催眠おじさん 宮崎千紗希


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 ただ道を通っていくだけで、すれ違う人々の大半が顔をしかめる。
 一つは最低最悪のルックスだ。
 もう五十歳を越える男は、実に禿げ散らかっている。むしろツルリとさえしていれば、逆に綺麗な頭皮に見えたかもしれないところが、中途半端に抜け落ちて、中途半端に残っているから見栄えが悪い。
 脂ぎった髪質ということもあり、それを散らかしたとしか言えない髪形は、あまりにも汚く見えやすい。埃の付着も激しく、清潔感が欠片もない。よく見れば脂成分がこびりついた光沢さえわかるため、間違っても指一本触れたくはない。
 また一つは体臭だ。
 貧乏なため、入浴回数を節約している男には、常に垢が溜まっている。体質もあり、少し皮膚をこすっただけで、たくさんの老廃物が指につく。髪を洗うのも週に数回だけだから、加齢臭と合わせて不快な匂いが漂いやすい。汗をかきやすいこともあり、夏場では体臭兵器だ。
 そんな条件を持つ男が、歩くだけで脂肪が揺れるほどに腹を出している。ブタのように潰れた鼻と、ブルドックじみて垂れ落ちた頬を併せ持つ。眼差しからして、ただ歩いているだけなのに、卑猥なものを眺めるときのいやらしい目つきそのものである。
「うわー! 化け物だ!」
「モンスターだ!」
「くっせー!」
「名前考えようぜ!」
 人を平気で指差すような、失礼極まりない部類の悪ガキの小学生男子がすれ違えば、たちまち怪物呼ばわりして、気持ち悪いからこそ逆にモンスター名を考える遊びで盛り上がる。
「種族はオーク!」
「あんま強そうなネーミングは駄目だぞ」
「ぜってー弱いもんな!」
「特性は体臭」
 こんなことがよく起こる。
 女性はわざわざ避けて通って行く。鼻を摘み、顔を顰め、さも不審者から逃げたいように小走りで去るなど日常茶飯事。男でさえも良い顔はせず、避けながら歩く確率は高かった。
 そういう男だ。
 何のやましいことがなくとも、外に出るだけで通報され、職務質問を受けた回数は一体年に何回だろう。多ければ月に数回以上は警察と話した時期もあり、別に刃物も何もないので、素直に荷物を見せれば済みはするが、人が犯罪者予備軍であるように「何もするなよ」と注意を残していく。
(でもねぇぇ、オジサンって催眠オジサンなんだよぉぉぉ?)
 オジサンはほくそ笑みを浮かべて、町行く人々の中から催眠・洗脳をかけるべき女の物色をしていた。
 生まれつきの霊感から、幽霊が見えていただけでなく、やけに力の高い霊媒師や念力のある怨霊に憑依されてきた経験があり、それらの力が残留している影響で、オジサンは他者を自在に操れる。
 例えば女子高生も――。
「おやぁぁ? この辺は湯煙高校の下校生徒が多いねぇぇ?」
 目標を定め、念じた。
 ただそれだけで、ピクっと、下校の群れから一人だけ、急に頭を弾ませたかと思えば、魂がどこかに消えた虚ろな瞳を浮かべ始める。
(こっちへおいでぇぇぇ?)
 脳内で発する声に従って、可愛らしい女子高生はオジサンの方向へと歩み寄る。
「お名前は?」
「……はい。宮崎千紗希です」
 まるで機械のような受け答えだ。
 いつものオジサンの手口では、こうして人通りの多い場所から誘い出し、目をつけた獲物が本当に上玉かどうか、人気の少ない所で改めて確かめる。
「顔が合格ぅぅぅぅ! オッパイも大きいねぇぇぇ?」
 オジサンの両手が、セーラー服の上から乳房を掴むが、千紗希はまるで反応しない。
「……ありがとうございます」
 黙々とした感情のない声で、淡々と答えるだけだ。
「オジサンとセックスしようか」
「……はい」
「うちに来てもらうよ」
「……はい」
「それじゃあ、ついて来てね?」
「……はい」
 まったりとした足取りでついて来るのを確かめながら、オジサンは自宅へ向かった。


