自分のエロSSを読むセレジア


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 インターネット。
 それは『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』の世界には存在しない文明の利器であり、そこにはありとあらゆる『世界』が詰まっている。
「おかしいわねぇ? 私の世界を手がけたのは創造主様一人だと思ったけど、これって一体どういうわけなの?」
 二次創作だ。
 現代都市での生活にあたり、まりねの家に厄介になり始めてから、ふとした拍子にパソコンという存在に興味が沸き、ローマ字を覚えてインターネットに触れたのだが、その結果としてセレジア・ユピティリアは自分自身に登場する二次創作を見てしまった。
 しかも、十八禁。
 主人公のカロンとヒロインのセレジアが、ベッドの上で濃密に絡み合う光景が、書き手の持ちうる文章力の限りを尽くして描写され、あまりにも原作に即した文体や台詞回しにたちまち引きずり込まれてしまった。
 メテオラは自分の登場するゲームをやったというが、セレジアとしては自分の登場する原作を読もうなどという気になれない。
 だから、本来なら触れないはずだった。
 ただネット上に小説を投稿したり、イラストをアップロードしている作者がいるとわかって、それとなく投稿サイトを覗いたにすぎない。自分は創作物の世界から来たキャラクターで、ならば他所の世界にはどんな人物が、どんな設定があるのだろうと、ちょっとした興味に引かれて作品をクリックしていたに過ぎなかった。

 ――へえ、これが創作物ね。
 ――面白いじゃない。
 ――けど、この作品たちにもそれぞれ世界があるのかしら。
 ――私達みたく、こっちに来る可能性があるのかしら。

 だとしたら、自分の人生が小説として晒されていることに、あれほど顔を歪めたはずの自分自身が、人の人生は覗き見していることになる。いくらかの作品を見て周り、そのうちにそう気づいてから、だったらその辺りで切り上げようとした時に、不意に自分の登場する作品に目がいった。
 もうその時には、どこのサイトだったかで二次創作という言葉を覚え、そういうファンアートが作られることもあるのだと知っていた。
 それは自分の人生ではない。
 しかし、公式の作者が手がけたわけではないにしても、セレジアの存在を出汁に何かを妄想している輩がいる。
 そう思うと、だ。

 ――へ、へぇぇぇぇ?
 ――一体どんなことを書いてくれちゃってるわけかしら?
 ――ちょっと見てやろうじゃない。

 他人の人生を覗き見るわけでもなければ、自分自身の登場する原作で、自分の人生を読み返したり、未来の展開を目にしてしまうわけでもない。セレジアの人生には決して存在しない、けれどセレジアが登場する、本当の意味での架空の物語がそこにはある。
 しかし、検索タグして付けられた『セレジア・ユピティリア』に目がいくばかりで、その隣にある『R−18』という部分を見落としていた。
 セレジアにとって見覚えのある風景が文章によって描写され、実際にそこに行き来したことのあるセレジアだから、どんな読者よりも明確に情景を頭に浮かべて、吸い込まれるように読み進めると、心なしかカロンと自分がだんだん甘いトークを始めるのだ。
「な、何よ。カロンったら……!」
 読みながら、セレジアは顔を真っ赤に染めていた。
「まあ? こんな出来事はなかったし、二次創作だからこんな未来も存在しないんでしょうけどもねぇ?」
 もうお互いの気持ちが通じ合っていて、とっくの昔から恋人同士だったかのような雰囲気までもが描写されると、いよいよセレジアの動悸も高鳴る。それだけその二次創作の作者が、原作と比べても違和感がないようにと、可能な限り自然にと心がけ、原作小説で実際にあった描写や設定の数々を片手に仕上げたものなのだ。
 もちろん、そんなことをセレジアが知るはずもない。
 ただ、キャラクターの再現性が意識されればされただけ、知らず知らずのうちにセレジアは作中カロンの台詞を違和感なく受け入れる。もしもカロンが甘い言葉をくれるなら、きっとこういう感じだろうし、それに対して自分もこう返しているかもしれない。
 いつしか、そこにはセレジア自身の妄想が膨らんでいた。

 ――こうなるってことは、つまりそうよね。
 ――この先はきっと……。

 きっと、そうなるに違いない。
 そんなセレジアのツボを踏むかのように、その二次創作はどこまでも偶然にも、キャラクター本人が浮かべる妄想をなぞってベッドの上まで進んでいく。
「ま、まさか……!」
 そして、性交が始まったのだ。
 カロンがペニスを膨らませ、自分が挿入を受け入れる。彼の激しい愛を受け、嬉々として喘ぐ自分は何度もカロンの名前を呼び、しだいに乱れきっていく。
 感情移入どころじゃない。
 セレジア自身の抱く性欲と妄想が形となり、まるでいつの間にか心の中身を写し取られたように色濃い描写がなされている。
「何なのよこれは……! 馬鹿じゃないの! 私がこんな風になるわけ、だいたいカロンだってそんな人じゃ……」
 下腹部が引き締まり、セレジアは自然とそこに手を伸ばす。
 今なら、メテオラもまりねもいない。
「そんな人じゃないけど……もしそうなったら……私は…………」
 無意識のうちにスカートの内側へ入り込み、白いショーツの上からワレメをなぞる。
「……うひっ!」
 自分で始めた行いに、自分自身で驚くセレジアは、次の行に書かれたカロンの甘い言葉に飲み込まれ、そのまま上下に擦ってしまう。
「ああもうっ、私ってこんなことする設定なの?」
 もう片方の手では胸まで揉んで、秘所への愛撫を活発にしていくセレジアは、やがて邪魔で仕方がないようにショーツを脱ぐ。
 クリトリスに指を触れ、ついには膣内にまで挿入して、卑猥な出し入れを始めていた。
「あっ、うぅ……!」
 もしもカロンに挿入されたら、本当にこんな展開になったらと、頭の中身がそればかりに染まり上がると、セレジアは完全にオナニーにとり憑かれた。
 もうやめられない。
 文章の中ではカロンと自分が繋がり合って、深い口付けと共に求め合い、ピストン運動によってどれほどの快楽が背中を駆けているのかまで書かれている。セレジアの指はカロンの肉棒の代用で、カロンならどんな腰振りをしてくるだろうかと、そんな思いや想像が指の動きに反映している。
「カロン……! カロォン……!」
 彼に会いたい。
 この別世界にやって来て、離れ離れになった切なさまでもが指に宿され、少しでも慰めようと膣壁を苛め抜く。
 こうしてセレジアはオナニーにハマった。
 自分の登場する二次創作を読み漁り、十八禁描写を読むことで、本当にはそんな出来事は起きないが、そうなる気分に浸りやすい作品群に触れ続ける。

 さすがに言えませんよねぇ……。

 という溜め息は、まりねのものだ。
 インターネットのブラウザには検索履歴が残るもので、セレジアが自分で自分の十八禁に触れていることが、実のところまりねには筒抜けだ。

 言えませんよねぇ……。

 もしも事実を伝えたら、どんなに悶絶するのだろう。
 まりねはそっと、検索履歴を削除した。




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