真崎杏子の羞恥バラエティ


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 ようこそ!
 今夜も始まりました!
 深夜のバラエティ番組――

『レディースGO!』

 当番組では、夢を持つ女性を毎週一名ずつ紹介し、応援させて頂いております。
 それでは、今夜のゲストは?

 ダンサーを夢見る女子高生!
 真崎杏子です!

     *

 それは、司会者のこなれた番組台詞であった。
 スタッフの合図と共に、真崎杏子は大勢の観客に囲まれた番組ステージへと進んでいく。
 カメラには舞台セットしか映さないので、その背後にいる観客は基本的に画面に出ない。何気なくテレビを見る分には、背後の観客が映り込む番組は限られているので、そんな事は考えもしなかった。こうして画面の前へ出て行くのは、とても緊張することなのだ。 
 カメラスタッフの背後に陣取るように、大勢の観客が撮影舞台を眺めている。前もっての指示でか。杏子が現われると同時に一堂は拍手で迎えていた。
 微妙にガチガチになりながら、杏子はぎこちなく舞台へ出た。

 ――うわぁ〜! 私、本当にテレビに出ちゃった!

 嬉しい気持ちはあるのだが、やっぱり初めて画面に映される緊張で、喜んでいるばかりいる心境じゃない。この番組が放送されれば、スタッフや今いる一般客だけでなく、より大勢の視聴者に見られるのだ。
 お色気という理由で、遊戯や城之内、本田にはテレビ出演の話は打ち明けなかったが。絶対にみんなに見られないとは言い切れない。偶然テレビをつけるかもしれない。
 失敗できない。
 そんな重荷が杏子の肩にかかっていた。
 こうしてテレビに出ることになった理由は、ほぼ偶然といってもいい。
 将来はダンサーになりたい杏子は、海外留学へ行くお金を貯めるためにバーガーショップのバイトをしていた。
もちろん、オーディションも定期的に受け、いつか必ず叶えてやろうと出来ることは全力でやっていた。
 その最中だった。
 とある事務所で、オーディション自体は落ちたものの、審査員をしていた番組プロデューサーが杏子に目をつけた。一応筋は良かった杏子の踊りと、ナイスな体つきから、プロデューサーは是非とも杏子をテレビに映したいと考えたらしい。
 その番組が、深夜バラエティ。
 少々お色気要素もあるが、女性の夢を助けるという趣旨を含んでいる。番組中のバラエティゲームで勝利すれば、きっと夢の役に立つプレゼントを貰えるのだとか。ゲームが駄目でも、どちらにせよギャラが出るので、留学のための貯金がたっぷり得られる。
 お色気要素という部分で迷いはしたが……。
 実際に番組を見てみれば、水着姿のお尻や胸をアップで映されるとか、少しだけきわどいポーズを取るなど。確かに進んでやりたい内容ではなかったが、何も股間まで強調するわけではない。悩んだ挙句に夢のためなら安いレベルだろうと判断し、杏子は番組出演の話を了承した。
 そして話は進んでいき、撮影の日程が決められて、それが実際の何月何日に放送されるのかまでが伝えられた。
 今日がその撮影日だ。
 生放送ではないので、NGの撮り直しは効くが、この業界の勝手が杏子にはまだまだわからない。初めてなので、とにかく失敗しないようにと気を張った。
 緊張しながら、舞台に出ていた。

 だが、杏子は知らなかった。

 本当は出演者達はもっと恥ずかしい目に遭っていて、単に放送できないレベルのものは編集でカットされているに過ぎないこと。放送では流れなくとも、非常にきわどい内容のことを平然と行っていること。基本的には控えめだが、たまにはそうした刺激の強い企画を織り交ぜる。その過激な回に当たった女性が、どんな思いを味あわされるか。
 杏子はせいぜい、水着でポーズを取るくらいの控えめなお色気だと捕えていた。M字開脚や四つん這いのお尻アップすら想像せず、もっと常識の範囲で、多少は恥ずかしいものの一般人でも耐え切れるようなレベルで、お尻と胸の映りやすいポーズを取るだろうとしか思っていない。
 本人には何も知らされていないからだ。
 土壇場で撮影内容を知らされて、驚く杏子の表情を取るために……。
 杏子は何も知らない状態で、この撮影日を迎えていた。