 木材を組み立てた骨組みに青ビニールを被せ、板を釘打ちすることで、屋根や壁や玄関を仮説してある。レジャーシートを敷いただけの地面が床で、あとは安物の棚や衣服を入れるダンボールなどを置いてある。
 これが、オジサンの『家』だった。
 要するにホームレスだ。
 霊感を持つ息子のため、本物もインチキも問わず、四方八方の霊能力者に大金をはたき続けた両親の影響は大きいものの、オジサン自身もきちんとした自立は目指さなかった。ロクに働きもしない駄目人間として、いつしかアパートすら失って、こんなところで暮らしていた。
 日当を稼ぐ方法は、催眠によって手当たりしだいに言うことを聞かせ、財布からいくらか分けてもらう、人道を外れた褒められないやり方だ。
 そうやって、とりあえず生きている。
 能力さえあれば、好きな時にセックスができるから、定職について安定した道などということは考えすらしていない。

 そんなオジサンが、千紗希の処女を奪っていた。

 正常位で腰を振り、片手で胸を揉みながら、もう片方の手ではビデオカメラに千紗希の性交場面を収めている。催眠の力で丁重に譲ってもらった品物だ。ノートパソコンも似たような方法で手に入れたものであり、そこには過去の女の動画が詰まっている。
「初めてだったんだねぇぇ?」
「……はい。宮崎千紗希は処女でした」
「痛い?」
「……はい。痛いです」
「すぐに慣れるからねぇ?」
「……はい。慣れます」
「あとでオジサンとメールアドレス交換しようねぇ?」
「……はい。交換します」
 光の一切宿らない瞳の千紗希は、どんなに膣を抉られても無反応だ。ただ正常位というから股を開いて、アドレスというから交換も後でする。機械的に言われたことをやるだけの、千紗希はただの人形と化していた。
「オジサンには避妊能力があるからねぇ?」
「……はい」
「赤ちゃんは出来ないから安心してねぇ?」
「……はい。安心します」
「だけど、いつかはオジサンと子作りしようねぇ?」
「……はい。子作りします」
「千紗希ちゃんに彼氏が出来たり、結婚するときに子作りしよう。そうすれば、オジサンじゃなくて相手の子供になるからねぇぇ?」
「……はい。そうします」

     ***

 ふと気づいたら、宮崎千紗希は家にいた。
「あ、あれ!? あたしって、いつのまに帰ってたっけ!?」
 全く記憶がない。
 確か放課後になって、校舎を出て、いつも通りに帰ったはずだが、道のりの途中から記憶が途切れ、本当にいつの間にかここにいた。
「――痛ぁっ! なにこの痛み」
 すぐに股の異変に気づいた。
 初めてのセックスで破瓜出血を伴ったのだ。痛みが残るのは当たり前の話だが、千紗希にはオジサンとセックスをした記憶が無い。
「なんか、ヌルヌルするような……」
 どうせ家には千紗希一人だ。
 特に気にせず、スカートの中からショーツを脱いで確認すると、クロッチの裏側にはドロりと白濁がこびりついていた。
「なにこれ!?」
 それが精液だと、千紗希は知らない。
 精子が白いと知識はあっても、身に覚えがないのだから、自分は誰かとセックスをしたのだという発想になるわけがなかった。
「……病気かな? こんなものが出るなんて」
 千紗希はむしろ、膣や子宮に関係のある症状を心配している始末である。

