深雪 羞恥の定期検査(後編)


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 全身検査。
 それは頭の先から足の先までをくまなく調べ、皮膚科系はもちろんガン系のしこりや筋肉の張り等の正常さを確かめるものだ。ここでは三人の検査医が女子生徒を取り囲み、それぞれの手で視診触診を行っていく。
 深雪はコレまで以上に赤くなり、首から上はほぼ別色といえるほどに顔面を熱くしていた。
(こ、これって一番……)
 至近距離から、三人の男が手で触れながら視診してくるのだ。
 両腕を真っ直ぐ左右に伸ばし、二人がそれぞれの両腕を触って調べている。残る一人は背後へ回り、脇の下へべったりと手を貼り付ける。上から腰のくびれまでへと、ボディチェックを行うように撫でていく。
(ふあ、あぁぁ……)
 上下に手をスライド往復される刺激に震えた。
「右腕問題なし」
「こっちもです」
「肌は全体的にサラサラですね」
「ふんわりと柔らかく、羽のわたのように優しい肌です」
 深雪は涙ぐんだ。
 三人の検査医達は深雪の体を事務的に弄くりまわし、合計六本の手がいたるところを這いずり回る。あくまで触診でしかない手が、しかし太ももを揉み始め、うなじをくすぐり、耳まで触れて全身を調べ尽くす。
 まるで拷問だった。
 悪いことなどしていないのに、途中からは頭の後ろで両手を組まされ、そして脇の下から足の裏までベタベタと触られる。体中いたるところに手垢をつけられ、もはや手の当たっていない面積部分など残されないほど、触診は丁寧に行われた。
 きっと兄へ差し出したかった大切な肌だというのに。
 そんな深雪の事情などお構いなしに、女が嫌だと思う部分を検査医は平気で調べ、指先で素肌をくすぐっている。
「かなり発育がいいですね」
「筋肉と脂肪のバランスがいい」
「スタイルも抜群の部類でしょう」
 検査医達は深雪の体をああだこうだと論じていった。
(こんなに観察して、意見を言い合うなんて……恥ずかしすぎます!)
 深雪は悶える。
「お手本のようです。教科書に載せたいくらいですね」
「はっはっはっは」
 軽く、笑われた。
 もちろん、検査医達に深雪を貶める意志はない。深雪の体への感想を疲れた気分を紛らわすために言い交わし、地道な作業疲れをほんの少し癒したのだ。何十人もの検査を受け持つ彼らにとって、深雪がどんな気持ちになっていようと、選りすぐりの美少女であろうと、大勢いる検査対象の一人にすぎないのだ。
 もっと言えば、処理しなくてはいけない仕事の一部だ。
「乳房に入ります」
「了解」
 もはや本人の意思などないも同じ。
「健康的ですねぇ」
「硬さは?」
「やはりふわっとした柔らかさで、餅が手に張り付くかのようです」
「なるほど」
 一人が乳房を両手で掴み、揉み始めた。なんの断りもなく、ただ仕事上のノルマを消化したい検査医は顔色一つ変えずに指を押し込み、皮膚の内側に何かがないかを探している。彼らに卑猥な心は欠片もないが、それだけに業務を淡々とこなしすぎていて、深雪の気持ちに対する配慮や紳士的接し方さえ欠片もない。
(お兄様……助けて下さい……深雪はこんなのもう嫌です……)
 深雪は唇を噛み締めた。
 男の指が乳房を持ち上げ、プルプルと揺らしてくる。表面を撫でるようにして形をなぞり、乳肌の皮膚を調べてくる。乳首を摘み、グリグリとつねってくる。引っ張ったり、押し込んだりされ、突起した乳首は執拗に虐め抜かれた。
(お兄様ぁ……)
 身をよじったり、体が逃げる反応をすれば「動かないで下さい」と注意が飛ぶ。胸をいいように扱われながらも、後頭部に手を組んだまま、深雪はひたすら我慢していなくてはならなかった。
「乳首もコリっとしています」
 そんな情報を声に出される。
「ええと、いずれも疾患は無しで、それから……」
 そして一人はチェックシートにペンを走らせ、今までの診察結果を書き込んでいる。書類の記入欄には、深雪の乳房や太ももの感触について書く項目もある。その人の語彙力が許す限り正確に、体つきから何もかもまでが記入されている。
「しかし、やはり綺麗ですね」
「ボディラインは人一倍優れていそうですしねぇ?」
「触れた感じも全体的に柔らかく、ふんわりです」
「なかなかいませんよ。ここまでの子は」
 他意はなくとも、深雪の体つきにまつわる感想が事務的に述べられていた。
(お兄様……ぐすん……お兄様ぁ…………)
 それでも、耐えることしか許されない。
 深雪にできるのは、この時間が一刻も早く終わることを願うだけである。

