柚子と権力者


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 その夜――。
 柊柚子が、二回戦目でセルゲイと戦うことになる前夜のことs。
 フレンドシップカップの一回戦目が終了して、部屋の電気を落とした柚子は、ベッドの上で自分の肉体を愛撫する男の手の平に耐えていた。
「さすがは柚子さん。その歳にして良い肉体をお持ちで」
 乳房を撫でるように揉む手つきで、まるで体にナメクジでも這うような猛烈な不快感を覚えて、柚子は全身鳥肌を立てている。
(耐えなくちゃ……!)
 歯を食い縛り、柚子は懸命に心を保つ。
(こんなことに負けていられない!)
 遊矢からの手紙を思い出して、今頃は遊矢も自分のやるべきことをわかっているの違いないことを信じながら、柚子は自分の心を折るまいと耐え忍ぶ。
「いいですねぇ? 権力というものは」
 男は言う。
「お金さえあれば、何だって手に入る。あなたの体もね」
 ほくそ笑む顔を見て、柚子は静かに睨み返していた。
 これはフレンドシップカップの実態だった。
 大会で負けた出場者は、地下送りの上に強制労働をさせられるが、勝ち上がった女性決闘者の肉体も、実は運営によって取引される。本人の意思など関係無く、より高額を支払った男と夜を過ごすことを強要されるのだ。


 ノックと共に自動ドアのスライドが開いたのは突然だった。
「こんばんは。柊柚子さん」
 柚子の部屋へと踏み込んで、ニタニタと微笑む男に戦慄した。
「……あ、あなたは?」
 明らかな舐める視線。邪な感情の篭ったニヤけた表情。
 女として、柚子は自然と警戒していた。
「一回戦目のデュエルを見て、あなたとの権利を購入した権力者ですよ」
「ほら、榊遊矢が言っていたでしょう? このフレンドシップカップで負けた決闘者は地下送りとなり、強制労働をさせられる」
「ええ、聞いたわ。そんなの間違ってる!」
「実はそれだけではないんですよ。この大会の実態としてもう一つ。出場した女性決闘者の肉体は商品として扱われ、本人の知らないところで一夜を過ごす権利が売られているのです」
「そんな! そんなことって……!」
「あなたに拒否権はありません」
 男は言った。
「誰も味方はいませんよ? 逃げることも出来ません。もしあなたが拒否をするなら、勝敗など関係無しに地下送りとなるでしょう」