 それから、週に三回以上は同じ体験が繰り返された。

 下校途中の記憶がなく、ふとすれば玄関前や中に自分はいて、時間もだいぶ経過している。必ず股に違和感があり、膣内には精液が残っていたり、ショーツにその染みがついていることばかりである。
「ほ、本当に病気だよね。どうしよう、お母さんに相談して、病院行かなきゃ」
「その必要はないよ?」
「へ?」
「それは僕とセックスをした後だからね」
「ああ、そうなんですか。だったら良かったです」
 数多くのヌイグルミを並べた部屋には、あのオジサンが平然と立ち尽くしていた。
 明らかに異常であった。
 名前も知らない不審者が、こうして部屋に立っている。最低最悪のルックスと、異様な体臭の持ち主だというのに、千紗希は悲鳴の一つも上げていない。まるで普通に家族か客人と喋っている感覚だ。
 ただ、不快感はあった。生理的に受け付けない感じは強い。
 オジサンは見るからに下品な眼差しを浮かべていて、舐めるようなねっとりとした視線を胸や脚に送り続けている。脂体質の表面から浮き出ているのは、汗というより脂質が毛穴から滲み出たもので、手足がヌラヌラと輝いていて気持ち悪い。
「いぃっ――」
 しかし、それだけだった。
 警察を呼ぶ発想も、何か武器になるものを手にして身を守る発想もなく、異常なほど自然とオジサンの存在を受け入れていた。
「今日の予定はわかっているよね」
 そして、千紗希の表情は一瞬にして暗くなる。
「…………はい」
「言ってごらん?」
「はい。あたしには、これからオジサンとセックスをする義務があります」
 もうそれは、法律と同じだ。
 人を殺したら懲役、物を盗んだら罰金と、誰もが常識的に知っている。法律上のリスクがあるから、悪いことをやらずに踏み止まる人もいる。
 千紗希の心境を例えるなら、それと同じ。
 もしも自分がオジサンとの性交を拒否したら、何かとてつもないリスクに囚われ、どうにもならないといった思い込みが、千紗希の脳を支配しているのだ。
 仕方がない、それが義務だ。やるしかない。
 勉強や宿題と同じで、理由がわからなくても、とにかくやるべきだ。
「早速、始めようよ?」
「あ、はい」
 すると、千紗希はあまりにも当然のように服を脱ぎ始めていた。
(アレ? 何かがおかしいよね?)
 具体的に何がおかしいのか、気づくことは決してない。
 脱衣をまじまじと見られている恥ずかしさがあるというのに、とても普通に脱いでいる自分自身に、千紗希が一番驚いている。
 ブラジャーも、ショーツも、あっさりと脱ぎ捨てていた。
(なんで!? この人の名前も知らないのに、何で普通に受け入れちゃうんだろう……)
 千紗希には何もわからない。
 ただ、逆らってはいけない――と、完全に思い込んでいる。
「キスから始めよう?」
 男も全裸であった。
「ひっ……!」
 条件反射的に顔が引き攣るのも無理はない。
 むわぁぁぁっ、と、今のうちから勃起している肉棒から、どことない不快な香りが、まだ半径一メートル以内の距離にも近づいていないのに、千紗希の鼻腔に流れ込む。
 肉体も嫌だ。肥満体型でたるんだ腹は、二重にも三重にも、皮下脂肪による浮き輪を作っている。全身脂ぎっているから、何だか接着剤のように体液が粘着してくる予感がして、ゴキブリには素手で触りたくないのと同じ心理が働いていた。
「ほら、義務だよ? 千紗希ちゃんの使命だよ?」
「は、はい。わかってますけど……」
 どうして、自分にはそんな義務があるのだろう。このオジサンとセックスという使命が課せられ、決して破ってはならない戒めとなっているのだろう。
(嫌だなぁ……こんなオジサンとなんて……)
 泣きそうになりながら、千紗希はオジサンに縋りついた。
(嫌ぁぁぁぁ!)
 抱きつくだけで、ネトネトとした気持ち悪い汚汁が付着して、一ヶ月経った生ゴミよりも汚い何かが皮膚に染み込んで来るような悪寒に襲われていた。
「いい子いい子。顔を上げてごらん?」
 可愛がるように頭を撫で、頬に手を触れ、首の角度を上げさせてくるオジサンの手が、みるみるうちに千紗希に鳥肌を広げている。
(気持ち悪すぎるよぉぉ!)
 背中に両腕が回されて、ぎゅっと強く抱かれるなり、体中の皮膚に戦慄が迸る。
(無理! 無理ィィッ!)
 ブタとサルを混ぜた怪物と言えそうな醜い顔立ちが、ニタリと笑いかけてくる上に、唇の形状さえも不細工だ。ラッパのように反り返り、分厚い上に唾液の光沢でネトネトしている。口臭もきつい。口の端からヨダレが垂れ、それが泡立っていて余計に気持ち悪い。
 そんなオジサンの唇が、千紗希の唇に重なった。
「んんんっ!」
 全身が総毛立った。
 ぼってりとした唇の感触は、嫌に粘着力の強い唾液をまとってぬるりとして、それが千紗希の口全体を頬張ってくる。
「むぅぅうふふふふっ、美味しいなぁぁぁ美味しいなぁぁぁぁぁ……」
 いい年をした中年過ぎが、無邪気な男児を演じる声は、聞くだけで鼓膜が腐敗を始めるほどにおぞましい。
(なんでこんなことに……!)
 オジサンの舌先が、千紗希の閉じ合わさった唇をなぞり始めていた。
 べろり、べろりと左右に動き、丁寧に口紅を塗るような動きで唾液をまぶす。オジサンの口内にあった唾液の泡立ちが、千紗希の綺麗な唇の表面にこびりつく。