「では、臀部及び陰部へ移りましょう」

「……!」
 おもむろにショーツに指をかけられ、深雪は戦慄した。全身に緊張がほとばしり、それでなくとも真っ赤な顔へさらに血流が集まって、心臓は早鐘のようにドクドクと大きな音を打ち鳴らす。
 検査項目は事前に通知されている。初めから内容はわかっていたし、腹を括ってきたつもりもあった。だが、いざこの瞬間を迎えた時、大事な部分が曝け出される危機感に、全身に警戒信号が行き渡り、鳥肌さえ立てながら深雪はごくりと息を飲んだ。
(嫌ですわ! やはりここだけは……)
 ショーツは最後の砦だ。
 それを履いている限り、乙女の秘密だけは隠してくれる最後の盾だ。これを失えば最大の弱点が外へ晒され、深雪は無防備となってしまう。
 それに対する危機感。
 本能から警戒信号が発令され、深雪はほとんど条件反射的に抵抗した。いや、抵抗といっても抑えはしている。ただ脱がされかけたショーツを手で引き止め、深雪は自分の最後の防壁を失うまいとしていた。
「どうしました?」
 検査医はそんな深雪を不思議そうに見つめていた。
「脱がないと検査が進みませんが」
「ほら、他の子達も待っているんですよ?」
「あなた一人に時間はかけられないんです」
 口々に言われる。
「わかっています。わかっていますが……」
 深雪は震えた。
 どうしても、こんな場所を見せなくてはいけないのだろうか。
 晒さなくては許されないのだろうか。
 女に生まれ、この学校に入学したというだけで……。
 悲しい、悲しすぎる。
 羞恥心が胸の内側で膨張し、風船を一気に膨らませていくかのように大きくなる。ただ恥ずかしさという一色だけが、深雪の感情を染め上げている。あまりに酷い恥をかかされて、泣けてきた。
「司波深雪!」
 注意の声を上げるのは教師である。
「これは規則なんだ。決まりを守れないようであれば、お兄さんにも迷惑がかかるが?」
「お、お兄様に……!?」
 深雪ははっとした。校則違反に対しては当然指導が行われる。深雪への厳重注意に伴って、兄妹として同居している兄にも深雪の話をされかねない。問題行動だ、兄からもきちんと言って聞かせるように、といった具合に。
 兄に迷惑をかけることは本意じゃない。
 脱ぐしか、ない。
 泣きたくなるほど嫌なことでも、少し我慢すれば事は過ぎ去る。耐え抜いて、耐え抜いて、耐え忍ぶのだ。
 きちんと、兄の言いつけ通りに。
「……すみません。恥ずかしくて、つい。きちんと受けますので」
 反省の素振りを見て、教師は一歩後ろへ下がる。
 これから陰部を晒されるのに、それでも謝るのは自分の方である事実を悲しく思った。
「では改めて」
 検査医はその瞬間、ばっさり。
「――――っ!!!」
 遠慮無しに一気に引き下げ、心の準備をする猶予もなく、深雪の全てが男達の視線の中へと曝け出された。
 ――カァァァァ!
 と、沸騰せんばかりに首から上がまんべんなく熱くなる。顔から蒸気が出てもおかしくないほど、火照るという言い方では生易しいほどに血流が頭部に集中する。全体的にきめ細かく、美白肌の深雪だが、首を境界線として顔面と両耳だけが真紅に染まっていた。
(……こんな! こんな人前で生まれたままに姿になるだなんて!)