     *

「はい。どうも、こんばんは。わたくし、司会の丸山と申します」
「真崎杏子十六歳。高校生です」
「いいですねー。実に可愛らしい! これだけイイ体しちゃってると、男子にはモテモテでしょう」
「え? ええと、どうでしょうねー。エロ戦車とかやってくるような馬鹿な連中はいますけど」
「エロ戦車、ですか?」
「変なこと言いながら、スカート捲りなんてやろうとする馬鹿がいたんですよ。んで、ぶん殴ってやりました」
「ははーん。実に気がお強い」
「やる時はやってやらないと、馬鹿は調子に乗りますから」
 序盤のトークは順調に進んだ。
 NGが出ることなく、杏子は思うままに声を張り、きちんとマイクに音を届かせながら喋っている。喋るだけ喋った挙句、ようやく夢について質問され、杏子は答える。
「ダンサーなりたいんです」
「おおっ、踊るわけですね?」
「はい。それで、ダンスを学ぶために海外留学を考えていて、将来はミュージカルなんかにも出てみたいなーって」
「どんな作品ですか?」
「『ブラック・マジシャン・ガール-賢者の宝石-』っていうやつなんですけど、昔あれを見て感動して、自分でも出演してみたいって思うようになったんです」
「なるほど、なるほど」
 トークの全てが収録されるわけではなく、放送時には編集された内容が流れることになる。この時点では無駄に思える会話内容も多かったが、後の編集でテンポ良くまとめられる予定なのだ。
「さて、ではではダンスを披露して頂きましょう!」
 司会者は大仰な身振り手振りを交え、番組パートの進行を宣言する。ダンスが夢ということで、番組中で踊りを見せる企画が、杏子にも予め宣言されていたのだ。
 しかし、これは同時にお色気パートの開始も意味している。
「現在着ていらっしゃるのは、制服ですね?」
「あ、はい」
 ピンクのブレザーと青いスカート。
 女子高生であることを強調するため、是非とも学校の制服で来て欲しいとの要望から、杏子は制服姿になっている。
「スカートのまま踊ると、映っちゃうものがありますからね。ダンスを披露して頂く前に、一旦お着替えタイムといきましょうか」
 いよいよ、お色気シーンの収録だ。

「ドキドキ! 生着替えタイム!」

 司会者がコーナー名を口にする。
 そして会場に運ばれてくるのは、レールを円形状にした筒状のカーテンだった。レールの高さはやや低めで、中に入ると肩がギリギリ見えかけている。スカート越しの太腿も下から出ており、尻や胸を隠すには心もとない形状だった。杏子はこの中で、カーテンの外に体が見えないように気をつけながら、着替えなくてはいけないのだ。
 このカーテンの内側で、水着に着替える。
 それから、水着でダンスを披露する。
(こんなにいっぱい人がいるわけ?)
 着替え直前になり、杏子はより一層緊張した。観客席にいる多くの人々が改めて目に飛び込み、こんな状況下で着替えをするのかという緊張が風船のように膨らんでいた。
(ここで着替えるって、嘘……。ちょっと後悔するかも)
 不特定多数の大勢の一般人と、出演者、スタッフ、ディレクターまで数えると、本当に色んな人達が杏子を見ていることになる。そんな状況下で着替えるなど、今にも頭が真っ白になりそうだ。
 しかも、カンペが出された。

『技禁止。全裸→水着』

 つまり、素肌を一切見せずに着替えるテクニックは、使ってはならない。どうせ隠れているのだから、カーテンの中でぐらい全裸になれ、ということだ。
(最悪ぅ……。それくらい、いいじゃない……)
 泣きはしないが、泣きたくなる。
 だいたい、カメラが向いているのだ。
 撮影なのだから当然だが、もし誤って体を見せれば、映ることになってしまう。乳房が映ったところで、さすがにカットされるとしても、スタッフ達は削除はしてくれるのだろうか。自分用にこっそり保存される可能性が頭をよぎり、絶対に上手く着替えなければと杏子は強く決心した。

