中年に抱かれるセレジア


目次に戻る

 一対一で話がしたい。
 セレジア・ユピティリアに申し入れを行ったのは、特別事態対策会議に席を置く重役の一人であり、招きに応じて会いに行けば、その中年男性はセレジアを酒瓶で迎えた。
 媚薬が仕込まれていることなど気づきもしない。
 中年の策略にも気づいていない。
「あら、美味しいわね」
 無警戒にコップに口をつけ、『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』の世界には存在しない、初めての酒の味にセレジアは感嘆する。
「だろう? 君の世界にもこれと同じ味はあったかね」
「そうねぇ、強いて言えば似たようなのは。でもこっちの方が美味しいわ」
「それはよかった」
「で、こんな世間話のために人を呼びつけたわけかしら?」
 セレジアは悪戯っぽく笑みを浮かべて問いかける。
「私はね。君のことをもっとよく知りたいんだよ」
「知りたい?」
「どうというほどでもないよ。メテオラさんや瑠偉くんも含めて、一連の事態に協力していただく三人がどういった人間なのか。知っておきたいのは自然な気持ちだと思うがね」
「ふーん? それこそ、創作物にでも目を通せば良いんじゃないの?」
 と、セレジアはやや悪戯な悪意を込めて、『創作物』という単語を強調してみる。会議の場で「あなたは創作物ですね」との発言を行ったのは、別に彼ではないのだが、だから彼もこれくらいは軽く受け流してみせてしまう。
「もちろん、そういう考え方もある。だけどね、例えばアニメ作品なんていうのは、CMを抜けば約24分ぐらいだそうだ。オープニングやエンディングを引けば、もう2分か3分ぐらいは短い計算になるかな」
「へえ、時間って決まってるのね」
「そんな尺の制約がある中で、たとえば今日食べた食事だとか、買い物で買った物とか、いつトイレに行って、何時に寝たのか。一日の私生活を丸ごと描写するわけじゃない。物語としての起伏をつけ、見ている側が娯楽として楽しめるように構成を行うわけだ」
「それで、私のカッコいいところが上手くアニメ化されてるってわけ」
「はははっ、そうだね。まあ、私も創作に詳しいわけじゃないが、きっと原作なりを読むだけでは相手の全ては理解できない。それにね。こうして意志を持つ人間として君が目の前にいる以上は、人の人生を覗き見というのは、他人の日記を勝手に読むようで失礼な気がしてならないわけだ」
 こうして彼は自分のトークに目の前の女を縛りつけ、相手の様子をよく見ながら、空になった相手のコップに酒の追加を注いでやる。
 セレジアには酒と媚薬が回っている。
 警戒心が、ガードの固さが、少しずつ緩んでいくはずだ。
「あら、随分よさげなことを言うじゃない」
「実を言うと君の原作者の言葉に当てられてね。ほら、あの会議の場で――」
「ああ、あれね」
 物じゃないんで、そういう言い方はよしてくれますか。
 とは、松原が菊地原に放った言葉だ。
「相手のことをよく知ろうと思うなら、こうして直接会って顔を合わせるのが礼儀だよ」
「で? あとの二人とも話をするの?」
「まあ、そのつもりだよ」
 もちろん男を狙う趣味はない。
 理知的なメテオラは難易度が高いだろうから、ヤるのはセレジアだけだろう。
 中年はさらにトークを繰り広げる。
 セレジアが別世界の人間であることを考慮して、この世界の知識や常識を今はどこまで把握しているのだろうかと、細かいところに気を配りながらも話題を振る。そちらの世界はどうなのかとセレジアからも話を引き出し、短い時間で友愛を深めていった。
 これしきの話術。
 言葉巧みな中年からすれば、セレジアなどただの小娘だ。
 酔いもまわって、媚薬効果も高まってきているであろうセレジアは、何をしたわけでもないのに心なしか頬を朱色に染めている。心臓はドキドキと、アルコールで動悸も上がる。初めよりも随分ガードは緩んだはずだ。
ここで彼は次の手順に移る。
「実はマッサージ師を目指したことがあってね」
「へえ、そうなの」