 あまりの顔の熱さに、額や頬からだけ汗が吹き出た。
 雪をふんわりと積らせたような白い尻は、触れれば崩れそうなほどに柔らかい。あるいは清潔な羽綿のように優しく、大きすぎず小さすぎない控えめなカーブでプリっとしている。
 手前の方では、毛が丁寧に手入れされている。切り揃えられた陰毛は草原の領地を控えめにして、貝の割れ目がくっきりと目に見える。ぷにっ、と微妙な膨らみを持つ皮は、ぴったりと閉じ合わさってラインを明確に浮き出していた。
(こんなの……深雪は生きていけませんわ……)
 深雪は震えた。
 これは刑罰か何かだろうか。そんなものを受けるほど悪いことはしていないのに、検査医三人と男性教師、合計四人の男に囲まれた状況下で最後の盾を失ったのだ。こんな目に遭わされる人間は、他には捕虜か奴隷くらいだ。
 検査医の顔がアソコへ近づく。
「陰毛はカットしていますか?」
 そんな質問をされ、深雪は深く俯いた。
「……はい。手入れはしています」
「そうですか」
 そっけない。
「…………」
 特に意味はない。素朴な疑問を何気なく、そして深雪の気持ちなど考えずに投げかけて、答えがわかれば適当に頷いた。ただただ、深雪の心が削られるだけのやり取りだった。
「では四つん這いになって下さい」
「……え?」
「性器及び肛門を検査するための姿勢です。
 事前に説明が行っていると思いますが」
「……は、はいっ。申し訳ありません」
 どうして自分が謝るのだろう。
 情けのない気持ちになりながら、死にたい気持ちになりながら、深雪は床に膝をつく。そして両手をべったりつけ、全裸でお尻を差し出す犬同然のポーズとなる。
「では肛門ですが……」
 一人の検査医が深雪のお尻へしゃがみ込み、尻たぶを掴んで割り開く。
(いやぁぁあぁぁああ……!)
 深雪は強く目を瞑り、歯を噛み締めた。
 親指で押し広げたその間で、桜色の雛菊皺がヒクっと蠢いた。真っ白な尻肌の中央にぽつんと咲いた可憐な色は、およそ排泄気孔とは思えないほど、皺の花びらを放射状に広げている。
 それを検査医は凝視した。
(うぅ……お尻の穴まで…………)
 ただの視線一つが鋭い針のように深雪へ突き刺さり、肛門をチクチクと痛めつけている。
「とても綺麗ですよ。黒ずみがないんです」
「本当ですか?」
「どれどれ」
 肛門を覗いていたのは一人だったが、今ので残る二人も同時に深雪のお尻を観察し、尻穴の桜色に次々と簡単の声を上げていく。
「ほほーう」
「こんな場所がここまで綺麗だなんて」
「普通は黒ずみがあるはずですが、これは白い肌に桜色を乗せた色感が効いています。
 純白から薄紅色へと変化していくグラデーションのように、美感がありますよね」
 よりにもよって肛門について品評され、激しい羞恥の情動が胸の中身を荒らし出す。頭の中からまともな思考は削がれていき、この恥ずかしさに悲鳴を上げたい、自分の状況を恥じた気持ちだけが深雪の頭を占めていく。
(……恥ずかしすぎます!)
 深雪の心は叫んでいた。
(こんなこと……深雪は恥ずかしさで死にそうです……!)
 恥じらいに熱された顔全体に汗が滲んで、皮膚が湿っぽくなっていく。その吹き出た汗が上昇した体温に温められ、いよいよ本当に顔から湯気が出てもおかしくない。
