真崎杏子 羞恥の身体測定


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 童実野高校、教室。
 授業が終わり、教師が戸の向こうへ立ち去ると同時に、自分の席から勢い良く立ち上がる男子生徒の姿があった。
「おう遊戯!」
 やけにニヤけた城乃内克也が、武藤遊戯の席へ飛んでいく。仕入れた話題を温め続けていた城之内は、この話を遊戯にしたくてうずうずしていたのだ。
「なあ、お前知ってるか?」
 溜まりに溜まったお喋りへの欲求が解放され、城之内はまるでがっつくようである。
「どうしたの? 城乃内君」
 あまりに鼻の下の伸びた顔つきに、遊戯は眉をひそめていた。
 なんというか、いやらしい。
 ボッキンパラダイスをこっそり貸し借りした時を思い出す。
「いいか? 遊戯。これから身体測定の時期になるだろ?」
「そうだね。身長、伸びてるといいんだけど」
「んなこと気にしてる場合じゃねえ。こういうのってよ。男女別々になるよな? なんたって、検診で服捲るとかもあるんだからよォ」
「そうだけど、そんな話しにきたの?」
「そんな話じゃねーんだなぁ、これが。いいか? 遊戯」
 城乃内は遊戯の耳に顔を近づける。
 遊戯も、耳打ちの小声を聞き取ろうと首を傾ける。
 そして、城乃内は言った。

「女子の身体測定ってよぉ、パンツ一枚らしいぜ?」

「……え? 本当に?」
 遊戯は疑うような顔で城乃内を見つめ返した。
「ホントもホントよ! このプリントを見てみやがれ!」
 そうして城乃内が手渡した一枚のプリントには、身体測定当日の予定や注意書きが書かれている。
 そこには確かに、あった。
『衣服を脱いで下着一枚となり』
 という文脈からその日の段取りへと内容は流れていき、どんな検査や測定をどの順番でやるのかが、スケジュールがきっちり記されている。さらに注意が書かれている。
『これはあくまで測定です。過剰に恥ずかしがって測定に支障をきたすことのないように』
 と、堅苦しく綴られていた。
「城乃内君、これって……」
 遊戯は静かに城乃内を見つめ返す。
「ああ、気になるよな? だが、よーく思い出してみろ。この予定のプリントが配られたその日、男女で別々のプリントが渡されていなかったか?」
「そういえばそうだったっけ」
「俺ら男子に配られたのは男子用で、女子にはこの女子用が配られたってわけさ」
「……ということは」
「ああ、女子はみんなパンツ一丁になるんだぜ?」
「――ごくり」
 遊戯は息を呑んだ。
 つまり、真崎杏子もそんな格好となり、初々しく恥らうということなのだ。いつものこの学校で服を脱ぎ、肌を晒して過ごすこととなる。あの制服の内側にある以外にグラマーなボディが脳裏によぎり、遊戯はほのかに赤面した。
「妄想が膨らむよな。こいつは」
「う、うん。そうだね……」
 苦笑いする遊戯は、しかし一抹の不安を抱いた。
 もし、盗撮でもやらかす輩がいたらどうなるだろう。
 学校の女子生徒の裸がほとんど流出してしまう。
 自分の学校に限ってそんな事は起きないだろうが、もしかしたら、万が一、というのが気になり胸が騒いだ。