 かくして、柚子はシャワーを浴びた。
 清めた体でベッドの上に横たわり、男がそれを貪り始める。

 陰毛の少ない秘所の割れ目が上下になぞられ、柚子の全身が総毛立つ。不快感に顔を歪めながらも、男の技巧で愛液自体は分泌され、その指先には少しずつぬかるみが絡んでいる。
「大人しいですねぇ? もっと抵抗してもいいんですよ?」
「ここで暴れたら、ますます不利になるんでしょう!?」
 煽るような猫なで声に、柚子は涙目で声を荒げた。
「まあねぇ?」
「こんな卑怯なやり方で女の子を抱くなんて、そんなことは間違ってる!」
「ですが、とっても濡れていますねぇ?」
 割れ目の周囲を時計回りになぞる指先は、蜜の滑りでぐるりぐるりと、柚子の秘所を愛撫している。どれだけ不快感があったところで、身体自体は反応して、その証拠となる愛液が股を蜜濡れにしている感覚は、柚子自身よくわかる。
 自分こそが柚子を感じさせたのだと、誇らしげにする声が柚子の屈辱を煽り、柚子はますます歯を食い縛った。
「ぐっしょりですねぇ?」
 言葉による指摘は、自分が淫らな反応を示す事実を突きつけてもいて、柚子には何も返す言葉がない。
「もしかして、セレナも……」
 その顔を思い浮かべて、柚子は羞恥と屈辱に震えた声で尋ねる。
「もちろん。彼女も今頃は誰かの相手をしているでしょうねぇ?」
「……酷すぎる」
 男は指を挿入した。
「……っぁ!」
 甘い静電気の走るような快楽で、柚子は悔しげに歯を噛み締めながら、髪を振り乱して小さく喘ぐ。
「感じていては、酷いだなんて説得力がありませんよ?」
 桃色の裂け目に沈む中指は、とろりと水気を含んだ肉の狭間に溶け込んで、ゆったりとした丁寧な出入りで愛液をかき出している。憎悪や拒絶の隙間を縫って、男の指は器用なまでに快楽を引きずり出し、嫌がる柚子の気持ちに関係なく、肉体だけは快感に染めている。
「はぁ……っぁ……ふぁー……はー…………んふぅー………………」
 全力疾走の息切れによく似た乱れで、柚子は熱く卑猥な吐息を漏らす。
「気持ちいいでしょう?」
「……違う」
「何が違うんですか? こんなに濡れておきながら」
「こんなものは、あなたが上手くやっているだけじゃない! 私は心から気持ちの良い気分になっているわけじゃないわ!」
「言いますねぇ?」
 男は楽しげに、指の腹で膣壁を引っかく。
「――あぅっ!」
 ただそれだけで、柚子は男の思い通りに喘いでいた。
「女の子である以上は、私のテクニックからは逃れられない」
(……い、嫌よ! こんな人の思い通りなんて!)
「君はビクンと仰け反る」
「――んぁああん!」
 指の腹が膣壁をひっかくと、背中に電流でも走ったように、柚子は男の言葉通りにビクンと大きく弾みあがった。
(そ、そんな……)
「どうです? 気持ちいいでしょう?」
(ま、負けない……私は負けない……)
 男は指先一つで思うように柚子の反応をコントロールして、大きな喘ぎ声を出させながら、身体をよがらせる姿を楽しく眺める。柚子は涙を溜め込んだ瞳で睨み返して、嫌がりながらも思い通りの反応を見せてしまっていた。
 愛液を吸い込んだシーツはぐっしょりと、ぬかるみを含んで変色している。その股のまわりに水気の円が面積を広げた光景は、柚子がおもらしをした構図に見えなくもない。
「そろそろ挿れて差し上げましょうか」
「――ひっ!」
 入り口の穴に亀頭がぴったりと押し当てられ、柚子は恐怖と緊張に一瞬で身を固める。全身の筋肉が強張って、震えて身動きの取れない様子となり、ただ男が腰を押し進めるのを待つのみとなっている。
「さあ――」
 ぐちゅっと小さな音が立ち、亀頭の先が膣口へと入り始める。
「や、やめて!」
 柚子は両手で押しのけようとするが、左右の手首を押さえ込まれ、抵抗を封じられ、なすすべもなく挿入を受け入れるしかない。
「頂いたよ? 君の処女」
 ニタリとしながら、男は根元まで押し込んだ。
 呼吸も瞬きも、全てを忘れるほどのショックに柚子は放心した。心がどこか遠くへ飛んだまま、そんな柚子へのストロークで男は悦ぶ。
「んあぁぁぁ…………!」
 喘ぎとも悲鳴ともつかない声。
 やがて柚子の真っ白になっていた意識は、水が少しずつ染み込むように、空っぽになった心の中に戻ってくる。
 柚子はゆっくりと、静かに悟った。
 自分は犯されているのだ。
 こんなところで、こんな男に初めてを奪われた。
「ははっ、気持ちいいですよ?」
 男は腰を振り始め、柚子はよがった。
(そんな! 知らない男のものが入って――)
 ピストン運動の肉棒に引きずられ、膣壁が快楽電流で淡く痺れる。甘蜜でとろけた穴は十分に滑りが良く、貫くたびにヌチャリヌチャリと、粘液の水音が部屋に響く。
「――嫌ぁ! いや! イヤァァ!」
 酔いしれる男とは対照的に、柚子は何度も顔を振りたてる。喘いでいるのは望みもしない快感のせいだけではなく、好きでもない男に穴を内側から拡張され、思うままに肉棒を出し入れされている事実のためだ。
(私……こんな形で……!)
 処女を散らされ、初めてなのに気持ちがいい。
 認めたくなかった。
 他に想っている相手がいるというのに、こんなこと……。
(うくぅ……遊矢は……遊矢は自分のやるべきことをわかってる……)
 一突きごとに背筋全体がビクついて、押し寄せる快感の波によがる柚子は、嬲られている恥辱の中で遊矢を想う。
「んぁ! あっ、ああん!」
 遊矢からの手紙を見て、自分の想いが通じたことを柚子は確かめることができたのだ。
 もし、遊矢と結ばれることができたなら……。
 好きな人とベッドの上で、緊張しながら初々しく、お互いに照れ合いながら行為に及ぶことができただろうか。幸せの中で乳房や尻に手を触れられ、最後には初めてを捧げて情熱的に愛し合う。
 しかし、目を開けてみれば……。
 ニヤついた権力者が、金にものを言わせて柚子のことを組み敷いている。
「うっ、くぅ……! 嫌ッ、嫌っ、あぁっ、んあ! ひあぁぁぁん!」
 こんな男の肉棒に対する不快感で、内股はまんべんなく鳥肌を立てているが、膣奥を貫かれるたびに口からは淫らな鳴き声が響き渡り、柚子は髪を振り乱す。脂汗の額の上で前髪を散らかして、必死なまでに遊矢だけを想い続けた。
(……負けない! 負けない!)
 この現実で、自分の心が折れないために。
「んふぁ――んぁ……ひああああ!」
 遊矢はこの大会の間違いを訴えようとしている。
 だから、自分もデュエルに勝って、この次元の人々に伝えるべきことを伝えるのだ。

 ……負けない!

 その晩を超えた柚子は、かくしてセルゲイとのデュエルを迎える。
 自分もまたキングを目指す決意を胸に、柚子はDホイールを発進させた。




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