 他愛もない世間話だ。
 しかし、一度はそういう勉強をしたことがあり、それがどうして今の仕事に就いたのか。そういうことを語って引き込ませ、マッサージという点をごくさりげなく覚えてもらう。
 そして、セレジアのコップは空になる。
「どうかね。もう一本いくかね」
「どうしようかしら」
「やめとくかい」
「いいえ、もう一本」
 セレジアがさらなるアルコールを求めると、中年男はもう少し強い酒を持って来て、さらに酔いをまわらせる。
 引き続き話の花を咲かせて、コップに注いでやりながら会話を楽しむうち、ついにセレジアはくらりと頭を揺らす。
「少し飲みすぎたかね」
「うーん。どうかしら……」
「無理はしない方がいい。水でも持って来ようか」
「ええ、お願い」
 中年男はセレジアのコップを飲料水で満たして来るが、そこに媚薬を溶かしてあることに、やはり気づきもしていない。
 何かを感じてはいるはずだ。
 ウズウズと、どこかが切ないかのような、そんな感覚が媚薬の効果で出ている頃だ。
「どれ、肩でも揉もうか。酔い醒ましにちょうどいいツボも知っているからね」
 ボディタッチを行うための口実で、ついに中年はマッサージのカードを出す。肩の筋肉を指圧する丁寧な指圧によって、慌てず焦らず信用させ、彼は確かにマッサージの腕があるのだと教え込む。
 もしもセレジアにマッサージの知識があっても、かつて学んだ技術を総動員している中年に隙はない。
「どうかね」
「ええ、とっても気持ちいいわ」
 セレジアはご満悦だ。
 こうなれば、あとは仮眠室で横になれば、もっといいマッサージが出来るからと、ベッドのある部屋まで連れて行く。
 うつ伏せになってもらった。
 背中のツボを押しつつ筋肉をほぐしてやり、二の腕や手の平といった部分にも、指先で見つけた張りや凝りに正しい指圧を加えていく。
 れっきとしたマッサージを続け、しばらく経つとだ。
 中年はしだいにもっと愛撫的なタッチに移っていた。
 触れるか触れないかといった具合で微妙に撫でる。フェザータッチの技法でセレジアの肌を刺激して、背中の皮膚から苛めてやる。ツボの名称や効果を唱えることで、さらなる信用を得ながら赤い髪を左右により分け、うなじの表面もささやかに撫で込んだ。
(なに? この感じ、何だか気分が……)
「気持ちいいかね?」
「ええ、気持ちいいけど……」
「けど、どうしたかね」
「……何でもないわ」
 まあ、言えないだろう。
 と、中年は一人納得する。
 マッサージとして気持ちいいのか、もっと別の意味で気持ちいいのか。おかしな気分のしてきたセレジアには、快感を引き出すための撫で回しはよく効くだろう。肩に背中に腕から指まで、上半身をまんべんなく済ませた頃には、セレジアの息遣いはどことなく乱れていた。
「こっちの方にもね。色々とツボがあるんだよ」
(そこ……太もも……)
 まずは右の太ももから両手で包み、揉むようにして感触を楽しみつつも、リンパを押し流すための圧力を手の平で与えていく。ツボを指圧して筋肉に指先をめり込ませ、そのままマッサージから愛撫へ繋げていった。
 ほとんど産毛だけを撫でるタッチで撫で回す。
(ヘンな感じ……全身がゾクゾクする……)
「仰向けになってごらん?」
 セレジアが向きを変えると、デザイン上の衣装で胸元が露出している。やはり肩から腕にかけての施術で始め、それを少しずつ愛撫に切り替えていくことで、セレジアの表情には快感の予兆が宿されていた。
 何かを我慢しているような、あるいは求めているような顔。
 吐き出す息は、熱い湿気を帯びている。
 どこまで落ちたか確かめるため、中年は胸に両手を近づけた。
「……っ!」
 すると、セレジアは大きく目を開く。
 どこか期待に満ちているようで、だけど警戒心が完全には抜けていない。
 ――さ、触るの?
 などと、恐る恐る問いかけていそうな眼差しに、中年は乳房から両手を遠のかせ、腰のくびれや腹の部分にマッサージを施した。
「それにしてもね。剣とか使って戦うわけでしょう?」