 ぐちゅっ、ぶちゅる、くちゅぶるるぅ……。

 千紗希の唇が半開きとなった狭間へと、オジサンの舌は入り込み、口腔を思う存分にまさぐり始めていた。

 ちゅぶぅぅっ、ぐちゅん――。

 オジサンの舌が、千紗希の舌を巻き取り、味わう。
 口臭のきつい吐息が流れ込み、千紗希の口内に臭みつく。

 ぐにぃぃぃぃ――。

 オジサンは下へ手を届かせ、可愛いお尻の丸みを鷲掴みにした。
 垢と脂の混じったもので、尻肌に手形が残るのではないかと思うほど、手の平の感触は汗と粘性を帯びている。そんな手で撫で回すということは、まるでナメクジが足跡を残していくように、千紗希のお尻に体液が付着する。

 ちゅくっ、くちゅぅぅ……。

 舌の蠢きと合わさって、左右の五指がじっくりと尻を揉む。ふんわりとした膨らみには、よく指が沈んでいき、指が踊れば踊るほどに変形しながら、口腔ではオジサンの舌が千紗希の歯茎を、内頬を――いたるところをなぞっていた。
 二人の唇は癒着していた。
 それを離すには、糊でくっつけたものが剥がれる際のべたつきと、頑丈な唾液の糸が無数に引いていた。
 そして、オジサンはヨダレを垂らした。
(飲みたくないのに……)
 そうしなければならないように、千紗希は口を開いてヨダレを迎え、ごくりと喉を鳴らしていた。

 どろぉぉぉ……。

 また、唾液の塊が落とされる。
 小鳥が親鳥から餌を貰う光景によく似て、千紗希はオジサンのヨダレを飲ませてもらう。泡立ちを含んだ雫がいくつも、本当にいくつも繰り返し垂らされ続け、その全てをパクパクと、唇で受け止め飲み干した。
 唾液が腹に収まるのは、腐敗を進める汚染物質が体内に入り込んだ心地である。
「次はフェラチオだよぉぉん?」
 オジサンはベッドに腰かけ、横から床へと両足を下ろしていた。
 人のベッドだというのに、さも自分の所有地に座っている我が物顔をしながら、窓際と枕元に並べてあるヌイグルミの一つから、オジサンは何となく亀を掴んで、暇つぶしのように眺め回した。
「か、かめきちさん……」
 千紗希にとって、名前をつけて可愛がるほど大切なヌイグルミだ。
「ほらぁぁぁ、早くしゃぶってよぉぉぉぉぉん」
 オジサンはそれを、放り捨てるように投げ戻した。
(酷いよ……!)
 いつしかコガラシに除霊を頼んだ時は、いきなりヌイグルミを殴り始めた。あのときは思わず拳を上げていたが、このオジサンに対してはそれが出来ない。
「……はい。しゃぶります」
 千紗希は跪いた。
 まるで王の命令には逆らえない身分の、召使いでしかない気持ちで、陰毛に溜まった汗の臭いと、カリ首にある恥垢の臭いが鼻腔を貫く肉棒へと、涙ながらに顔を接近させていた。
(嫌だ……助けて……)
「えっひひひひひぃぃぃぃ」
 極限まで歪みきった微笑みで、文字通りに上から千紗希のことを見下ろすのは、男の象徴を口に迎える服従の瞬間を――千紗希を征服する瞬間を、実に楽しみに待ち構えているからだ。
 咥えたら最後、千紗希の身分は性奴隷だ。
 勝者と敗者の関係が決定され、もう二度と覆ることはない。
 そういう気がしていた。
「んちゅっ」
 亀頭先端の生温かさを唇で捉えた途端、頬から全身にかけて瞬く間に、ぶつぶつと肌の粟立つ感覚が広がって、千紗希はブルっと震えていた。
(あたし……)
 すぐに唇を離し、深々と俯いた。
 床に涙の粒が数滴落ちて、初めて自分が泣いたことに気づいた千紗希は、途方も無い敗北感に何もかも全てを諦めていた。
(こんな汚いオジサンの……奴隷になっちゃったんだ……性奴隷に……)
 悲しい奴隷として、千紗希は口付けを繰り返した。
「ちゅっ、ちゅっ、んちゅっ――」
 亀頭に唇を置いては離し、置いては離す
 その記憶がないだけで、本当はもう何度も口の経験を積んでいる。
 事実を知らない千紗希は、だから初めてフェラチオを行っている気持ちの中で、屈辱と諦観の念に囚われながら、根元を両手に包んでいる。手の平の皮膚から、唇からも、汚い肉棒による汚染で腐敗が広がる錯覚を覚えつつ、やがて大きく口を開いて飲み込んだ。
「じゅむぅぅぅぅ……」
 もうオジサンの気持ちは、犬の皿に出した餌を食べさせ、人権を踏みにじって愉悦に浸るのと同じなのだろう。
「んむっ、じゅむぅ……じゅじゅぅぅ……」
 口内には肉棒の熱気が広がっている。
 顔を前に押し出すだけ、口腔が圧迫されて息苦しい。鼻にぶつかる陰毛から、手元に汗を溜め込んだ異臭が漂って、何度顔を顰めたことか。
「んぷっ、ぢゅっ、ちゅるぅぅ……んむぅぅぅぅ…………」
 自覚のない催眠中の経験が、千紗希の頭を活発に前後させている。
「じゅぽっ、ちゅぽぉっ、ちゅちゅぅぅ……じゅるぅぅ…………」
 貼り付けた舌には、汗の塩気と皮膚の垢が交じり合った不快な味が広がって、それが千紗希を涙目にさせている。
 頭にオジサンの手が置かれ、五指に力を入れて掴まれたとき、千紗希には一つの予感があった。
 ――射精だ。
(飲まなきゃ駄目なんだ……)
 口内で亀頭が膨れ、白濁が弾け飛ぶ。舌の上から頬の内側、上顎や歯の裏まで、いたるところに飛び散る精液は青臭くてたまらない。このオジサンの肉棒から出た汚汁だと思うと、ますます吐き出したくなってくる。
 けれど、千紗希はそれを嚥下した。
 そうしなければ、いけないのだ。
「次はセックスだねぇ?」
「……はい」
 記憶のない千紗希にとって、やはり初めてのセックスだ。本人にとっては処女を奪われることと変わらない。
 深い悲しみに囚われながら、千紗希はベッドに横たわった。
 口の中には肉棒の臭みが残っている。
「いくよぉぉぉ? 千紗希ちゃあああん」
 よく開発された千紗希の股は、既に十分濡れている。

