を強要されること自体、女子生徒に屈辱感を与えるには十分だ。
 よって深雪も、他の生徒も、今は服を着ていない。
 そして、その時。
 教室の戸を開いて、男性教師が現れた。
「ようし、みんな集まったな」
 男が教卓についたことで、深雪はますます頭を落とした。
 効率を考えての裸だが、時おり恥ずかしがって脱がない女子がいるという。それでは逆に時間を浪費するため、女子生徒がきちんと指示に従い、ショーツ一枚になっているかの確認に来たのだ。
 今の高校に担任という制度はなく、授業などは端末によって行われるが、女子の裸という観点からデジタル機器は使われない。もし端末画面を通じて女子の裸を確認すれば、画面を録画ないしキャプチャする事で、生徒の猥褻なデータが保存される恐れがある。教師自身による犯行もそうだが、何よりも外部からのハッキングを防ぐためにはアナログが一番だ。
 よって、男性教師がわざわざ女子の教室へ赴いた。盗撮を防ぐためのアナログでありながら、しかし女性教師を出す配慮はない。裸見たさに男性教師がジャンケンをしていた事実など、深雪には知る由もない事だ。(とはいえ、今のところ盗撮事件は起きていない)
「起立!」
 教師の指示で、生徒達は一斉に立ち上がる。
「気をつけ!」
 両腕で胸をガードしていた生徒の面々は、躊躇いながらも腕を横へ下ろしていき、よそよそしく姿勢を正した。
(……ああ、惨めです)
 ぐったり頭を下げながら、顔を赤くして深雪も気をつけの姿勢を取った。こんな姿にさせられて、腕で胸を隠すことだけが、この状況での唯一の羞恥心を和らげられる行為だが、教師の指示一つによってそれさえも封じられた。
 起立、気をつけで背筋を伸ばしたショーツ一枚の女子達を眺め、教師は一人一人の顔をゆっくりと確認しながら、きちんと脱いでいることを確かめる。
 特に教師の目を引くのは、深雪の裸体だ。
(……あの先生、こちらを見ていらっしゃるわ)
 深雪は初々しく、しかし悔しげに恥らった。
 できることなら、初めて肌を見せる相手は兄が良かった。それをどこの馬の骨とも知らない教師に見られるなど、無念で無念でたまらない。今すぐにでも逃げ出したいくらい、この状況が嫌で仕方がなかった。
 深雪はふんわりと雪を積もらせたような肌をしている。きめ細かく、粉雪がキラキラ光るような雪原の素肌に、芸術的カーブをなす腰のくびれ。プルンと丸く膨らむ、マシュマロのように柔らかい乳房からは、可憐な桜色の乳首が突起していた。
 ショーツはどこまでも白に使い薄緑色だ。淡いエメラルドに輝くような布の生地には、グリーンのレースが通され、優美で華やかに大切な部分を包んでいる。おしゃれ感がありながらも派手すぎず、むしろ大人しく見える。清楚な深雪に良く似合ったショーツである。
 それを、教師は眺めた。
(どうして深雪ばかりを……)
 深雪はみるみると赤面し、まともに前を向けなくなり、俯いた。教師はここぞというばかりに裸をチェックし、気に入った子の裸体を網膜に焼き付けているが、ひときわ美麗な深雪に視姦が集中するのは当然のことだった。
「では廊下に並んで移動する。全員、外へ出ろ!」
 女子達は再び胸を覆い隠して、ゾロゾロと教室を抜けていく。廊下で一列に並び、深雪もその順番の中に加わり、廊下移動が開始された。
(こんなのってありませんわ……)
 深雪は嘆いた。
 服を着た男の背中に、ショーツだけの女子がついていく。教師は裸の生徒を連れ歩く優越感に浸り、深雪達は奴隷のように扱われる惨めさに打ちひしがれる。腹、腰、内股。本当なら衣服に包まれている部分に風の通気が触れ、自分が裸であることを余計に実感させられた。
(こんなのって……)
 脱衣指示には靴下も含まれるため、深雪を守る布は完全のショーツのみ。生徒はそれぞれスリッパを履き、肩を縮めながら無言で歩く。深雪はただ、奴隷の烙印を押された気分を味わいながら、悲しい気持ちで歩みを進めた。
 こんな検査は嫌がる女子は必ずいる。抗議の声が上がった事も過去にはあるが、効率良く生徒の健康を管理するのも学校の義務だとして、それらはことごとく一蹴されてきた。
 この学校には入学した頃から優等生と劣等性が存在する。
 しかし、女子生徒の優等生の立場の裏には、定期検査での辱めを受ける対価があった。