「そりゃ、まあね」
「そうすると、体の色んなところを使うだろうね。腕はもちろんだけど、足腰なんかも重要なんじゃないのかい?」
「そーよ。基本かしら」
「だったら、脚なんかもっとよくほぐしておこうか」
 スカートから伸びる二本の脚。
 中年はセレジアの太ももにべったりと手を置いて、ここでも最初はリンパを押し流す目的と、ツボの指圧で確かな効果を与えていく。それをしだいに愛撫に切り替え、撫で回す手つきでスカートへと迫っていった。
「さあ、セレジアさん。リラックスして?」
 スカートの丈に中年の指先が潜り込む。
「そ、そこは……」
「そうだね。どんな効果があるのか知りたいかい?」
 中年はこれまで散々にツボの名称や効果を語り、リンパ系のことも口にしている。いかに専門的で正しいマッサージか。いくらでも説明可能な中年にしてみれば、きわどい内股に迫っても構わない免罪符を手にしているようなものだった。
 セレジアの肉体はもう、無意識のうちに快楽を求めている。
 酔いもまだ醒めてはいない。
 穿いているショーツが少しだけ、白い布地の三角形の先っぽが見えてしまうだけ、スカート丈をずらし上げても、セレジアは頬の朱色を濃くするだけだ。理性的にはマッサージの施術が続いているのだと信じつつ、無意識に期待は膨らんでいる。
「そこって……んぁぁ…………」
 秘密の部分に指が近づき、今にも触れられそうな気配にセレジアは一層のこと赤らむが、決定的な抵抗はしていない。せいぜい太ももを引き締めて、手を軽く伸ばしてくるだけだ。
「気持ちいいでしょう?」
 中年は問う。
 あと一センチも進めば秘所に触れてしまうきわどさで、内股のギリギリを指腹で押し込んだりして揉んでいる。触りそうで触らない。微妙な部位をくすぐり続けることにより、かえってアソコに意識を集中させる。
「べつに……」
「おや、マッサージが気持ちいいはずでしょう? 何か別の意味に聞こえたかねぇ?」
「あははっ、そうよね。マッサージ。マッサージが……気持ちいいわ……」
 スカートを完全に持ち上げて、ショーツを丸ごと露出させた。
 下着の生地に指を置き、クロッチの上から指圧して、陰毛の生えている部分を揉み込みながら、内股のことも忘れない。しかし、決してアソコには直接触れない。触れそうで触れない、来るようで来てくれない、そんなもどかしさを与えていく。
「それにしてもセレジアさん。イケナイ子ですねぇ?」
「はぃ? なにを急に……」
「いや、まあいいんだよ。こう体がぽかーって火照って、そういう部分に汗をかいちゃうことはよくあるそうだから」
 とても遠まわしに指摘した。
「あ……! い、いや! そんな私……!」
 そして、セレジアは気づいた。
 既にショーツのアソコには、肉貝にぴったりと食い込んだ卑猥な部分には、どれだけの汁が滲んでいるか。一度として触られていない、それなのにおかしいくらいに分泌された愛液の量は、他でもないセレジア自身を動揺させた。
 もしかしたら、逃げ出すかもしれない。
 慌てて「もういいです! ありがとうございました!」とでも言い出して、逃げるようにしてこの場を去っていくこともあるだろう。
 それをさせないため、中年は逃げを封じにかかった。
「こうして欲しかったのかな?」
「――ひゃん!」
 初めてアソコに触った。
 セレジアの腰は大胆に跳ね上がり、自分で自分の反応が信じられない顔をして、そのまま呆気に取られている。
「これはこれは、さっきの繰り返しになってしまうが、セレジアさんは人格を持った一人の女性だ。であるからして、これから被造物事態にご協力頂くあなたには、天国のような快感を与えるサービスも必要でしょう」
「なにを――い、いらな――あぁ――!」
 セレジアは喘いだ。
 経験豊富な指先が自在にアソコを愛撫して、酒と媚薬のまわったセレジアでは、もうこの男の指に逆らえない。彼を押しのけようとした腕にはまともな力など入らず、電撃的な快感に思考もどこかへ弾け飛び、抵抗しようと思う心さえもが指技によってキャンセルされる。