     †

 筒状に、円形状に垂らされたカーテンの内側で、杏子はスタッフの合図を待つ。
 この段階になっても、杏子は自分の状況を信じられない。
(こんな布一枚の中で脱ぐの? 本当に?)
 だが、腹をくくった。
(大丈夫よ。ちゃんと気をつければ、見られやしないんだから! 気合いよ気合い!)
 これも、夢への第一歩だ。
(……や、やってやろうじゃないの!)
 制限時間三〇秒がセットされ、スタッフの合図と司会者による声で脱衣スタートが宣言された。
 脱衣開始。
 杏子は慌てた手つきでブレザーのボタンを外し、リボンを引き抜きスカートのホックに手をかける。見えやしない、大丈夫だと言い聞かせながらばさりと落とし、ワイシャツのボタンへ移っていく。
 これで一〇秒、まだ間に合う。
 ワイシャツを脱いだ杏子は、すぐにブラジャーを外しにかかるが、少しばかり手間取った。
 周囲の視線を意識したのだ。
 いくら裸体のガードはされていても、脱衣の最中に周りの男の顔が見えていると、どうしても恥ずかしさに意識がいって、手が止まりそうになってしまう。
 しかし、時間も過ぎて行く。
 十二、十三、十四……。
 これが三〇秒になったところで、このカーテンはばっさり落とされ、杏子の姿が晒される。
 急ぐのだ。
 手こずりながらホックを外し、躊躇いながらブラジャーを床へ落として、パンツのゴムへ手をかけた。
(これで最後……)
 これさえ脱げば、あとは着るだけ。
 脱衣では心もとなくなるばかりだったが、着衣になれば失った守りを取り返せる。
(度胸だ度胸!)
 杏子は思い切りよく下まで下げ、最後の一枚を脱ぎ捨てた。
 その時だ。

 バサッ、

 カーテンが落ちた。
(…………え?)
 まだ、時間は着ていないはず。
 何故、どうして?
 驚きよりも、まずは困惑で頭がいっぱいになっていた。空になった器に少しずつ水が滲み込むようにして、だんだんと恥ずかしい思いが溜まっていき、杏子は思い出したように赤面した。
「いやぁ!」
 悲鳴を上げ、全てを腕で隠してしゃがみ込んだ。
「どういうことですか! まだ時間は……」
「あー……。ごめんなさーい。点検の不備があったため、なんと途中でカーテンが落ちてしまいました! 真崎杏子の素っ裸です!」
「な、なによそれ!」
「では、今のハプニングをもう一度確認してみましょう!」
 巨大なモニターを利用して、カーテンがバサりと落ちて杏子の裸が映ってしまう一瞬が、スローモーションで再生された。通常速度なら、よほど動体視力がなければ確認不可能だったであろう乳首や性器が、スローのためにゆっくり映り、この場に集まる全ての男性がそれを観賞した。
「なにやってるんですか! 今すぐ止めて下さい!」
 杏子は当然の叫びを上げる。
 だが、映像が止まるわけなどなかった。
 杏子の裸は、まるでバラエティ番組のための面白おかしいハプニング映像のように扱われている。不備があったといいつつも、実のところそれは仕込みで、番組側は初めからこうして杏子を辱めるつもりでいたのだ。
 杏子には何もできない。