 ぐにゅぅぅぅぅぅぅ……。

 沈んでいく肉棒が、肉壁と絡み合った。
「イヤァァァァ……!」
 下半身全てに、つま先にかけて隅々まで、神経という神経におぞましいものが駆け巡る。まるで腐敗物質が挿入を通じて入り込み、おびただしく循環して細胞を一つ一つ犯しているような、途方もない気持ち悪さに鳥肌が立っていた。
「気持ちいいなぁぁぁぁ千紗希ちゃあああん」
 オジサンは千紗希の顔を両手で掴み、ニタニタと表情を覗き込む。
「あぁぁぁ……! 嫌ぁぁぁ……!」
 そんなオジサンの顔つきもおぞましい。
 地獄の時間だった。
 手が触れても、肌が触れても、汗と脂質と垢の混ざった汚いものが、千紗希の皮膚に付着していく。その気持ちを例えるなら、一週間以上経った生ゴミから出てきた汁を肌中に塗りつけられているようなものである。
「……んっ! んぅ……んっ、くっ、んくぁ……っ!」
 千紗希は目を瞑った。
 オジサンの表情に耐え切れず、力強く視界を暗闇に閉ざしたが、そうすると目が見えない分だけ肉体に意識がいく。自分の中に出入りしているペニスの形状が、より如実にイメージできてしまって戦慄した。
「……あふっ、んっ! んんんん!」
 どんなに気持ち悪いと思っても、催眠のせいで性感帯が鋭敏化してしまっている。味を楽しむようなピストンから、快感の稲妻が背筋を駆け抜け、首や背中が何度も反り返っていた。
「体位変えようかぁぁぁ対面座位だよぉぉぉぉぉぉ?」
(……まだ続くの? 早く終わってよ)
 身体を起こした千紗希は、繋がりが深まって、あと一センチほど奥まで亀頭先端が届いて来るのを感じていた。
「んぅぅぅぅぅ……!」
 より密着度の増す体勢で、乳房にもオジサンの体液が付着する。
 背中を撫で回すオジサンの手は、汚液を塗り広げるものでしかない。まんべんなく手垢だらけとなっていき、お尻を鷲掴みにされた千紗希は上下に弾んだ。
「むっ、むぁん! ああん!」
 千紗希自身が弾む動きと、オジサンが尻を持ち上げる力が合わさり、その女体は軽やかに浮き沈みを繰り返す。
 肌の擦れ合いにより、乳房もオジサンの胸板で上下している。
「あっ! あふっ、んっ、くはぁぁ……!」
 それを、ヌイグルミが見つめていた。
 なごさん、たぬまさん、かめきちさん、くまマンと――。
「次はバック挿入でぇぇぇぇす! ワンちゃんみたいに四つん這いになってねぇぇ?」
「うぅ……」
 一度は引き抜き、千紗希はベッドに両手をつく。
 尻を向けると、オジサンは腰を掴んで背後から挿入した。
「……んぁぁぁ!」
 大胆なピストン運動が、千紗希のお尻に腰をぶつける。
 ――パン!
 と、衝突のたびに音が鳴り、バウンドのように腰をくの字に引いたオジサンは、抉るような突き込みで千紗希を喘がせた。