「はぁ……はっ、ふはぁ……あぁ……! はぁぁ……!」
 息が乱れに乱れるセレジアは、もうシーツを鷲掴みにしていることしかできない。
「オッパイにもしてあげましょうか」
 乳房もとっくに敏感で、衣服の上から揉まれるだけで甘い痺れがほとばしる。谷間を露出している胸部の穴を左右に開き、プルンと果実を露出させると、二つの乳首を指に絡めて苛め抜き、セレジアは髪を振り回すかのように首でよがった。
「どうかな? 気持ちいいでしょう」
「あっ、あぁ……あなた……これが目的……!」
「おや? やめていいのかな?」
「それは……」
 と、躊躇うようなことを言いかけ、すぐにセレジアはハっとしていた。まるで途中でやめられたら困るかのような、やめて欲しくなどないような、そんな表情をセレジア自身が示してしまったのだ。
 そのことに気づいたセレジアは、すぐにでもたった今の自分を訂正したかった。
 だが、もうこうなると中年の方が早い。
「やめて欲しくないようだね」
 訂正の先手を打って、中年はセレジアの気持ちを確定させ、もうそういうことなんだと、セレジアはシて欲しいと思っているのだとして押し通す。
 セレジアは愛撫に翻弄された。
 全身を這い回り、耳でも首でも攻める指先と、巧妙に胸を揉み込む技に弄ばれ、膣口に指など挿入されてしまえば、全てをコントロールされているも同然だった。
「そろそろ、もっといいものを上げよう」
 両脚からショーツを抜き取り、中年の手で開脚させると、セレジアの秘所にはペニスの先端が触れていた。
「もしかして……!」
「それとも、嫌かね」
「い、うぅっ……」
 たった一瞬でも、一秒でも答えに詰まればもう遅い。
 中年はこうして何人もの女を落としてきた。
 わずかな隙間から心を抜き取り、本当はシてみたい気持ちを見つけて突き崩す。
「嫌ではないようだね」
 中年のペニスは秘裂を割り開き、グイグイと押し込むように亀頭が膣の奥へと収まっていく。根元までもがすっぽりと、完全に入りきってしまうと、もはやセレジアには逃げるだの嫌だからやめてもらうだの、そんな選択肢は残されない。
 セックス。
 それ以外の道がセレジアには存在しない。
「あっ、あぁ……! あ、あ、あっ、はぁ……! あん! あぁん!」
 老獪なピストンがセレジアを責め立てる。
「ははっ、そんなに喜んじゃって」
「あぁっ、あぁぁっ! あん! やめ――な……あぁっ!」
 軽やかなリズムでゆっさりと、ゆっさりと抉り込む腰の動きで、亀頭が抜け出るギリギリまで引いて貫く。そして、バウンドで跳ね返るかのように腰を引き、勢いかけてまた貫く。
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
 あまりにも一定間隔を保つリズムにセレジアは、まるで時計の秒針にでも合わせるように喘いでいた。
「セレジアさん。君が自分で隙を見せたんだよ?」
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
「無警戒に酒を飲み、マッサージで肌を触らせ、だんだん感じてパンツを見られても何も言わなくなる。君自身に落ち度がないとは言えないねぇ?」
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
 男の策謀であることは明らかだが、もしも十分に警戒していれば、今頃はこんなことにはなっていない。
 自分が悪いのだと教え込まれるセレジアは、中年の言葉を快感と共に覚え込み、一種の後ろめたさに飲み込まれる。
 セレジア・ユピティリアはヒロインキャラクターだ。
『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』に登場する主人公カロンの良き相手として、お決まりのヒロインのように設計された人物像の心には、今でもカロンがいて然るべきだ。そのセレジアが他の男に突かれるということは、カロンに対する罪悪感を孕むことにも繋がっている。