「――おぉぉおおおお!」

 観客が歓声を上げる中、何も出来ずに、自分の乳首やアソコが巨大画面に映る有様をただ見ているしかない。
 最悪の無力感。
 できることといえば、ただこの状況に腹を立て、司会者や番組スタッフ達を睨みつける。
 ただ、それだけだ。
「なんなのよ……!」
 せめて、脱いだ制服を使って体を隠そうと手を伸ばすが、するとスタッフ達が杏子の傍へと駆けつけて、ワイシャツやブレザーをたちまち回収してしまう。
「え? ちょっと……」
 あまりにも、手際よく持ち去られた。
 そのスピーディさには、やはり困惑や驚きの方が先に来て、全ての憤りは後から押し寄せてくるのだった。
 完全に、体を守るものを失った。
 体を隠すために使えるのは、両腕だけだ。
「返して下さいよ!」
 杏子は喚く。
「さて、思いがけず丸裸となってしまいましたが。今のお気持ちはどうでしょう? 杏子さん」
 司会者は平然と番組を続けていた。
「最悪です!」
「ですよねー。もう! しっかりして下さいよ? スタッフのみなさん達!」
 司会者は白々しくも、周囲のメンバーに対して陽気な注意を行って、杏子の気持ちなどまるで無視した番組進行を務めている。
「あの。時間はまだありましたよね? カーテンさえ落ちなければ、絶対に着替え切れました!」
 座り込んだまま、しかし杏子は抗議した。
「そうですか?」
「そうですよ!」
「しかし、せっかくですからねー」
 司会者はテレビに向けた笑顔を作った。
「せっかくって……! いいから返して!」
 杏子にとっては当然の主張。
「はい、カメラ寄ってー」
「撮影なんだからちゃんと協力する!」
 だが、スタッフにとっては、面白くてエッチなハプニングをカメラに納めることこそ、仕事である。
 カメラを肩に担いだ撮影者達は、杏子のその姿を撮ろう撮ろうとにじりよる。
(ちょっ、ちょっと〜〜〜!!!)
 舐めるように映し込まれて、杏子は引き攣った。
 男達の視線などより、杏子の裸を映し続ける目の前のレンズの方が、よっぽどいやらしくて怖く感じた。

     *

「――くっ、うっ、うぅっ………………」

 杏子は震えていた。
 悔しくて、震えていた。
 お色気番組なのはわかっていたが、あの調子なら確実に早着替えは成功していた。本来なら恥をかく事はなかったのに、企画側のインチキに騙されて、負けた気がして腹が立った。
 だから、杏子は溜め込んでいる目の涙は、ほとんどが悔し涙なのだった。
 杏子はあれから、直立を要求された。
 さすがに腕を下ろせとまでは言われなかったが、丸裸のまま背筋を伸ばして、全身周囲三百六十度をしっかりと、くまなく映像に残されたのだ。
 腕で潰された豊満な乳房。
 手の平に隠された見えない秘所。
 そして、丸出しの可愛いお尻。
 カメラスタッフはただ杏子の周りをぐるりと一周するだけではなく、肝心な部分にはレンズを近づけ、画面いっぱいに映し撮られた。
 さもなくば、服は返却しないと言われたからだ。
 何の手立てもない杏子は、そう言われては従うしかなく、涙ながらに全身をカメラに映させ、あとは恐ろしく不満そうな顔を浮かべるしかなかったのだ。
「しかし、いいお尻ですね〜」
 司会者はさりげなく、杏子のお尻にタッチする。
「――ちょっ! セクハラよ!」
 杏子は反射的に身を引いて、司会者から一歩離れた。

     *

 さて、真崎杏子さんには是非ともダンスをご披露頂きたいわけなのですが――。
 その前に!

 熱々! 熱湯風呂!

 あつーいお湯の中に何秒浸かっていられるかを計り、その秒数によってダンス時間を決定します!