 硬く強く食いしばられた歯は癒着したかのように離れなくなり、瞼も自身の眼球を潰さんばかりに力の限り閉じられる。床に置いた手は握りこぶしとなって、内側に爪を食い込ませるまで強く握られていた。
 体のどこかに力を入れ、硬く震えることによって、深雪はかろうじて耐えていた。
「性器を開いてみましょう」
 くぱぁ……。
(んく――んんん……! な、ナカを見られるなんて……!)
 桃色の貝の中身を左右に開かれ、今度は肉ヒダへ視線照射が集中した。ヒクヒクと蠢く陰唇が、包皮に覆われたクリトリスが、まだ男を知らない膣口が観察される。
「血色はいいですねぇ」
「ビラの大きさも」
「おや、処女ですか」
 視診された中身の状態を口にされ、もはや手付かずの恥部は残っていない。全てを余すことなく観察され尽くし、しかし二つの穴への触診はまだ行われていない。一人がチェックシートを片手にペンを構え、もう一人は深雪の背中を押さえて動いても手で固定できるようにポジションを取る。
 そして、診察用のゴム手袋をはめた一人が中指で性器をなぞり、男に触れられる言い知れぬ感覚に背筋全体がゾクっとした。
(いやぁ……)
 淫らな意思を持たない『触診』は、それでもクリトリスの周囲をそーっと、触れるか触れないかといった微妙さで指の腹を当てている。デリケートな部分を傷めないよう、優しく撫で擦るやり方は愛撫に近いところがあった。
(嫌ですわ……嫌ですわ……)
 検査医は膣口の周囲をなぞっていき、具合を探る。まだ未使用の入り口に余計な傷をつけない程度に先端を挿し、グリグリと回すようにして触感を確かめる。その刺激が甘い痺れを生み出して、内股のあたりをピリピリさせた。
「特に何もありませんね」
 検査医はゴム手袋を取り替えて、次は肛門を診るためにワセリンを塗り始める。
(いひぁ……!)
 ひやっとして、皺が一瞬ヒクンと縮んだ。
(は、入ってくる……)
 中指が直腸へと進入し、内側を探り出す。肛門から異物が入ってくる違和感と、内部を調査されている心地の悪さ。検査医は指を左右に回転させ、出し入れしつつ触診位置を調整し、指の腹に感じる直腸の触り心地で丁寧に症状を探っていた。
 ズプ、ズプ、ズプ……。
 内部を摩擦するために、指がゆっくりピストンされる。
(そんなぁ……)
 性器を観察された挙句に尻の穴までほじくられ、頭がどうにかなりそうなほどに猛烈な羞恥が膨れていく。もしかしたら、自分はこのまま恥ずかしさで死ぬのでは。膨大な羞恥心が容量を超えて多量に溢れ、堪えきれない感情量が全身にいきわたり、やがては事切れてしまうのではと、ありえない想像さえよぎってくる。
 ズプ、ズプ、ズプ……。
(駄目です! もう……もう死にそうです……!)
 ヌプッ。
 それはゼリーを塗りたくった指が抜ける音。
 限界点を越えた時、ようやく指が引き抜かれたのだ。
「異常なしです」
「了解」
 これで、直腸検診までが終了した。
(……た、助かりましたわ)
 羞恥心が死因になるなどないだろうが、深雪自身は本当に死ぬ思いをしていたのだ。やっとの事で解放された安心感で、自分が全裸の四つん這いでいることをつい一瞬忘れてしまう。けれども、安心の直後にすぐに自分の姿を思い出し、薄くなりかけていた赤面濃度は途端に元に戻るのだった。