 ――杏子、なんともないといいけど……。


          †


 身体測定当日。

 真崎杏子は羞恥に激しく顔を歪め、奥歯が軋むほどに強く歯を噛み締めていた。
 ブレザーとワイシャツ、スカートを全て脱ぎ、パンツ一枚で乳房を晒すだけでも恥ずかしい。みんなで同じ格好をしているとはいえ、男性教師にそんな格好を見守られる。屈辱に耐えることを強要される悔しさがあり、それだけで嫌で嫌で仕方がないところをだ。
 杏子はセクハラを受けていた。
(……くぅ! なによこのセクハラ教師は!)
 身長測定。
 身長計で背筋を伸ばしていた杏子は、さりげなくお腹を触られていた。
 この教師は女子一人一人が身長を計測するたび、いちいち人の腹部に手を置くのだ。さりげなく、実に何気ない動作を装って、乳房への接触ギリギリの位置まで手の平をスライドさせ、本当に触れることさえある。
 身体が身長計からズレないため、手で押さえてやろうという名目なのだろう。そんな建前で必要もないのに手を触れて、女子に不快な思いをさせている。既に順番を終えた生徒達は、測定を受けていた最中から終わった後の現在まで、みんなが嫌そうな顔をしている。
 そして、今は杏子の順番というわけだ。
 教師の名は藤砂津健吾。
(うへへへぇ)
 ニタつきながら、思う存分に杏子の腹部を堪能している。無駄な上下反復で、肌触りを確かめている。
「えーっと、身長はと……」
 藤砂津はバーを下ろす動作ものんびりだ。いかにもわざとらしいゆったりさで腕を動かし、バーを杏子の頭へ接近させる。その最中に意味もなく咳払いをしたり、あくびをするために手を離すなどして、何度も細かく時間を引き延ばしていた。
 もちろん、そんな事ばかりしていては時間が押す。ただの測定にそう何分もかけはしないが、その辺りまで考えて、時間が許容しうる絶妙な引き伸ばしをこの教師は心得ているのだ。
 引き伸ばしながら、その目で杏子の乳房を舐めるように視姦していた。藤砂津は杏子の乳首へ集中して、明らかにそこだけを眺めていた。
 胸が大きくお尻も丸く、グラビアアイドルと比較しても負けないスタイルをしているほどだ。そんな杏子が人一倍注目されるのは当然で、セクハラ教師にとっても最高の獲物である。
(こいつ……)
 杏子は歯を硬く食いしばる。
 これはもう、諦めるしかないのだ。
 教室で服を脱ぎ、廊下へ並び、こんな格好で廊下移動を行うのは常識だ。
 納得はできないが、何十年も前から童実野高校ではパンツ一枚を当然としていて、それが身体測定での正装であるとさえ思われている。生徒の立場ではどうにもできず、受け入れる以外に道はなかった。
 だから杏子も泣きたい思いを堪えて諦めて、嫌々ながらも裸になった。担任の視線のある中で服を脱ぎ、全ての衣服を教室に置いたまま、屈辱に耐えながらパンツ一枚で廊下に並んだ。
 肌触りの優しい、手前に控えめな桃色リボンのついた、素材の柔らかい純白パンツだけが杏子の大事な部分を守っている。それは肌にしっかり密着し、下腹部の微妙な凹凸が見てとれるほどになっていた。
 心もとない姿で一列に並ばされ、廊下を歩かされ、こうしてセクハラまがいの測定を受けることにも、生徒はじっと堪えるしかなかった。
 乳房に手を当ててくるセクハラにも……。
(もう! このクソおやじ!)
 杏子は激しく赤面した。
 べったりとお腹に張り付く藤砂津の手は、乳房に接触する位置の高さまで来ているのだ。丸い乳房を持ち上げて、その重量をわずかにその手に感じ取る。藤砂津は顔では知らぬ表情をしているが、心の中では杏子の胸を存分に楽しんでいた。
(前からいいおっぱいだと思ってたんだよなぁ……)
 それが藤砂津の本音である。
 ごくさりげなくに過ぎないが、藤砂津はその手で乳房を持ち上げ、プルプル揺らす。遠目にはわからない程度のでも、杏子自身が振動を実感するには十分である。微妙な乳揺れをいいように楽しまれる不快さに襲われ、自然と表情が険しくなった。
(や、やめなさいよ……!)
 杏子は肩を震わせた。
(教師のクセに、一体生徒になにしてんのよ! あんたは!)
 声には出さなくとも、顔ではっきりと叱責する。
 だが、藤砂津はそんな杏子の表情を見てもニヤけるだけだ。
 恥ずかしげもなく乳房に視線を近づけ、藤砂津は丸みを確かめるようにじっくりと目で撫でる。肌の総毛立つような視姦で形も大きさもチェックされ、藤砂津の脳に焼き付けられていることなど想像するまでもない。
「ほら、アゴ引いて」
 もっともらしい理由をつけ、杏子のアゴへ触れるため。
 藤砂津はたった一瞬だが、杏子の胸を鷲掴みにした。