 そうして、スタジオに運び出されてきたのは、透明なプラスチックでできた湯船であった。
(結局、服は着せないってわけ?)
 杏子の不満はただ積る。
 撮影において、NGによる取り直しやスタジオセットの下準備など、現場でかかる手間もある。そういった間の時間も、裸を隠せるのは常に両腕だけなのだ。
(いい加減にしなさいよね! このエロ番組!)
 承知の上の出演とはいえ、想像の範囲を超えた仕打ちには憤りを覚えていた。
 カーテンは落ちる。
 服も取られる。
 そして、全裸で熱湯へ入れという。
 杏子は観念したように湯船の前へ歩んでいき、用意された階段セットを一段ずつ上がっていく。その際、カメラが杏子の背後へ周り込み、尻を見上げるような形で、可動するプリプリの尻肉を映像に撮り込んだ。
(最悪よ……)
 憤りを積らせながら、杏子は湯船へ体を入れる。
 当然、まったりとくつろぐような温度などではなく、みるみるうちに体が熱くなっていく熱湯だ。肩まで浸かるや否や、もう初めから飛び出したいほどだったが、それでも夢を思って我慢する。
 だが、やがては限界になり、
「駄目ぇ! もう無理!」
 三十五秒ほどで、杏子は湯船を飛び出した。
「出ました! 三十七秒! すごいですよ? 杏子さん!」
 司会者が大げさなまでに褒め称えると、巨大モニターには過去に挑戦したらしい女性達の記録が映る。
 十秒、二十秒台がほとんどだ。
 この平均からして、三十秒を越えた記録は確かにすごいのかもしれなかったが、とても誇るような気分になれない。そんなことより、服が着たい。水着でも何でもいいから、ちゃんと手や腕以外で体を隠したい。
 杏子の考えていることは、それだけだ。
「では、杏子さんには三十七秒間ほど、ダンスを披露して頂くわけですが、この格好のままでは踊れませんね?」
「そうよ! 早く服を――」
「こちらの水着を着て頂きましょう!」

 運び出されてきた水着は………………

     *

「なんなのよこれぇ……!」

 杏子が着たのはマイクロ紐ビキニであった。
 布面積のとても小さいそのビキニは、きわどい箇所をギリギリで隠す以外は丸裸と変わらない。
 乳房を覆うはずのカップ部分の三角形は、せいぜい乳首を隠すくらいで、胸のふくらみはほぼ露出してしまっている。アソコの部分も布が小さく、性器の肉貝こそ覆っているものの、割れ目が完全に浮き出ている。
 当然、お尻はTバックだった。
 布ですらない、単なる紐が割れ目へ入り、尻たぶを完全に露出しきって、これでは丸出しと変わらない。
「――こんなの、裸より恥ずかしいじゃない!」
 杏子は不服だ。
 これが普通の水着であれば、大事な部分を隠せる安心感を得られる上に、自慢のボディをちょっとだけ自慢できてしまうよさがある。
 もちろん、恥ずかしさがゼロとまではいかないが、人前に出るくらいはできる格好だ。
 だが、紐ビキニはどうだろう。
 好きで着る人がいる分には本人の勝手だが、ここまでの露出など杏子は到底望んでいない。不本意で着せられて、恥部をギリギリで隠しながら、極限までの露出を強要されるなど、恥ずかしい以外の何でもない。
 ちょっと太ももを出すのとはわけが違う。
 杏子にとって、これは屈辱の衣装であった。
「これで踊るんですか?」
 と、杏子は不満を述べる。
「そうですよ?」
 司会者は当然のように言ってのけ、スタジオ周りではスタッフが淡々と準備を進める。
「もうちょっと他に――。お色気番組なのはわかりますけど、せめてもう少しだけ布が広くても……」
「駄目駄目! このギリギリ感がいいの。ね? わかる?」
(……わからないっての!)
 制服を取られている杏子の立場は、人質を盾にされている状況と変わらない。
 やるしかなさそうなのが、悔しかった。
「じゃあ、そろそろ撮影再開しまーす!」
「カメラ準備!」
「音楽もかけるから、BGMに合わせて踊ってねー」
 スタッフやディレクター達がダンスパートの撮影準備を整えて、既に開始の合図待ちとなっている。
「では、スタート!」
 そうして、杏子のダンス収録は始まった。

