風鳴翼 集団痴漢


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 ツバイウィングが片翼だけとなってから、風鳴翼を悩ませるのは、天羽奏を失った悲しみだけの話ではない。

 ――さわっ、

 悩みの種は痴漢だった。
 決して恐怖に縮こまってしまったり、声を上げる勇気が出せない翼ではないのだが、ノイズの討伐を行いながら、歌手としての活動も行うスケジュール上、痴漢を駅員に突き出すことでの時間ロスが手痛いことは珍しくもない。
 忙しさの方が、スケジュールの方が、怖いだなんだということより、よほど翼の抵抗を封じていた。
 窮屈な満員具合の中で、スカートの中へ四指を忍ばせ、尻たぶの下弦をさわさわと撫でて可愛がる手つき――。
 正面からも、同じくスカートに手を入れて、ショーツ越しの秘所を上下に撫でる指がある。
(二人か)
 せめて口頭注意だけでもと考えるが、やめた。
 足を踏む、声を出す。そういったことで手を引っ込めた痴漢などいくらでもいたが、近頃は逆切れして「俺が痴漢だっていうのか!」と強面で絡み、結局は駅員に突き出す流れとなってライブに遅れを生じさせたことがあるからだ。
 面倒な手合いが複数続く不運に見舞われれば、我慢した方がマシという気にもなる。
(一度ならず二度までも、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない)
 だから、今の翼はたかがお尻やアソコは黙認していた。
(この身を剣と心得てきた。ならば私の肌は刃、切れ味そのもの)
 触れ方を間違えれば、たちまち指を裂くだろう。
 ショーツの上から撫でるうちは、致し方なく堪えるが、どこまでか度を過ぎれば、たとえスケジュールに支障が出ても、許してはならないものがある。
 その線を越えないうちは……。
 降車駅まで二十分間、柔らかなタッチを甘んじて受け入れた。

 また、別のスケジュールにて――。

 その日は窓際に追いやられ、後ろから重心をかけてくる痴漢によって、翼は身動きを封じられている。
(これはどうしたものか……)
 尻に肉棒を押し当てられていた。
 スカートを持ち上げたショーツ越しに、ズボンを介した膨らみが割れ目に当たり、痴漢は腰を振るように動かしている。腰のくびれをがっしり掴み、我が元へ引き寄せようと力を加えてくるせいで、翼の身体はややくの字気味に折れている。
 この翼を我が物のように扱う姿を傍目のアングルから見たとするなら、さも立ちバックの体位で挿入して見えるだろう。
(それしきのことが剣を折るでもなし)
 不快感を堪え、翼は静かに時を待った。
 時機に電車は止まるのだから――。

 幾度となく痴漢に耐えた。

 つり革を握っていると、電車の揺れに合わせるフリをしながら、さりげなく手の甲をかすめて反応を確かめる。モゾモゾと身をよじる程度の抵抗しかしないでいると、急に強気になってスカートの中身を揉み始めた。
 片方の尻たぶの形に合わせて、手の平全体でぐるぐると撫で回し、五指を使って存分に揉み込んだあと、もう片方の尻たぶも撫で回す。

 割れ目の愛撫でテクニックを発揮して、軽やかなタッチを披露した。
 バイブめいた小刻みの振動でほぐしていき、手の平でぴったりと覆い込んでは揉みほぐす刺激にアソコは濡れ、手で払いのけようと思っても、翼の両手を掴んで押さえるもう二人の痴漢が邪魔でどうにもならない。
 翼の手は両方とも、ズボン越しの膨らみを触らされていた。
 おまけに尻を触る男もいて、合計四人から痴漢を受け続けていた。

