グレムリンの痴漢命令


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 グレムリンの指示でゲートを絶望させろ。
 それがワイズマンの意思だった。
 ワイズマンの意思は絶対――グレムリンの意思はワイズマンの意思に等しい。メデューサがラッシュアワーの通勤電車に乗車したのも、全てはグレムリンの命令のうちであった。
 身動きできないほどの満員状態に押し潰されそうになりながら、メデューサは吊り革を掴んで電車に揺られる。

 さわっ、

 お尻に異変を感じる。
 背後に立つサラリーマンの手の平が、メデューサのヒップに膨らみに押し付けられていた。吸いつくサラリーマンの手はお尻の丸みを撫で回し、中指を割れ目の中へフィットさせる。指が割れ目に沿うように、メデューサのお尻は触られていた。
(……どうして私がこんなことを)
 狙いのゲートはサラリーマンだ。
 男を絶望させるためにグレムリンが考え出した作戦は、痴漢の罪で警察につき出し男を社会的に抹殺し、妻や娘の失望を誘うことだ。社会や愛する家族からの信頼を失えば、幸せな人生を台無しにした彼はたちまち絶望するだろう。
 男の手はメデューサのお尻を揉み込み、這いまわる。
(そ、そこは……!)
 尻穴に指を立てられ、ぐりぐりとほじくられた。
 メデューサの顔が羞恥に歪む。
 このサラリーマンは仕事でだいぶストレスを溜めており、ついこういう形で発散してしまうとグレムリンは言っていた。
 ――結構大胆に触ってくると思うけど、頑張ってね?
 いやらしい顔で命令を下された時には腹が立ったが、逆らえない立場では歯噛みして堪えるより他はない。
 丸いお尻を這いまわり、尻穴をつついて指を押し込む。執拗にほじくられ、メデューサは腰をよじって逃れようとした。
 だが、グレムリンの指示を思い出す。
 ――嫌だからって逃げちゃ駄目だよ? しっかりエサに食いつかせないと、魚は釣り針にはかからない。駅に着くまではちゃーんと触らせてあげて、それから初めて駅員に突き出すようにね?
 痴漢にひたすら俯いて、無抵抗になりきって、声をあげたり足を踏みつけるような反撃は何もできないと思わせる必要があった。全てを受け入れ、好きなようにさせてやる必要があった。
(グレムリンめ、覚えていなさい)
 恨めしい気持ちを煮えさせて、メデューサはじっと痴漢を受け入れる。
 抵抗できずに俯くフリで、サラリーマンは調子付く。
 彼はメデューサの腹にがっしりと両腕を巻きつけ、お尻に硬直しきったズボンの膨らみを押し付けてきた。
(こんなことまでされるとは……)
 メデューサは顔を歪めた。
 男は硬く熱を持った異物を擦りつけ、腰を揺すってきているのだ。その肉塊はメデューサのお尻にぴったりと収まり、ゆさゆさとした摩擦を与えてくる。双丘でビクビクと蠢くおぞましい感触に塗られていった。
(……本当に大胆ね)
 腹に巻きついた腕は下へ伸び、太ももを撫でる。すべすべの感触を堪能していき、やがて女のもっとも大事な部分に触れてきた。
 男は秘所をなぞってくる。
 指がぐるぐると這い回り、こねるように指がうねる。恥丘のラインをなぞるように指は上下し、お尻には剛直が擦り付けられる。
 体は完全に密着し、背中には男の肉体が抱きついている。顔が頭の横に埋められて、首筋の匂いまで嗅がれていた。
 興奮した息遣いが嫌というほど伝わってくる。
 秘所をまさぐる指が大胆になり、ショーツをずらして直に割れ筋へ触れてくる。蜜液で表面を滑るかのようにして、もう一方の腕は乳房へ伸びてくる。そのまま鷲掴みに揉みしだかれ、痴漢としてはかなり思い切った行為をメデューサは受けることになった。
(電車の中でここまで……)
 サラリーマンは犬の荒息のように興奮しきり、腰の揺さぶりが強くなり、お尻に押し付けられる剛直の触感はより圧力を増してくる。耳を舐められ、乳房を揉まれた。
 不愉快極まりない。
 おぞましい手が全身を這いまわる。乳房を揉む指が、乳首を探るように丘の頂点を這う。下に触れる指が、膣口にねじ込む。さすがにやりたい放題だ。
『まもなく〜駅、〜駅に止まります』
 ようやく聞こえた車内アナウンスに安心する。
 駅にさえ着けば、男を駅員に突き出すことが許されているのだ。そして、家族を持つサラリーマンは痴漢行為が身内にバレて、絶望に堕ちることになる。
 やがて停車し、ドアが開く。
 同時に、メデューサはサラリーマンの手首を掴んだ。

     *

「お疲れ、ミサちゃん。おかげで可愛いファントムが生まれたよ」
 グレムリンがニヤけてくる。
 癪な話だが、あそこまでしたのに失敗では笑えない。晴人達の知らないところで、彼らの手の届かない場所で少しは人間をファントムに変えられていることに、果たして彼らは気づいているのだろうか。
「そ。だけどあんな作戦は真っ平よ。次はまともなやり方にさせてもらうわ」
「それはゲートしだいだね。それより、ミサちゃんは痴漢されて気持ち良かった?」
 無神経にもほどのある問いかけに、メデューサの頭には一気に血が上った。
「そんなわけないでしょう?」
「だよねー? ま、今日はこの辺でおさらばってことで、また明日ねー」
 グレムリンは軽快なステップで去っていく。
 その背を見つめ、そしてメデューサは自分のショーツを気にかけた。ああして声を荒げたのは、ただグレムリンが無神経だったからではない――図星だったからだ。
 一人になったメデューサは、ひっそりとショーツを履き変え、濡れてしまったそれを焼き捨てるのだった。


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