 自分が悪い。
 ……ごめんなさい。
 そんな気持ちを浮かべながら、セレジアはリズム通りに喘ぎ続ける。
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
 中年の行うリズム通りのピストンで、リズム通りに鳴いているのが面白いから、まるで楽器の玩具で遊ぶような感覚でセレジアは弄ばれている。
 ただ上手いだけには留まらない。
「あ……」
 急にぴたりと腰が止まると、セレジアは切なげに目で問いかけた。
 何故、どうして急に止まるのか。
 ――寸止めだ。
 セレジアがイキそうになっていたのを中年は見逃さない。だが、セレジアにとっては当然そのまま続くと思われた腰振りが、こうして止まってしまっている。
「ん? どうかしたかね」
 白々しく尋ねるが、中年にはわかっている。
 ヒクヒクと蠢く膣壁が、どれだけ肉棒に動いて欲しがっているか。根元までを埋めるだけ埋めたまま、それが動いてくれないことのもどかしさはどれほどのものなのか。
「なんでもないわよ……」
「そうかそうか」
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
 リズミカルなピストンが再開すると、喘ぎ声もやはりリズミカルになっている。
(コントロールされてる! そうなるように!)
 いかに自分が思い通りになっているのか。
 セレジアは喘ぎながら思い知る。
 またイキそうになれば腰振りは停止して、中年は手慰みに胸を揉んで遊び始める。その揉み方からして上手いのが始末に終えず、繰り返し繰り返し、セレジアがイキそうになるまで腰を振っては寸止めのタイミングで停止した。
(わざとやってるってわけ? この男は……!)
 初めのうちは恨めしそうに睨み返した。
 だが、生殺しが続くほど、下腹部の切ない感じは膨らんで、ピストンが止まるということに苦痛さえも感じてしまう。
(どうして……い、イキたい…………)
 いっそ、自分から動きたいくらいであった。
 策謀によってセックスに持ち込まれた事実など、もう快楽の波によってどこか遠くへ流されてしまっている。もしセレジアが今夜のことを後悔したり、この中年を責めるとしても、それは明日になるはずだ。
(イキたい、イキたい、イキたい、イカせなさいよ!)
 歯を食い縛っているセレジアの表情は、睨むというより、むしろイカせてくれないことを責め始めている。
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
(どうせイカせてくれないんでしょう?)
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
(い、ク……! だから今度も……)
 案の定、ぴたりと止まる。
(ほら、やっぱり)
 これだけで、かなりの時間が費やされていた。
 一時間は経っただろうか。
 少なくとも、十分やそこいらの挿入時間などではない。
「あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ! あぁっ!」
 と、まだ続く。
「セレジアさん。何か望みがあるようだね」
(まさか言わせるつもりなの!?)
「言ってごらん?」
(嫌よ。自分で認めたみたくなるじゃない……!)
 あくまでも口車に乗せられて、上手いこと騙される形でこうなったのだ。だから自分から求めるような言葉は出せない。さも自ら求めてしまったような、重大な言質を取られることだけは避けようと、耐えて耐えて耐え抜くが、いつまでも耐えていられるわけがない。
「観念するかね。セレジアさん」
「……しないわよ」
 それはいつのまにか勝負にされていた。
 イキたいと言わせれば中年が勝ち、最後まで言わなければセレジアが勝つゲームは、しかしあと何時間も耐えれば中年が負けてくれるかわからない。
 そして、その抜き差しがもっと小さく軽やかなものに変わると、アソコのもどかしさは一層のものとなる。

 ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ――。

 たった数センチしか出入りしない。
 より時間をかけてイキそうなところまでいくセレジアは、長時間かけてようやく辿り着こうとした絶頂をお預けにされ、一体何度目かもわからない停止を味わう。ピクリともしない肉棒が自分の穴にハマっているだけで、甘い放電によって快楽を流され続けている感じがして、切なさでたまらない。

 ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ――。
(い、イキそう……だからイケない……)

 ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ――。
(ん、ぐっ、イキ……たい……けど……うぅぅ…………)

 セレジアは教え込まれているのだ。
 このままではいつまで経っても、イクことの出来ない時間が続く。
 まして、もしセレジアが勝負に勝ったら?
「永遠にイケなくても構わないお覚悟で?」
 そんなことを問われ、思わず首を振りそうになった。
 もう駄目だ。
 イキたい、イキたい、イキたい……。
 それを心の中で唱えても、中年がセレジアをイカせることは永遠にない。最後まで我慢した場合の末路は、生殺しのままイキたいカラダを放置され、絶頂なんてさせてくれずに中年が帰ってしまうことである。
 そんなことになったら最悪だ。
 自分の指でしたって、絶対にこんなによくならない。
 イキたい! イキたい!

「イカせて……下さい…………」
「じゃあ、口でシてもらえるかな?」

 耐えていることに限界がきて、観念しきった諦めた顔のセレジアは、もうどうにもならないことを悟って懇願した。
 そして、言葉を声にした結果が、フェラチオというさらなる条件提示だ。
 今までずっと、完全に一時間以上はハマり続けていた肉棒が、恐ろしいほどあっさりと引き抜かれ、セレジアはさらなる真実を悟っていた。
 言う通りにしなければ、もう挿入さえもしてもらえない。
 口でするしかない。
 我慢の限界に達しているセレジアは、よもや静かに従って、目の前に突き出されたものをこれから口に咥えるのだと、自分はこれからそうするのだと知っていた。そうしなければイクことが出来ないから、自分はイカせてもらうための努力を始めてしまうとわかっていた。
「さて、と」
 中年はベッドシーツを足場にして、仁王立ちで一物を正面に突き出した。
「あーあ、負けちゃったわ」
 明るく振舞ってみせなければ、そうしなければやっていけないかのように、セレジアはどうにか軽口を叩いてみる。
 慎ましく正座して、それだけで顔と肉棒の高さがぴったりと合ったので、セレジアはそのまま上半身を前に傾け肉棒に奉仕した。

 ぺろっ、ぺろぺろっ、

 セレジア・ユピティリアが権力者の亀頭を舐めている。
 それは成人向け同人誌を描く作者が、作品の内容によっては出すことになるシチュエーションで、どんな『精霊機想曲フォーゲルシュバリエ』のファンでさえ知らないうちに、それが正真正銘の意味で実現している。
 顎をしゃくるかのように舌を突き出し、舌先で中年の鈴口に触れている。
 ぺろぺろと、ぺろぺろとカウパーを舐め取って、唇を大きく開いて飲み込むセレジアは、頭を前後に動かし始めた。
「じゅ……ず、ずずぅ……じゅっ、つ、ぬぷぅぅ…………」
 今までアソコに入っていたものが、今度は口の中に入っている。
(大きい。こんなの入ってたなんて……)
 口を開いての顎への負担と、唇を巻きつけている感覚で、これほどのものだったのかと今更ながら実感する。
「こっちに視線をくれるかな」
(こうかしら)
 中年は目でも楽しむ。
 赤髪の美女の口に汚い棒が収まって、頬もさきほどから火照ったままの視線と目を合わせ、指先に髪を絡めて弄ぶ。
「じゅっ、じゅずっ、じゅぅぅぅ……ちゅるぅぅ…………」
 口技のつたないセレジアはこう思う。
(こんなのしたことない。ちゃんと出来ているのかしら)
 そして、もっと強い思いは言うまでもない。
(イキたい。早くイキたいのよ。早く、早くぅ……うぅ……)
 絶頂まで導いてもらうには、とにかく口を使っているしかない。
「じゅじゅぅぅぅ…………!」
 イクことへの思いを込めたフェラチオは切実だった。
 耐えられない。我慢できない。
 イキたい、早く欲しい。
 入れて欲しい。
(……私って……もう本当に……我ながら呆れるわね)
 おチンチンが欲しくて頑張っている自分に気づき、自分の淫らぶりに涙して、こんな女はカロンだって嫌だろうと悲しくなる。
「――じゅっ、じゅっ、ずじゅっ、じゅぽっ」
 だけど、それでもイキたくて、セレジアは頑張ってしまっている。