「あとは尿検査だけですね」

(にょ、尿検査……!)
 深雪の表情は絶望に変わった。
 ようやく尻穴から指が抜かれて、つい安心しすぎてしまったが、事前の通知で採尿が行われる事はわかっていた。
 本人の尿であることを確認するため、放尿は検査医の前でとなる。三人もの男と、加えて男性教師が立っている前で、トイレでもない場所で容器の中へ用を足す。立ち会った教師が確かに司波深雪本人の尿であるとお墨付きを与え、それを検査医が病院へ持ち帰る。何らかの症状が判明した場合はその後本人に連絡がいき、健康であれば通達は特にない。
 しかし、尿を出せと言われて出せるとは限らない。相応の尿意が必要なため、事前の連絡でも直後に水分を取るよう指示が出て、朝も紙コップが学校から配られて、利尿性の高い飲料を一人一杯飲んでいる。
 これを終えてこそ、正真正銘の解放なのだ。

        ◇ ◇ ◇

 ジョォォォォォオオオォォオォォ――――

 尿道口から飛び出る黄色の水が、宛がわれた尿瓶の中へ溜まっていく。万が一にも床を汚さないため下にはタオルが敷かれており、尿瓶も大きめのものが使われている。たくさん出すぎて容器から溢れるといった心配はなさそうだった。
 ジョロロロロロロロロ…………。
 プラスチック容器を打ち鳴らしていた水音は、すぐに水面を鳴らす音へと変化していた。
(こんなこと……こんなこと……)
 深雪が受けている仕打ちは、幼少の子供か赤ん坊扱いそのものだ。
(こんな……こんな……!)
 赤すぎる顔を両手で隠し、深雪はもはや目の前の相手の顔さえ見れていない。こんなことは現実じゃない、悪い夢だと言い聞かせ、全力で目を瞑っている。瞼を閉じ、歯を食いしばるという行為には、筋力が許す限り最大限の力が込められていた。
 ジョロジョロジョロ――。
 放尿とは一度始まったら止まらない。トイレそのものを我慢しなければ、途中で中断がしにくいものだ。普通の生活を送る分にはそんな事で困る機会はないが、今ばかりはその生理的仕組みが残酷だった。
 ジョォ――ジョォ――ジョォオオオ――。
 深雪は開脚した股を持ち上げられ、そこへ尿瓶を当てられている。まるで一人でおしっこができない年齢のような扱いを受け、その光景を男性教師と余った検査医はまじまじと眺めているのだ。
 しかも、クラスメイトもいる中だ。
 既に先に順番が回っているか、あるいは後で同じ運命を辿ることに決まっているとはいえ、身内が同室にいる状況での放尿は最も耐え難いものである。ぐすん、と涙ぐんだ声が出て、硬く閉じられた瞼の隙間からも水滴が滲んでいた。
(お兄様……深雪はこんなことをさせられています……)
 ジョロロロロロロロロロ。
 尿の勢いは少しずつ緩んでいるが、まだ止まらない。温かい尿液はみるみるうちに水かさを増し、大きめだった尿瓶の半分を突破している。
(……人前でおしっこを致しました)
 ジョロ、ジョロ。
 尿が切れ始める。
(アソコを見られました……お尻に指を入れられました……。そして、おしっこまでしているのです……)
 深雪の心は懺悔のように語っていく。
(こんな深雪をどうか嫌いにならないで下さい。どうか……)
 ジョ、ジョロ…………。
 放尿が途切れ、溜まっていたものは全て出し切られた。

        ◇ ◇ ◇

 無事に生きて帰って来れた。
 生死の危険などありもしないのに、家へついてから深雪が感じたのはそんな思いだ。あんな悪夢のような目に遭わされ、それでも一応死なずに済んでいる。
 一応……。
 ただし、深雪の痴態はきっと教師の記憶に刻まれている。いかに医師にそういう感情がないとしても、男性教師はきっと深雪をオカズにするに違いない。そうはっきりと予想できるほど、教師が視姦していた対象はほとんどが深雪だったのだ。
「お兄様、何でも一つ言う事を聞いてくれるのでしたよね」
「ああ、そういう約束だったな」
「……人の記憶は消せますか?」
 例え世界中から今日の深雪の記憶が消えても、歴史そのものは変わらない。拷問も同然だった出来事の数々は他でもない深雪に刻まれている。
 しかも、だ。
 同じ内容の検査は年に一度行われる。
 過ぎ去った悪夢が再びやって来ることは規定事項なのだ。

 深雪は負けません。
 それでも、元気を出して頑張ります。




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