     *

 時間は三十七秒間。
 その間、杏子は四方八方を複数のカメラに囲まれて、全身をくまなく映されながら踊ることとなった。
 流される曲に合わせて、杏子は体を動かし始める。
 腕を振り、腰を動かし、くるりとターン。
 振り付け通りの身のこなしでステップを踏んでいると、自分のバストが大きく揺れるのがわかってしまう。ジャンプをすれば乳房が上下にプルンと弾み、腰を揺らせば丸出しのお尻がプリプリ動く。
 服さえ着ていれば、ちょっとセクシーだっただけで済むような振り付けも、この格好では全てがいやらしい挑発に繋がる気がしてやりにくかった。
 とても、いつも通りの気持ちでは踊れない。
 例えるなら、ストリップ小屋で風俗嬢でもやらされて、不本意なストリップダンスを披露している気分に近い。
 尻に集中するカメラには、プルプルと振動し続ける尻肉の揺れが撮られている。
 胸に集中するカメラは、当然乳揺れ。
 さらに股間を下から見上げるアングルのカメラには、体が動くにつれて、どんどん食い込みが激しくなっていく杏子のアソコが綺麗に撮影されていた。ズリズリと食い込んで、貝肉が少しは見えてしまっていた。
 そして、くびれた腰、セクシーなヘソ。
 むっちりした太もも、淫猥な唇。
 自分自身の姿を恥らう乙女の表情……。
 あらゆるものを披露している杏子の踊りは、単なるダンスで片付けるにはあまりにも色気のある、そういう企画のAVのワンシーンだと言っても通じそうなほどの卑猥さになっていた。
 太ももを振り上げる瞬間には、Tバックの紐からはみ出た肛門の皺まで映っていた。
 BGMが終了するまでの長い三十七秒間……。
 杏子にとって、恥ずかしいことをやらされて損をした、赤面の時間に等しかった。

   *

「いやあ、いい踊りでした」
「あ、ありがとうございます」
「杏子さん。オッパイ、揺れてましたねー」
「……ははっ」
「お尻もデカいし、腰もセクシーだし」
(このエロ司会者ァ……!)
「肛門も見えちゃいましたよ?」
「――は、はい!?」

 それはトークシーン。
 ダンス終了後。
 スタジオの椅子に座った杏子は、司会者やその他出演者によるセクハラチックな言葉の数々に受け答えを行って、かなり顔を引き攣らせていた。
 格好も、マイクロ紐ビキニのままである。
 丸裸になり、紐ビキニを着て、布面積の広いまともな衣装は一切出してもらえない。あまりにも露出度の高い格好のまま過ごし続ける羽目になり、休憩時間も含めて、杏子の肌は延々と晒され続けていた。
「こちらを見て下さい」
「なによこれ! ホントに映ってるじゃない!」
 肛門の皺の見えた一瞬を一時停止で見せ付けられ、杏子は両手で顔を覆う。
 そんな杏子の反応さえ、番組の収録対象だった。
「まあまあ、放送には流れませんから」
 司会者は呑気に言うが、巨大モニターを使って映したのだ。
 この場にいた限りの観客と、スタッフ、出演者達に関しては、ことごとくお尻の穴を見られてしまったことになる。
 信じられない。
 屈辱以外の何でもない。
 あまりにも悔しくて、何かしてやりたくて堪らない思いにかられるが、制服が人質になってるのを思うと何もできない。
 杏子はただ、屈辱的な企画を最後まで受け続けるしかないのだった。

     *

 ようやく、撮影は終了した。
 トークシーンでのセクハラ質問や各種コーナーを乗り越えて、杏子の一日の撮影は終了した。
 その間、ずっと肌を出し続けていた。
 丸裸になってから、ようやくマイクロ紐ビキニを着させてくれたくらいで、それ以上の服は一切出してもらえない。トークも何もかも、その格好だけでやらされる、最悪の時間ばかりが続いていた。
 それが終わって、ギャラで海外留学の予算が増え、確かに夢には近づけたにも関わらず、損をした気分しかしなかった。

「もう、最悪……」

 今日一日の記憶全てが、悪夢のように頭に張り付く。
 脳裏に映像が蘇り、体中に突き刺さった視線の感覚までもが皮膚をよぎって、夜もまともに寝付けなかった。
 夢には、近づいた。
 それなのに、杏子の心にあるのは恥じらいと屈辱の余韻ばかりであった。




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