 ――パン! パン! パン! パン! パン! パン!

 激しい貫きにより、千紗希の身体は前方へ揺らされる。
「――あっ! あん! あっ、あぁっ、んぅぅ!」
 そして、千紗希は感じていた。
(イカされる……!)
 強まる快感が、膨らむ予感が、下腹部を満たしていく。
 まるで破裂寸前の風船に、まだ空気を抽入しているように、快楽を送られ続けることの限界が見えていた。

 ――きゅぅっ、

 下半身が力むせいなのか、お尻の筋肉にも力が入る。放射状の皺の窄まりが、肛門の内側に巻き込まれるように収縮して、まるで呼吸を繰り返しているようにヒクヒクと蠢いた。

 ――パン! パン! パン! パン! パン! パン――!
 ――きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ――

 愛液とカウパーが混じり合い、太ももから流れ落ちていくほどの液量が、ピストンによってクチュクチュとかき鳴らされている上では、お尻から鳴る音のリズムに合わせて肛門がパクパクしている。

 ――パン! パン! パン! パン! パン! パン――!
 ――きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ――

 清潔なお尻の穴は、桜色の色彩から清らかな輝きを放っている。美白肌とのコントラストは白から桃色へと移り変わった花びらをイメージさせ、オジサンの肉体よりも、千紗希の排泄器官の方がよほど綺麗に見えていた。

 ――ドクゥゥゥゥン! ドクビュル! ピュルゥゥゥ!
「――ひぁっ! あっ! あああああああああああ!」

 精液が弾け飛んだのはその時だった。
 千紗希の絶頂も、それと同時だった。
 爆発的な白濁量が、膣内で遠慮なく飛散して、子宮に届きかねない位置まで肉壁の狭間を通り抜ける。なおも溢れ続ける精液は、やがて肉棒の引き抜かれた穴の中から、こっぽりと塊を成して流れ落ちた。

     ***

 そして、オジサンは大の字に倒れていた。
 千紗希のベッドで、千紗希の枕に頭を乗せ、千紗希にお掃除フェラをさせている。
「じゅむぅ……ちゅるぅ……」
 沈めた顔を上下に動かしている千紗希は、オジサンの気分によって意識を奪われ、ただの心を持たない人形として命令を真っ当していた。
 オジサンはこれを人格モードや人形モードと呼んでいる。
 元々の性格を抱くこともあれば、ただのラブドールとセックスをすることもある。
「ちゅちゅぅぅぅ……」
 吸い上げるような口技は、竿の皮膚や亀頭のまわりに残った汁を口内に迎えるためだ。
 少し頭の角度を上げ、オジサンは千紗希のフェラチオを眺めた。
 顔の見えない角度なので、オジサンの視線には頭頂部が向けられている。つむじが上下に動く下では、前髪の垂れた奥に辛うじて顔面の影を確認できる。
「もういいよぉぉぉ? おいでぇぇ? 千紗希ちゃああああん」
「……はい」
 這うように四足で歩む千紗希は、オジサンの胸板に縋りつく。
「一緒に寝ようねぇぇぇ?」
「……はい」
 こうして、二人で一緒に朝を迎えた。




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