「いい子だ。イカせてあげよう」

 天国への扉が見えた気がした。
「四つん這いになりなさい」
 ベッドシーツに両手をついて、肘も低めたセレジアは、おねだりのように尻を掲げていやらしくもペニスを求める。下がっていたスカート丈を上げ直し、中年の手でお尻を丸出しにしてしまうと、セレジアの媚尻はかなりの色香を滲ませていた。
 まるで真夏の暑さが大気にモヤをかけるかのように、感度の高まりによって火照った尻からメスの香りが漂っている。入れて欲しいと望んでやまない、尻肌に触っただけで弾け飛ぶに違いないほど、甘い痺れを溜めるだけ溜め込んで、煮えたぎるほどに火照っている。
 肉貝の表面は愛液のぬかるみによってベッタリだ。
 中年がそこへ肉棒を接近させ、入り口に亀頭をぶつけると、やっと挿入し直してもらえる事実にセレジアはごくりと息を呑む。たった一秒さえも待ちきれないほど、全身でペニスを待ちわびていた。
 ずんっ、と。
 肉棒を押し込んできた腰が、セレジアの尻にぶつかり、身体を丸ごと揺らす。
「あぁ――――――」
 来た。これだ。
 セレジアは全身で喘いだ。
「あぁぁぁっ! あん! あぁぁん! あっ、あぁっ、ああああ! あぁっ!」
 何もかも忘れて喘いでいた。
 シーツを掴む握力を強めていきながら、貫かれるたびにビクビクと背中を逸らし、髪も振り乱してよがっている。気持ちいいあまりに太ももの筋肉も強張って、足首やつま先までもが力んでいるセレジアは、全身という全身を使って快楽を表現しているようなものだった。

「あぁぁ――――――!」
 
 イクまで十秒もかからなかった。
 脳に雷が落ちたような衝撃で、視界まで真っ白になった気がしたセレジアは、途方もなく気持ちよかった余韻に肉体の皮膚面積全てを疼かせている。
「まだまだ。たっぷりとイカせてあげよう」
 絶頂は一度に留まらない。
 中年の肉棒は何度でもセレジアの中を抉って、深々とした貫きでセレジアの声を引き出す。
 最後には無我夢中だった。
 正常位や側位もこなし、あらゆる体位でイったセレジアは、いつしか騎乗位で腰を振り、自分から動いて快楽を貪り尽くす。
 完全なる性欲の虜であった。
 快楽を食い尽くし、体力を使い果たす最後の一瞬まで、永遠にイクことを求めるだけの堕ちた存在と化して狂い果て、本当にスタミナ切れを起こすまで、セレジアは止まることを知らなかった。
 そして、恥じた。

(私のバカ。なんであんなことに……)

 色狂いとかした記憶が頭を掠め、そんな己を恥じながら、翌朝のベッドから起き上がったセレジアは、いつの間にか全裸でいた。途中までは着衣エッチだったはずなのに、いつから全裸でのエッチだったのかさえわからない。
 セレジアが理解しているのは、自分が堕ちて狂っていたことだけ。
「……あっ! ちょっと、あれだけしたのに」
 ベッドから出ようとして、まもなく起きた中年に捕まって押し倒され、夜の続きとばかりの愛撫地獄に負かされて、またも挿入まで持ち込まれる。
 昨日の再現のように寸止めを繰り返され、イキたいことを告白させられ、イカせて欲しければ舐めろと言われてペニスを舐める。フェラチオの末にたくさんイカせてもらったセレジアは、この男のペニスを完全に教え込まれた。
 彼とのセックスがどれほどの快感で、イク瞬間は天国なのか。
 長い時間をかけた勉強で、嫌というほど覚えこんだセレジアは、最後にはセックスフレンドになることまで約束させられ、やっとのことで帰っていった。

『今晩どうかね。素敵なホテルと酒を用意しておこう』

 さっそく、お誘いのメールがあった。
 誘いに乗れば何をしてもらえるか。
 どこか期待しているセレジアはすぐに返事のメールを出す。

『いいお酒、用意しておいてね』

 送信。
 その晩もセレジアは中年と性交した。




目次に戻る

inserted by FC2 system