的場響子と百目婆ア


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 本編 第41話「百目婆アの恐怖」より


     *


 的場響子は川を見ていた。
 山中を下流に向かって流れる上流河川は、涼やかに水を響かせている。突き出た岩で水流が砕けて泡が立ち、それが水しぶきのような綺麗な川の水音となっているのだ。
 川を囲む森の緑からは鳥の鳴き声が耳に染み入り、自然の静けさが響子の心を和ませていた。
「自然は美しい」
 響子は言う。
「この自然を破壊しようとするクライシスは、どんなことがあっても許せない」
 地球侵略を目論むクライシス帝国は、クライシス人の体に合わせて地球環境を変えようと目論んでいる。移民団を受け入れるための空港基地を勝手に建設し、今にも人々からこの日本を占領しようと死に物狂いだ。
 もっとも、クライシスからの移民船を誘導するレーダー塔は、南光太郎がことごとく破壊して回っているわけだが。
 許せない。
 両親の命を奪い、この自然をも壊そうとするクライシスは許せない。
 響子はその綺麗な川を瞳に焼き付け、最後まで彼らと戦い抜く決意を固めていた。
 その時だ。
 ――気配を感じた。
 背後の茂みで、草を掻き分けるような物音がした。
 咄嗟に振り向くと、木々の密集した木の葉の隙間から、青い輝きがこちらを覗く。それはまるで、おびただしい数の目玉を持つ妖怪が、閉じていたたくさんの瞼をいっぺんに開く光景を想像させた。
 響子はその正体を追いかけ、獣道を走る。
 車が行き来できるような砂利だらけの道へ出て、左右を伺いながら進んでいく。武器である弓矢をつがえ、いつクライシスの敵が現れても矢を放てるよう、響子は警戒心を高めていた。
 すると、笑い声が聞こえた。

 ――ひゃはははははははは!

 しわがれた老婆があげる老獪な笑い声と共に、その怪人は木の上から、まるでコウモリのように、あるいは人間が鉄棒で逆さにぶら下がる時のような形で、醜い妖魔が響子の前にその姿を見せてきた。
 老婆の怪人は軽やかに枝から飛び降り、笑いながら響子へ迫る。
 響子は咄嗟の判断で、敵から距離を取ろうと走り出す。追ってくる老婆を背に、茂みを突き抜けたところで弓矢を構えて振り向いた。
「止まって!」
 追ってくる怪人に対し、響子は威嚇の姿勢を見せる。
「何者なの!」
 響子の気を張った問いかけに、老婆は実に老獪な年寄り口調で答えてきた。
「私は若い女が大好きな百目婆アぢゃよ」
「百目婆ア?」
「そうぢゃ。百の目を持つババアぢゃよ。若い女の命を吸って二千年生きてきた。今度はお前の命が欲しい」
「お前はクライシスの妖族ね?」
「命をくれぇ、命をくれぇぇぇぇ」
 まさに妖怪だ。
 体中に目玉を生やした白髪の老婆が、命をくれと迫ってにじり寄る。昔話に出てくる妖怪などが、ちょうどこんな風に迫ってきて、人を追い回していたのを思い出した。しわしわの長い白髪を伸ばし、奇怪な仕草をしているところがまさしくそれだ。
 響子は矢を放つ。
 百目婆アへ向かったその矢は、しかし身体をすり抜け向こう側の木へ刺さった。
 効いていない!
 自分の武器が通用しないとわかると、響子は背中を向けて逃げ出した。
 山中に小屋を見つけ、そこへ逃げ込み戸を閉める。
 だが、百目婆アも追いついてきた。
「命をくれぇ、命をくれぇぇ」
 百目婆アは外側から戸を揺らす。
「開けてくれぇ、開けてくれぇぇぇ」
 棒をかけて外からは開かないようにしているが、これでは百目婆アが外にいる限り響子は中から出られない。
 逃げたつもりが閉じ込められる形となった。
「開けてくれぇ、開けてくれぇぇぇ」
 戸を叩かれ、揺らされる。
 その木板がドシドシなる音に、今にも戸を破られるのではと恐怖を覚え、響子は必死になって内側から戸を押さえた。
 この戸を守れるかどうかが、響子にとっては生死の境だ。
「光太郎さん……助けて!」
 懸命に押さえつけている響子は、恐怖と焦りから、自然とRXの名を口に漏らした。
「開けてくれぇ、開けてくれぇぇぇ」
 戸が揺れる。
 しかし……。
 突然、止まった。
 すぅっと、外側から叩かれていた戸板は急に静かに音を沈めた。あんなに開けるように迫っていたのに、こんなにもいきなり静まってしまうと、さっきまで感じていた命の危機に対して拍子抜けさえしてしまう。
「帰ったのかしら?」
 きょとんとしながら、響子は戸板に耳を当て、外側の様子を音で伺おうと試みる。
 外からは、何も聞こえない。
 外からは……。

 パチンッ、

 それは熱した巻きが火花で弾けるような、囲炉裏で火を燃やしている音だった。
 もちろん、響子に火をつけた覚えはない。ここまで必死に逃げ込んで、戸を破られないように格闘していた響子にとって、囲炉裏に火をつける暇もなければ、暖まったり炊事を行おうという発想自体がなかったのだ。
 それなのに、火が熱を上げた際に聞こえる弾ける音が、パチパチと鳴っている。
 まさか――。
 恐る恐る響子は振り向く。
 すると……。

 ――いた!