        ◇ ◇ ◇

 第一に行われるのは内科検診。
「司波深雪です。よろしくお願い致します」
 深雪は礼儀正しく会釈をしてから、内科医の前に置かれた丸イスへ腰掛ける。ショーツの尻がぺたりと潰れ、もじもじと手遊びでもするように恥らった。
 診察が開始され、乳房の狭間へ聴診器が当てられる。金属の冷気が皮膚に染み、深雪の恥じらい顔が染まっていく。
(男性の手がこんなに近くに……)
 ふんわりとした優しい膨らみの隙間に手を置かれ、今にも接触してきそうな緊張で深雪は硬くなる。真っ赤な顔を強張らせ、緊張で上がった心拍数が内科医の耳に伝わっていた。
「息を吸って?」
「すー……」
「吐いて」
「はー……」
 内科医な淡々と呼吸を取らせ、聴診器の音に集中している。美しい乳房に関わらず、彼は医師としての診察を真っ当するのみだ。
 しかし、立ち合いの教師の視線がある。
(み、見てますのね……)
 深雪のちょうど横に立つ男性教師は、遠慮も無しに深雪を見下ろし、上から乳房を眺めていた。舐めるような視線が這い回り、深雪は悲劇を嘆く気持ちに浸っていた。
 じぃ、と。
 まるで自分には見る権利があると言わんばかりに、男性教師は腕を組んで胸を張り、やや偉そうな顔で深雪の胸を凝視する。堂々とした視姦で、誤魔化したり、目を背ける素振りは一切なかった。
(お兄様でもない殿方にこんなにも肌を……)
 深雪は顔を歪める。
 ただ、胸を見られる恥ずかしさだけではない。緊張か、生理現象か。深雪の淡い乳首は突起しており、摘めばコリコリしているのがわかるほど、最大限に尖っているのだ。
 体が反応してしまっている。
 それを見られる。
 屈辱に重ねて、二重の羞恥が深雪を苦しめ、顔つきはこれ以上ないほど歪んでいった。羞恥心を叫ぶ赤面の表情が手に取るようにわかった。
(こんなことに耐えろだなんて、お兄様は残酷ですわ)
 聴診器が胸元を動き、今度は右乳の下へ当てられる。それが左乳の下、それぞれの乳房の真上と、移動を繰り返す。ひとしきりペタペタ動いた後は、背中を向けるように言われて深雪はくるりと丸イスを回転させる。
「深呼吸お願いします」
「すー……はー……」
 横目でチラチラ、教師の視線を気にしながら、深雪は大きく息を吸って呼吸した。
 ひとしきりの聴診が済むと、内科医はうなじへ手を伸ばしてリンパを調べ、問診で最近の体調や生理は順調かなどの質問を行い、それらが終了した所で第一の検査からは解放された。

        ◇ ◇ ◇

 第二、第三の検査。
 眼科検診、耳鼻科検診では胸を隠していられたのが幸いだ。診る場所は顔にあるので医師の視線が乳房へ当たることはなく、そして腕をどかす必要性もない。
 視姦から身を守れる安心感があった。
 だが、次の検査を思うと頭が下がる。
 次はモアレ検査が控えているのだ。