「……!」

 驚きのあまり、固まった。
 怒ったり、悲鳴を上げるよりもまず、困惑した。
(……え? なに? 揉んだの? なんで触ったのよ!)
 ひと揉みした一瞬から、藤砂津はすぐに杏子のアゴの指を当て、顔の高さを調整させる。まるで今一瞬の出来事などなかったように。
 ――○○センチ。
 と、淡々と頭にバーを下ろして身長の数字を読み上げた。すぐ横にいるもう一人の教師が、その数字をボールペンで書き込んでいた。
(やっぱり、いい感触だった)
 心の中で満足げになり、藤砂津は良い笑顔になっている。
 そして。
「ほら、終わりだぞ」
 終わった杏子を手で追い払うかのように、しっし、と手を払う仕草を取った。
(この変態教師は……!)
 途端に腹が立ってきた。
 胸を揉まれた挙句に用が済んだらさっさと消えろ。
 藤砂津が取っているのはそういう態度だ。
 そして、次の女子にも相変わらずセクハラを続けている。腹に当てた手を下へ動かし、小指でパンツの生地に触ったり、へその周りを撫でてみたりと、クラスの女子を一人残らず好きなように堪能している。
 許せない。
 ふつふつと怒りが湧くが、騒いでも意味はない。騒げば生徒が叱責される。
 理不尽でも、堪えるしかなかった。


 次の内科検診でも、杏子は怒りに震えていた。
 じぃ……。
 と、藤砂津は女子の体が見える位置に立ち、医師の診察を受ける女子生徒を思う存分に眺めた押しているのだ。軽い問診のあいだ、両腕で胸を守っているところ。聴診器を当てられて、深呼吸をするところ。
 そして、触診で乳房を揉まれるところをだ。
(こいつ……)
 杏子は歯軋りした。
 医者の指示で頭の後ろで両手を組み、無抵抗に胸を揉まれている有様を、医師の横側という見えやすいポジションから拝んでいる。診察が終了するまで身動きできない杏子は、藤砂津の視姦にただただ耐えるしかない。
(……いい眺めだ)
 藤砂津は大いににやけた。
 診察のつもりしかない医師は、それでも乳房をくまなく観察し、皮膚に異常がないかを見極めている。探るような手つきで揉み込んで、踊る指先が胸をぐにぐにと変形させ続けた。
 そもそも、揉まれること自体が嫌なのだ。男の指が食い込んで、乳房を深く押し潰してくる感触に体が震える。真剣な顔をして内部を探っている様子だが、胸なんかを調べられるなど、どこか心の秘密を狙われている心地がして落ち着かない。
 事務的な触診。
 医者に他意がないことは、藤砂津と違って事務作業をこなす顔しかしていないのを見れば理解できる。
 それでも、見知らぬ男に胸を差し出し、必要なだけも揉ませている状況に変わりはない。快く全てを受け入れ、はいどうぞという気持ちにはとてもなれない。
 どこか受け入れきれないまま、それでも杏子はもまれているのだ。
 藤砂津の視線を浴びながら……。
 それはただ揉むだけではなく、片手で乳房を持上げ顔を近づけて、至近距離からじっくりと観察してくる。乳首を摘み、くりくりとつねる。乳肌の表面にそっと手を這わせ、皮膚の触感を調べていく。
「ん…………」
 淡い痺れが乳房を包み、杏子は女としての何かを堪えるような顔つきになった。唇を内側へ丸め込み、湧き出る何かを我慢している色っぽい表情だ。
(ははっ、感じてやがる)
 藤砂津は悟り、杏子の良い顔を見れてご機嫌になる。
(い、嫌……!)
 診察でこんな気持ちになっているなど、絶対に表には出したくない。悟られたくない。
 杏子は感じてしまった事実を押し隠そうと、必死に表情を硬くしている。それはくすぐりを受けて我慢をする時のように、内側から来るものをぐっと押さえる顔つきだ。
 それを見て、藤砂津は内心喜んでいる。
(は、早く終わりなさいよぉ……)
 杏子は強く念じていた。
 悪くもない目の前の医者まで恨めしくなり、とにかくそればかりを念じ続けた。