 どうやってか。
 いつの間にか囲炉裏の前に座っていた百目婆アに、響子は反射的に矢をつがえ、弓を放とうと構えを向けた。
「無駄なことぢゃよ。私は不死身ぢゃ。そんなものでは倒せぬぞ」
 それでも響子は矢を放つが、刃はすぅっとその身体を透過しすり抜けて、向こう側の壁にむなしく刺さるだけだった。
「ひゃははははっ、的場響子。私から逃げることはできぬ。綺麗な目ぢゃ。それに若々しくて美しい体を持っておる。私はお前のような若い女が大好きぢゃ」
「私をどうするつもりなの!?」
「私が不死身なのはのぅ、この目の中に若い女の命を吸い込むからぢゃよ」
 百目婆アは額の瞳を指で示してみせた。
「吸い込まれてたまるものですか!」
「ひゃはははっ、私と勝負してみるがよい。お前が勝てば私の目は潰れる。お前が負ければお前は私の目の中に吸い込まれることになる。お前は強い念動派を持つ娘ぢゃ。お前の命を吸えば私の命は五百年は長らえるというものぢゃ」
 そして、その時だった。
 響子の体が勝手に動いた。
「こ、これは一体!?」
 百目婆アの念動力だろうか。
 まるで見えない力に手足を掴まれ、人形遊びのように肢体を動かされ、その手はなんと服を脱ごうと動き始める。
「すぐに吸い込むのは勿体無いでのぅ。その若々しい体で私を楽しませるのぢゃ」
「そ、そんな破廉恥な!」
 自分の手が今にもシャツをたくし上げ、まずは一枚目を脱ぎ捨てる。
 響子はもちろん、脱ぎたい意志など欠片もない。抵抗しようと、自分の手足を自分自身の意志で動かし、この脱衣を止めてみせようと強く念じるが、まるで思い通りには動かない。見えない力の芯が手足の内側に入り込み、どうしても勝手に動いてしまう。
 腰のベルトが外れ、履物が下ろされ、下着が取れていく。
「脱ぐのぢゃ、脱ぐのぢゃぁ」
「嫌っ! やめて!」
 響子が全裸になるまでそう時間はかからなかった。
「はだかぢゃ、はだかぢゃ」
「嫌! 見ないで!」
 響子は両手で大事な部分を隠して座り込むが、念動力ですぐに体を動かされ、気をつけの姿勢を取らされる。
「ええ体ちゃのう?」
 老婆の囁きが響子の屈辱を刺激した。
「このっ! 破廉恥!」
「ほほっ、もっとええことをさせてやろうかのぅ?」
 響子の腕が秘所へ向かう。
「嫌! 嫌!」
 指が縦筋をなぞり出し、響子は屈辱に顔を歪めて真っ赤になった。
 両親の仇であるクライシス仲間の前で、全裸にされた挙句に自慰行為を強要されるなど、尋常でなく恥ずかしい。涙が出そうなほどに惨めさが身に染みた。
 指が膣口へ入っていき、もう片方の手が乳房を揉み始める。硬く尖った乳首を摘み、下の手は秘穴を出入りした。
「クライシス! こんなことをするなんて……絶対に許さない!」
 響子は百目婆アを睨みつけるが、淫らな真似をしている女がその最中に相手に怒った顔を見せるなど、相手をいい気にさせるだけである。
「ほほっ、ええのぅええのぅ」
 百目婆アは喜んでいた。
「くっ……んぁぁ……!」
 こんなことは今すぐやめたい。
 響子は身をよじって抵抗するが、なんら意味はなさずに両手は自慰のために動き続けた。
 秘所は愛液を分泌し、ほとばしる快感に膝が震える。力が入らず、まともに直立姿勢を保ってはいられなくなり、気持ちいいあまりに腰がくの字に折れかけになった。
 甘い痺れに膝をつき、それでも指は動き続ける。
「――このっ、このぉ! 止まれ! 止まれ!」
 自分の体に向かって響子は叫ぶ。
「無駄ぢゃ無駄ぢゃ。そのええ姿をもっと見せろ」
「いやぁぁ!」
 指が、アソコをぱっくり開いた。
 膝立ちで腰を前へと突き出し、自ら大事な貝の中身を見せつけるポーズを取っている。いくら念動力のせいとはいえ、自分がとてつもなくはしたない真似をして思えてきた。
「ほほほほほっ」
 響子はそして、あらゆる痴態を晒す羽目となっていく。
 四つん這いでお尻を振った。仰向けでM字開脚のポーズを取った。股間を強調するようブリッジのような形で仰向けから膝を立てた。
 もはや舌を噛み切りたい。
 それほどの恥辱に濡らされ続けた。
 そして……。
「――いっ! いや! いやぁあああああ!」
 絶頂の潮を吹かされた。
「ひゃっひゃ、楽しかったわい」
 そして、響子は百目婆アの瞳に閉じ込められる。

 その後、RXに変身した南光太郎によって救出されるが、恥辱を味合わされた思いは消えない。
 しかし、こんな話を誰にも告げられるわけがなく、響子はただぐっと歯を噛み締めて過去の屈辱を堪え続けた。
 時間と共に忘れ去るまで……。





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