薙切えりなの肛門検査


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 ――遠月茶寮料理學園。

 薙切えりなの通う名門料理学校では、食品を扱う以上は最低限の衛生管理が行われる。生徒は定期的に検便を行って、病原菌を検査するのだ。
 ほとんどの場合、自室で検査キットを使用して、それを提出すれば話は終わる。実際に検査に引っかかる生徒はそういないが、わずかな確率で検査にかかり、徹底検査を受ける羽目になる生徒も中にはいた。
 それがよりにもよって薙切えりなであろうなど、知っている生徒は本人以外には一人もいない。プライバシーの配慮のため、本人及び保護者くらいにしかそんな情報は伝わらないようにされていた。
(全く、どうしてこの私が)
 えりなは検査に引っかかり、肛門科で詳しく調べてもらうように通告された。医者であろうと人にお尻を出すなど不服以外の何者でもなかったが、だからといって、まさか自分が食品衛生を損なうなど、やはりあってはならないことだ。

 えりなは腹をくくって肛門科を受診する。

 待合室で番号で呼び出され、診察室で問診を執り行う。日頃の食生活や体調管理に関する受け答えを行って、いよいよ肛門を診られる時が来た。
「それでは診察台の方へお願いします」
 えりなは横向きに寝転がる。
 目を瞑り、覚悟を決めた時だった。
「四つん這いでお願いします」
「……え?」
 てっきり、横向きでも構わないと思っていた。えりなは前もって診察について調べていたのだが、わざわざ恥ずかしい姿勢にならずとも、きちんと診てもらえるとあったはずだ。
「薙切えりなさん、ですよね。あなたほどの人を相手に誤診などあってはなりません。ここはより正確な診察がしたいのです」
 医者は淡々とそう述べた。
(他意はなさそうね)
 少しでもいやらしい気持ちがあれば罵倒を浴びせてやるところだが、事務的にしか見えない医者を何となく信用した。傍に看護婦もついている。女性の患者を診る場合、セクハラ防止のために女性を置いておく規則があるからだ。あくまで診察、何も心配はないはずだ。
 どの道、覚悟は決めてきた。
「ええ、そういう事なら仕方がないわね」
 えりなは四つん這いの姿勢を取り、頭は枕に寝かせて、お尻を高く突き上げた。
「ただし、これで誤診なんてしたら首が飛ぶと思いなさい?」
 しっかりと釘を刺し、恥ずかしさを堪えようと目を瞑り、枕に顔を埋め、軽く拳を握った。


 なんて面白い光景だろう。
 表面的には事務的に接している医者であるが、心の中は別だった。学園では女王のごとく振舞っている薙切えりなが、こうして人にお尻を差し出している。スカートを捲くり上げると、純白のショーツが丸出しになった。
(いい尻だ)
 布が内側から膨らんだむっちりとした尻肉だ。
 医者はショーツを下げていき、少しずつ顔を出していく生尻を眺める。肉付きの良さといい、肌の質感といい堪らないが、肛門も綺麗な桜色だ。
(さて)
 医療用のビニール手袋をはめ、手始めに菊皺をツンツンつつく。
「ひっ……」
 可愛い声で鳴きながら、皺をキュっと収縮させた。
「表面の方を触診しますよ」
「え、ええ……」
 皺を一本一本なぞりつけ、グニグニと指を押しつけマッサージを施した。外部の方は問題ない。ただ、せっかくの機会だ。診察をこなすだけでなく、肛門を揉まれるえりなの反応を確かめておく必要があった。