 だが、内科を耐え抜いても次がある。

 スリーサイズの測定で、頭の後ろに両手を組んだ杏子は、胸にメジャーを巻かれていた。締め方に強弱をつけ、乳房に食い込んだり、緩めた途端にプルンと揺れるのを楽しんでいる。
 乳房に巻きついてくるものが若干食い込み、むにゅりと変形させてきたのが、途端に緩む。メジャーによる締め具合と、遊んでくる藤砂津の手つきは、嫌というほど乳房に伝わる。
(この変態教師ぃぃ……!)
 杏子は顔を顰めた。
 藤砂津はわざとらしく乳房に触れる。目盛りを指で合わせるために、わざわざ手の平で包み込み、持上げるような触り方でで親指で目盛りを固定している。
 しかも、わずかに指に強弱をつけ、揉んでいた。男の手の生温かでゴツゴツとした感触が、杏子の乳房にはっきりと伝わっていた。
(ひひひ……)
 藤砂津はニヤニヤしながら数字を読み上げ、次はウェストへ巻き付ける。さりげなく腰を撫られ、鳥肌が立って全身がざわついた。そんな杏子の反応を眺めてから、藤砂津はメジャーの目盛りを合わせた。
(くぅぅ……)
 杏子は不快感に震えながら、事が過ぎ去るまでただ耐える。
「○○センチ」
 数字を読み上げ、藤砂津はヒップの測定へ移った。
 やはり、ただ巻きつけるのではなく、メジャーを後ろへまわすおりにお尻に触る。お尻のラインにぴったり合わせ、ずれないように巻きつけるためだと言わんばかりに、べったりと手の平を這わせてスライドさせる。
 それは間違いなく痴漢行為だった。
 既に怒りと羞恥を覚えていた杏子は、さらにがっしりと尻たぶを掴まれた時、さすがに声を上げずにはいられなかった。
「……! あ、あのっ」
 驚いた杏子は、怒ったようなビックリしたような顔で、お尻に食い込んでくる指の感触に対して反射的に動いていた。ほぼ咄嗟にお尻の手を振り払っていた。
「ああ、失礼」
 藤砂津は特に悪びれもしないまま、そしてメジャーを巻きつける。杏子の秘所へ顔をぐっと近づけて、目盛りを読むフリをしながら肉貝の膨らみを眺め始めた。
(うひっ、うひひひひ)
 藤砂津は杏子のその部分を透かさんばかりに眺め回し、布地の裏に隠された陰部の色や形を想像する。腰の横あたりに目盛りを合わせてもいいだろうに、わざわざ股間の方で合わせ、この教師は楽しんでいる。
(うぅ……)
 杏子は耐えた。
 赤面しながら肩を震わせ、いやらしい目をただ堪える。
 それだけしかできなかった。