        ◇ ◇ ◇

 モアレ検査は脊柱検査・側わん症検査とも呼ばれ、骨格の歪みを調べるものだ。骨盤から背中全体にかけて、背骨や肩の肩甲骨が正常に整っているかを確かめ、もしも歪みが確認されれば、専門家の指示に従い矯正しなくてはならない。
 検査方法はモアレ式体型観察装置による撮影検査、または視触診。
 学校によって、どちらか、または両方が採用されている。
 脊柱側湾症の多くは小学四年から中学三年に発生するとされ、学校健康診断においてもその時期に検査が実施される場合が多い。深雪が通うのは高校だが、注意が必要な時期が過ぎた女子生徒達にも、念には念をとこの学校では検査を行う。
 そもそも健康診断自体が、自身に病気がないかを念のために確認する行為だ。実際に症状が発見される人数比は少ないが、その少数を炙り出すことに意味がある。
「司波深雪さん」
「はい」
 順番がまわり、名前を呼ばれた深雪は列の先頭から前へ出る。
 視触診を受けるため、深雪は検査担当医に背中を見せた。
 ここでは視触診と撮影による検査の両方が導入されているが、まず初めに行うのは視触診の方である。そちらを終えてから、同じ室内にある別の列へ並び直し、そして撮影を受けてもあれ検査は終了となる。
 深雪はその視触診の段階だ。
 直立で姿勢を正し、背筋を真っ直ぐ伸ばす。その正面に男性教師は堂々と立ち、深雪の全身を頭の上からつま先まで、思うままに眺め始めた。
(そんな場所から……)
 深雪は赤らんだ。教師が存分に視線を突き刺し、胸とショーツを凝視し、目を怖いほど大きく見開いている。だというのに、検査中である深雪は勝手に動くわけにはいかず、背筋を伸ばした姿勢をきちんと保たなくてはならない。
「動かないで下さいね?」
「……は、はい」
 声も震えた。
 モアレ検査を担当する男が、深雪のきめ細かな白い背中に顔を近づけ、背骨が歪んでいないかを調べ始める。触診のために手をあてて、皮膚の内側を探る手つきで真っ直ぐ骨を辿っていく。指のくすぐったさに身悶えし、息が当たってくるのに甘く疼くような鳥肌を立てていた。
 後ろで背中を観察する男と、前から深雪を眺める教師。
 両面焼きのように前と後ろを視線で焼かれ、それでも耐えることしか許されない。
「前屈して下さい」
「……はい」
 腰をくの字に折り曲げて、担当者は肩甲骨をチェックした。もしも骨格に異常があれば、背中を前へ倒した際の肩の高さが左右でズレる。しかし、特に異常のみられない深雪の肩甲骨は正常に整っていた。
 すると、まず視触診は終了する。
 問題の撮影での検査へ移ることになり、列へ並んだ深雪はやがて順番を迎える。
「では、撮影板の方へ背中を合わせて下さい」
 撮影での検査にはモアレ式体型観察装置という専用機器が使用され、背中の画像を審査することにより歪みの有無を正確に判断する。その際に透明な撮影板へ背中を合わせ、両足はきちんと揃えて気をつけの姿勢を取る。
 今、撮影位置についた深雪の背中へ向け、撮影者がカメラを覗いている。検査専用のカメラとはいえ、機材を知らない生徒にとっては、それは普通のカメラを三脚台に立てて女子の裸を撮影する光景に見える。
 長い黒髪は前へどけ、深雪はきちんと背中を露出した。
「ショーツを下げて下さい」
 深雪の中で、緊張感が一気に高まった。
 骨格の検査は尾てい骨にかけてまでを調べるため、履いているものを一定の位置まで下げる必要がある。尻たぶを丸ごと出す必要はないが、半分は露出しなければ、尾てい骨の位置には届かない。
 当然、教師は深雪の尻を楽しみにしている。
(……お兄様はきちんと検査を受けるようにおっしゃりました。
 これはお兄様の言いつけなのです。深雪はきちんと我慢します)
 ただ兄を想うことで心を保ち、嘆きたい気持ちを堪えながら、深雪は両手でショーツをずらしていく。下げられていく布地から尻の割れ目が顔を出し、その直線のラインはみるみる長さを伸ばしていく。
 やがて、半分。
 深雪の可愛いお尻が綺麗に半分、ショーツのゴムに締められ、その部分だけ潰されながら露出した。

 じぃぃぃぃぃぃぃぃ……。

 教師が、撮影者が、お尻を見ている。
 一人ははしたない気持ちで、一人はただ検査を真っ当する気持ちで、どちらにせよ視線は深雪のお尻へ集中し、あまつさえカメラのレンズが向いている。ただの視線が針で刺される苦痛に感じて、深雪は硬く歯を食いしばる。

 パシャ!

(……と、撮られましたわ)

 パシャ!

(――に、二枚目!?)

 パシャ!

(深雪のこんな姿を……)

 背面の画像なので顔は写らず、用が済めば削除されるが、だからといって裸にカメラを向けられて良い気持ちはしなかった。




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