 恥ずかしい……。
 えりなは顔を赤くして、これは医療だと言い聞かせ、じっと辱めを堪えていた。肛門を見られるばかりか触診され、指でつつかれなぞられる。尊厳を奪われ羞恥のどん底に落とされるような、今にも怒鳴って医者を殴りでもしてやらないと気が済まないような、途方もない屈辱にえりなは耐えた。
「痛みなどはありますか?」
 医者に聞かれる。
「……ないわ」
 羞恥で声が震えて上ずってしまい、えりなは自然とか細く答えた。
「では内部を触診しますね」
 指を入れやすくするためのジェルを塗られ、肛門にひやっと冷気が走る。皺の一つ一つをなぞるように丁寧に塗りたくられ、恥辱を堪えながら指の挿入を受け入れた。
 医者は指を左右に回転させ、内側を探っている。尻穴内部に異物が蠢く違和感と、こんな場所を調べられ、優位の立場を奪われている不安感に包まれる。傍で見ている看護婦も、この男の医者も、二人ともきちんと服を着ているのに、えりなだけがお尻を曝け出している。こんな形で不利な立場に置かれるのは、どうしようもないほど心もとない話だった。
(早く……! 早く済ませて頂戴!)
 心の中で叫びを上げた。
 ただ指が尻穴で回転するだけでなく、医者はピストンもさせてきていた。指を出し入れすることで、ジェルがネチョリとネバっこい水音を立て、静かな診察室にその聞こえるか聞こえない程度の微妙な音を響かせる。
(遊んでいるの? そのなわけ――ないわよね)
 疑惑を抱くも、ドクターハラスメントを防ぐための看護婦だ。そんなはずはない、その方が患部を探りやすいだけだろうと頭の中の疑惑を振り払い、とにかく恥を我慢する。
「大丈夫よ? 何もおかしいことはしていないから」
 えりなの心中を察してか、看護婦が優しく述べてきた。
「わ、わかっているわ!」
 厚意に対して、えりなは声を荒げてしまう。
「私は好きで我慢しているわけではないのよ? この私が衛生環境を損なうなどあってはならないから、こうして恥を忍んでいるの! 早くその触診を済ませて頂戴!」
 荒げたついでに、医者にまで当たって怒鳴りつけた。
「焦ったちゃ駄目です。誤診なんてあっちゃいけないでしょう?」
「当然よ!」
「できる限りやりますから、もう少し堪えて」
 宥めるような口調で諭されて、えりなはますます恥ずかしい気持ちになった。これでは子供がわがままをたしなめられているようではないか。
「わかっているわ! ちゃんとやるように釘を刺したかっただけよ!」
 言い捨ててから、えりなは静かに口を閉じる。
「もちろん、ちゃんとやりますとも」
 それから、医者は随分長く肛門触診を続けてきた。指を挿入されたまま、指腹で内側を探られ、ピストンされ、執拗に弄られながら、四つん這いの姿勢からでもたまたま見えた壁掛け時計をえりなは眺めていた。
 一分、二分……。
 それだけ経って、まだ終わらない。
 五分、六分……。
 長い時間が経過しても、ずっと指を抜いてもらえず探られ続け、終わる気配のないまま仰向けになるよう指示されて、そんな姿勢から直腸診は続行された。
 上から腹部を押すようにしながら診察したいらしかったが、仰向けでは当然開脚せざるを得ない。閉じていては診察できない。股が丸見えの状態にならざるを得ず、そんな状態で腹部を手で圧迫されながら、えりなはかれこれ十分以上は耐えていた。
 アソコは手で隠していたが、こんなポーズで大事な部分を手で覆うなど、格好悪いことこの上ない。たまらない屈辱だ。看護婦に視線をやるもニッコリと笑い返してくるのみで、医者のこの診察を止めてくれる様子はなかった。
 最終的に十五分は経っただろうか。
 ようやく指を引き抜いてくれたかと思いきや……。
「四つん這いに戻ってください」
 無常な一言だった。
「まだだというの?」
 泣きたい思いで再びお尻を差し向ける。
「しかし、症状が見えてきました。綿棒で直腸粘膜を採取して、最終確認を行います。それから、ちょうど点滴のような感じで点滴薬を打って、その後は経過観察です」
「そう。早くして頂戴」
「ええ、なるべく」
 綿棒を差し込まれ、採取はすぐに終わってくれた。医者は一旦部屋を離れ、採取した細菌を確認して症状を確認し――。
 それから点滴を持ってきた。
 お尻の穴に挿れる関係で、注射針は使わない。ただ、それに近い形のスティックを肛門へ挿入し、チューブに繋いで液体薬が肛門へ流れ込むようにするというのだ。えりなの尻からプラスティックチューブが生えるような形となり、尻尾を植えられた気分がして顔を歪める。
「それで、これはすぐに終わるのかしら?」
「ええ、三十分ほどで」
「三十分? まさか、三十分もこのままでいろというの?」
 冗談じゃない。こんな格好から解放されたい。
「まあ、これで最後ですから。我慢して下さい」
「そ、そんな……」
「液体ですから、一応お尻はそのままで、姿勢は変えないようにお願いします。薬が漏れてしまっては台無しですからね」
「そんなことを言われても……」
 このまま長時間の放置だなど、まるで地獄ではないか。えりなはすがるような思いで看護婦を見るが、やはりニッコリ笑い返されるだけで、何をフォローするでもない。ただ、頑張ってねと一言添えてくるだけだった。





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