 モアレ検査。
 背骨に歪みが内科を調べ、側弯症を予防するための検査であるが、この検査方法とは背中の写真撮影なのだ。しかも、背骨から尾てい骨までを撮る必要があるため、履いているものを下げてお尻の割れ目を出さなくてはならない。
 もちろん、教師が見ている前でだ。
 藤砂津と、そして撮影担当者の前で背中を向け、指示通りにパンツを下げなくてはならない。しかも、事前に配られたプリントの指示では、お尻は全て丸出しにするよう書かれていた。少ししか下げようとせず、時間がかかる生徒が出ないようにという理由らしい。
 検査のために学校から呼ばれる担当者は仕方がないが、いやらしい視線を向けてくる教師がいるのに、それでもお尻を出さなくてはならない屈辱感に杏子は打たれる。
(どうせすぐに終わるわ。こんなの一瞬よ! 一瞬!)
 杏子は自分に言い聞かせる。
 目を瞑り、歯を食いしばりながら、杏子はパンツのゴムに指をかける。意を決して、躊躇いを振り切って崖から飛び降りてやるくらいのつもりで、一気に引き下げた。
 すぐに終わる。
 写真を一枚か二枚撮り、はい終了。
 検査としてはそれだけだ。
 しかし。
「おお……」
 藤砂津の関心したような声。
 プリっとした丸い尻たぶの厚みが目を引いて、それでなくとも卑猥な目をしていた藤砂津は、思わず食い入るように見つめたのだ。
 官能的なカーブを成し、綺麗な丸みを帯びたお尻と、その太ももの付け根に絡まる下着――。
 藤砂津はそれを視姦する。
 そんな教師の気配を背中で感じ、杏子は強く憤る。
(……くぅっ、アンタに見せるためじゃないんだけど)
 怒りと恥ずかしさで、頭が沸騰しかけていた。自分の顔が赤いのは、果たして羞恥と憤りとどちらが上か。どちらの感情が勝っているのか、それとも二つの気持ちは同等なのか。そんな事は杏子自身にもわからない。
 ともかく、お尻が丸出しになった状況に耳まで染まった。
 尻たぶの丸みが全て露出しているということは、前の部分を丸見えということだ。今、藤砂津はお尻ばかりを見ているが、万が一にも前面が見える位置へ来ようものなら、下の毛の生え具合や秘所の形を何もかも知られてしまう。

 ――スサッ、

 人の動く気配を感じて、杏子は固まった。姿勢を真っ直ぐ保つ杏子にとって、あくまで背中でなんとなく感じ取った気配に過ぎないが、藤砂津が前を見に来る可能性を覚えて青ざめたような焦ったような、恐怖とも焦燥ともつかない感情が沸く。ただ間違いないのは、これが女性器までもを見られる事に対する一種の危機感だということだ。
(――は、早く撮りなさいよ! それで終わりなんでしょ?)
 藤砂津の移動する気配に、杏子は心の中で大きく叫ぶ。
 そんな杏子の背後で、撮影担当者は呑気にピントを調節している。さほど時間をかけているわけではないが、こんな状況の中にいる杏子にとって、ほんの一秒や二秒でさえ、本来よりも長く感じるのだ。
(もう……! いつまで待てばいいの?)
 お尻とアソコが大気に触れ、
 中履きが床を叩く足音が、すぐ肩の横辺りまで迫ってくる。

 ――パシャリ。

 そこで鳴るシャッター音が救いに思えた。
 これですぐさまパンツを履き直し、少なくともアソコは見られずに済むと思って、そのことだけは安心した。
 ――パシャリ。
 もう一度なるシャッター音。
 それは杏子の丸出しの背中と、お尻を同時にフィルムに含めているものだが、顔が写ることは決してない。検査目的に使われるにすぎないものだ。
 撮り終えるや否や、杏子は即座にパンツを持上げ履き直した。
 間一髪、アソコが藤砂津の視界に入る直前に……。
 どうにか隠し切れて、安堵した。

