木虎藍の身体測定


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 恥ずかしい――。
 けど、我慢。

 界境防衛機関所属の木虎藍は、年頃の少女らしいウブな羞恥心を芽生えさせ、頬をほんのりと紅潮させて、男性職員の視線を堪えていた。
 パンツ一枚という格好で、両手を頭の後ろに組んで。
 背中へまわされたメジャーが、手前へピンと引き伸ばされ、乳房へと巻きついていく。
 柔らかな丸みの上に目盛りは合わされ、男性職員は桜色の乳首の咲くその一点を注視した。
 オッパイを見られている。
 メジャーを持つ指が少しだけ、本当にさりげなく乳房に当たっている。

 ――やっぱり、恥ずかしいわ。

 女性隊員の身体計測に当たれたこの職員は、間違いなく役得だろう。ハズレを引いた木虎だけが一方的に損をして、恥ずかしい思いにかられている。
 正直、不満はあった。
 しかし、そんな事は口には出さず、平然を装った。
 これも義務のうちなのだと、木虎は理解しているのだ。
 戦闘に身を置く職業上、個々の身体の発達のチェックは当然とされていて、規律に従う精神を確かめる意味でも、こうして衣服を脱いでの検査が定期的に行われる。
 木虎は個室で脱衣を行い、個室の中で、こうしてパンツ一枚での検査を受けている最中なのだ。
 その担当職員が男性だったおかげで、木虎はいらぬ羞恥にかられて顔を染め上げ、恥ずかしながらに義務を真っ当しようと目を瞑って堪えている。

 ――ううっ、まだ?

 乳房にぴったりとメジャーを巻いたまま、男性職員は顔を近づけ乳首の部分を凝視する。目盛りを読むのを長引かせ、さりげなく当てた指で乳房を確かめているのだった。

 ま、当然?
 私の体だもんね。

 木虎は自信ありげに心で呟く。
 しかし、そう誇らしく思ってばかりもいられない。この人がこうも時間をかけているのは、それだけ木虎の体に目を奪われているからかもしれないが、だからセクハラを許そうという気になるかといえば、そうはならない。

 いい加減にしないと……。

 そろそろ、注意してやろうか。
 と、思ったところで。
 男性職員はすっぱりとメジャーを緩め、アンダーバストの測定へと移っていく。

 ――ったく、今度はそれ?

 木虎は憤る。
 バストの付け根に目盛りが合わさり、男性職員は下から覗き上げるような形で数値を確かめ始めたのだ。
 いかにも下乳の眺めやすそうな方法で――。

 ――いちいち気に入らないわね。

 ヒップでも、お尻に巻きつくメジャーの摩擦が気になって、なかなか平静ではいられなかった。
「…………」
 表面上は静かに大人しく、指示通りに測定を受けている木虎だが、その内心は恥じらいに掻き乱され、裸を見られていることに関する思いで荒れていた。
 見れば、男の頭が股間に接近してきている。
 メジャーの目盛りを読むために、履いているパンツのわざわざ手前で交差させ、そこへ顔を近づけている。
 目盛りを読むというよりも、これでは今日のパンツを観察されている気分がした。
 だから、木虎は赤面しきっていた。
 この格好で男の前に立つだけでも、顔面を焼き尽くすような恥ずかしさに耐えているのに、加えて測定行為のために指が体に当たってくる。
 精神的な苦行も同然だ。

 ――お、終わったの?

 ヒップの測定が済んだ時、ただメジャーが体を離れたというだけで、妙にホッとした気持ちになってしまった。
 そして。
 作業をこなした男性職員は、数字を書類に書き込んでいく。
「いくつでした?」
「上から○○センチ、○○センチ、○○センチですね」
「ほほう」
 理想の数字に近づけて、木虎はついついニヤけてしまう。
 やはり、プロポーションは悪くない。
 体つきに自信がついた。
 ――だが。
 一瞬でも恥じらいを忘れた木虎は、わずかに薄れた赤面度合いを、思い出したように色濃くする。
 今はパンツ一枚なのだ。
 とてもニヤけていられる状態じゃない。
「――か、勘違いしないで下さい?」
 とりあえず胸だけは腕で隠して、木虎は言う。
「こんな格好になるのとか、不満自体はあるんですよ?」
 それだけは表明しておきたかった。
 女の赤裸々な姿を見ても許されるのは、選ばれる価値のある男だけだ。友人ですらない他人の前に肌を出すなど、本来なら到底ありえない事である。
 好きで脱いでいるわけではない。
 そう表明しておかないと、タダでサービスをするようで、癪なのだ。
「必要性を認めているから従っているけど、見せびらかしたいわけではないんですからね?」
「は、はあ……」
 職員の困ったような顔を見て、木虎はようやく、少しは納得した気分になれた。
 男に裸を見られるなど、正直、負けた気分になる。
 何の勝負というわけでもないが、一方的に損をして、男の側は良いものを見て得をする。これでは初めから敗北を掴まされた気持ちになってしまうので、どうしても負けを取り戻しておきたかった。
 ややキツい言葉をかけ、相手の困った顔を見て、少しは取り返せたような気がして満足した。
「ま、早く済ませて下さい」
 木虎は体重計に足を乗せ、職員が数値を確認する。重すぎず軽すぎない数字が出て、木虎はまたもやニヤっとしつつ、次の身長計で背筋を伸ばした。
 改めて胸を晒すと、緊張した。

 ――どうせ見るんでしょ?
 ――見たけりゃ、見なさいよ。
 ――あんまりジロジロしたら許さないけど。

 と、強気ながらに思ってみる。
 しかし、やはりこの格好は耐え難い。
 動悸の上がった木虎は、肩を上下させながら、丸い乳房を微かに揺すった呼吸をする。恥らうかのように乳首は尖り、顔の赤みもより濃くなる。
 男性職員の手が鳩尾にぺたりと置かれ、木虎を身長計へ押さえつけた。

 ――ヤダ、汗……。

 木虎はふと気がついて、ひどく顔を強張らせた。
 緊張でかいてしまった微妙な汗で、男性職員の手はべったりと、糊付けのようにくっついている。
 汗っぽさを手で確かめられてしまうのが、どうも余計に恥ずかしいことの気がして、木虎の顔は赤面で変色しきった。

 ――早くしなさい……!

 木虎は強く瞼を閉ざし、身長測定の終わりを待つ。
 バーが下ろされ、数字が読まれ、解放されるや否やとてつもなくホッとした気分になる。

 ――お、終わった……。

 苦しい場所を抜け出して、ようやく息ができるくらいの気持ちがして、木虎はそんな安心感に浸っていた。




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