 手という手の数々が、翼の体中をまさぐった。
(よってたかって、羽を毟ろうとする輩共かッ!)
 肘打ちで軽く小突いて、足を踏みつけてみるものの、誰一人の手も止まらない。
 耳を触る指が、うなじを撫でる手つきが、背筋に、腰のくびれに、太ももに、ありとあらゆる箇所に手の平がべったりくるか、指先でくすぐられている。
 当然のように尻とアソコも愛撫され、膣が少しずつ濡らされた。
「や、やめなさい……!」
 声を上げる。
 だが――。
「ははっ、君っていつも楽しんでるでしょ」
「照れなくたっていいんだよ?」
「オジサン達がいっぱい気持ちよくしてあげるからね?」
 あたかも自分達は親切で、好意の施しを与えてあげているのだと言わんばかりの、あまりにもニコやかな笑顔が、翼の周囲を十人以上で取り囲んでいた。
「まさか! 楽しんでなんて――」
「いいからいいから」
「指も入れてあげますからねぇ?」
 スカートの中からショーツが下がり、膝に絡んで動きにくい。
「やめ――!」
 身悶えしても、暴れても、装着無しではただの人間にすぎない。いくら鍛えてきた体とはいえ、満員密集の状態で数の利に飲まれれば、抵抗などできようはずもなかった。
「あぁぁ……! あっ、んっ! やめぇ……!」
 挿入された指が出入りする。
「いっ、いひぁああ……!」
 がっくりと力が抜け、膝の力が緩んで内股気味になる。本当なら尻餅でもついて座り込むところだが、四方八方にいる中年達が翼の体を抱き捕らえているのだ。
 制服のネクタイに手がかかり、引き抜かれていく。
 ワイシャツのボタンが開かれて、ブラジャー越しの胸があらわとなる。
「やめっ、ひぐぅ……! んっ、んむぁ……!」
 乳首をつまむ刺激に髪を振り乱した。
「いい声で鳴くねぇ?」
「すっごく聞き応えのある喘ぎだよ」
 孫が可愛くてたまらないような笑顔ばかりが並ぶのは、普通の痴漢と比べて狂気であろう。
 そんな厚意を気取った手が、腹も尻も愛撫して、アソコの穴には経験豊富な指が愛液をかき鳴らしている。
「今度はもっといいものあげようか」
 指のピストンをしていた中年は、その指を抜いたと思えば、次の瞬間にはベルトの金具を外し始めていた。
「よ、よして! それだけは――」
「いいんだよ? 照れなくて」
 より身悶えが激しくなっても、手という手の数々によって、あっけなく股を持ち上げられ、M字開脚が宙に浮くような形で抱きすくめられてしまう。
(わ、私は剣なんだ! この身はそんなものを収める鞘ではない!)
 ぬらぬらとした熱気を放つ肉棒に目を奪われ、羞恥と戦慄の感情が胸の内側でない交ぜになっている。
 迫り来る挿入の危機に、翼の抵抗はやはり無意味に封じ込められ――

 ずにゅぅぅぅぅぅぅ――

 太い一物が、翼の穴を内側から押し広げた。
「あぁぁ……! あああ――!」
 ピストン運動が始まると、小刻みかつ素早い腰の振り込みが、激しい快楽によって翼を攻め立てた。
「――あぐぁああ! あっ、あああん! あっ、んんんん!」
 工業機械が秒間にいくつも製品を打ちつけるような速度で、休みなく下から打ち上げる快感は、腰から背中を伝って脳で弾けて、翼の頭を文字通り真っ白に染め上げる。

 ――ずぷん! じゅぷん! ずぱん!

 打ち付ける音が車内に響く。
「それにしても、あの風鳴翼ちゃんがこんなにエロいなんてねぇ?」
(わ、私を知っていて……ッ!)
「だけど、エロいのは悪いことじゃない。大丈夫だよ?」
(何が大丈夫なものかッ! 早く抜いて……ッ!)
 しかし、喘ぎ声しか出せない口は、それらの言葉を決して声にできずにいる。

 ――ずにゅぅぅぅぅぅっ、ずりゅぅぅぅぅぅぅぅぅ。

 やけにスローペースな出し入れになったとき、えげつないほどの快感が、神経という神経を伝って荒波のように下半身全体に押し寄せて、つま先にかけての筋肉が溶け落ちているかのような錯角さえ覚えていた。
「あっ! あうぅぅっ、んぬぁぁッ! あ……っふあ……ッ!」
 もう喘ぐことしかできない。
 快楽に脳を埋められ、何一つ思考できずにただ鳴いて、いつの間にか体位を変えられていることにも気づかずに、ふとすればバックから突かれていた。
 窓に両手をついた状態で、腰のくびれを掴んだ中年が、大胆に尻を打ち鳴らす。
「いやぁ、喜んでくれているみたいだねぇ?」
「よかったよかった」
「さて、そろそろ私にも挿入させて下さいよ」
 肉棒が抜け落ちたかと思ったら、後ろで人が入れ替わる気配の次には、また別の肉棒が挿入された。
「んッ! あぁぁぁ……ッ!」
「これは名器ですな?」
「ひっ、んぐッ! むぅ……ぬふぁ……ッ! あぁぁ……ッ!」
 頭が真っ白なあまり、腰全体がビクついて、自分が絶頂したことにも気づいていない。
「イキましたねぇ?」
「何回目です?」
「あんまりイカせちゃうと、ライブの予定に響いちゃうでしょう」
「うーん。そろそろ引き上げますか?」
「時間ですものねぇ?」
 中年達は口々に勝手を言い、ファンからの翼に対する『サービス』を切り上げた。
 タオルで汗を拭いてやり、着替えを手伝ってやる心遣いは、それが恋人同士のセックスであれば立派な親切に違いないだろう。
 彼らはただの痴漢なのだ。

「また『サービス』するからね?」
「ライブ頑張って」
「おじさん達みんなで応援するから」

 降車駅から迎えの車と待ち合わせ、ライブ会場へ向かう翼は、始終放心しきったまま、どこか虚ろな瞳で世界を眺めた。
(私は……)
 車内で遭った散々な目が脳裏に蘇り――

(私はッ! あんなことで折れる剣ではないッ!)

 翼は心を強く保った。
 歌い、そして戦う。
 防人たる自分に恥じないように……。





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