 だが……。


     †

「あなた! 最低よ!」
 翌日の放課後、杏子は進路指導室で怒鳴っていた。
 教師として、何か話があると藤砂津に呼び出され、恐る恐るそこまで行き、テーブルを挟んで向き合いながら椅子に腰を下ろした時だ。
 藤砂津がテーブルに並べた写真を見て、杏子はいきり立っていた。
「こんなことをしていただなんて!」
 そこに並べられたのは、盗撮写真だった。
 どこにカメラがあったのか。女子の測定を隠し撮った杏子の写真がずらりと並び、そこには身長計で気をつけをする杏子の姿や、検診で胸を触診されている時の写真があった。
 そして、モアレ検診での写真――。
 藤砂津は自慢の一枚を手に持って、さぞかしご機嫌に見せびらかす。
「杏子ちゃんのお毛けはこんな風だったんだねぇ?」
 その盗撮写真は、パンツを下げた杏子の体を前から映したものである。どこにどうして、どうやって盗撮カメラを仕掛けていたのか。本当にわからないが、とにかく杏子の全裸が収められ、見られずに済んだはずだったアソコが写されていた。
「う〜ん。可愛いマンコだ」
 杏子の目の前で、藤砂津はわざとらしく写真を眺める。
「返しなさいよ!」
 顔を赤くしてひったくろうとするが、藤砂津は手を引っ込めてそれをかわした。
「バラ撒かれたくないよなァ?」
「なんですって? アンタ――脅迫する気?」
「そうだよ? こいつをバラ撒かれたくなかったら、どうするべきかわかるよなァ?」
「あ、あんた……」
 杏子は屈辱に震えた。
「さ、脱いだ脱いだ。さっそく気持ち良くしてやっから」
 ニヤニヤとして、脱衣を要求してくる藤砂津。
 その明らかな性犯罪を相手に、なす術はない。ここで抵抗して言う事を聞かないことはできるが、そうすれば写真はバラ撒かれ、もうまともな学校生活を送れない。警察で彼を訴えたとしても、写真の流通自体は防げない。
 詰んでいた。
 杏子に選べるのは、写真をバラ撒かれない変わりに言う事を聞くか。撒かれる覚悟で抵抗して、警察へ行くか。どちらの選択肢にも最悪の要素が含まれている。
 ならば、どうするか。
(……ごめんね。遊戯)
 例え写真をバラ撒かれてでも、こんな男を野放しにはできない。きっと遊戯達にも写真を見られ、杏子の学校での私生活は終わりを告げるのだろうが、杏子はそれでも警察へ行くことを心に決めた。
 きっと、過去にも同じ被害者がいるかもしれない。
 あるいは、これから同じ被害者が出るかもしれない。
 それを防げるのは自分だけだ。
 そんな悲しい決心をした時――。

「ほう? アンタ、教師のクセにそんな下らないことをしていたのか。呆れた奴だな」

 突如として聞こえる男の声。
「!」
「――っ!」
 藤砂津と杏子は同時に声の方向を向き、するとそこにはドアに背をよりかけた武藤遊戯の姿があった。
 いつもの遊戯とは違う。
 もっと凄味のある、悪魔が邪悪な笑みを浮かべたかのような闇の深い表情。
 杏子の知る武藤遊戯とはまるで別人のような雰囲気をもった同一人物。
 それはもう一人の遊戯であった。
「アアン? 遊戯か。オメェ、今の話をどこまで聞いていたかは知らないが、余計な格好つけならやめとくんだな。杏子ちゃんのためにならないぜ?」
「そいつはどうかな」
「何?」

「さあ、ゲームの時間だ」

「何ィ? ゲームだと?」
「アンタが勝ったら、何も見なかったことにして黙ってここを去ってやるよ――ただし、負けた者には運命の罰ゲームが待っている。闇のゲームさ」
 邪悪な遊戯の告げるゲームのルール。
 それに乗る藤砂津。
 その結末は……。


 その翌日、一人の教師が二度と学校へは顔を出さなくなった。聞いた話によれば、精神の病気で入院したという事だそうだった。




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