第12話「キャンパスを歩く」


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 麗華はすぐに学校から連れ出され、車で大学病院へ向かう事になった。
 ワンボックスカーの後部座席で、麗華はむすっとする。待ち合わせでか、道の途中で医師が拾われ、助手席へ乗り込んで、麗華の機嫌をますます悪くした。
 やがて到着し、駐車場へ停車したところで医師は麗華に顔を向けた。
「さて、麗華さん。ここで検査着に着替えてください。中は全裸ですよ」
 医師の手元から、薄緑色の衣服が手渡される。例えるなら柔道着の上の部分と変わらない構造をした、しかし帯のついていない薄く肌触りの良い生地だ。さらりとした布の感触は心地良いが、医師から渡されたものだと思うと良い感情など抱いていられない。
「ここでですか? しかも全裸って……」
「ええ、そうですよ? 指示にはしっかり従ってください?」
「……期待はしていませんでしたが、やっぱり何も配慮はないんですね」
 麗華は一枚ずつ脱ぎ去って、下着姿へ変わっていく。ブラジャーを外し、パンツを足から引き抜き、アソコにナプキンが貼られただけの丸裸となった。
「生理中ですか? もしそうなら、嘘がないかを確認させてもらいますよ?」
 ――今これを剥がしたら……。
 麗華の漏らす愛液が、ムラムラと車内に香りを立てている。女の甘酸っぱい臭素が空気へ染み入り、それを嗅がんと担任は鼻息を吸っていた。
 ――濡れているのが、バレてる……。
 医師も匂いから察したのだろう。知られたくない情報が、またしてもこの二人の手に渡り、悔しくならずにいられない。
 確認されては終わりなので、ここは剥がすしかない。
 そう、濡れたくった恥丘を晒すしかないのだ。
爪の先をかけると、水分のせいで予想外なほどに簡単あっさり剥がれ、麗華のアソコは外気に晒された。濡れたヌルヌルと空気が触れあい、皮膚の表面がひんやりする。麗華が身に着けているものは、黒い靴下だけとなった。
 裸でも靴下だけは履いているマニアックな格好を、二人の男が舐めるように見てまわす。
「おいおい、どうしてびしょ濡れなんだ?」
 担任はさもあざけるような顔で、麗華の濡れ具合をわざとらしく指摘する。
「あなたには関係ない」
 答えられるわけもなく、麗華は顔を背けた。
「まあ、大事な事は後で聞くと致しましょう。早く検査着を来ちゃってください」
 麗華は薄緑色のそれに腕を通し、羽織って腰の内側にある内紐を結ぶが、検査着のサイズは麗華には小さかった。
 丈のの長さが、まるで中身の見えるギリギリのミニスカートでも履いたような際どさで、まず太ももは全て露出している。ほんの少しでも捲れれば、お尻や性器が丸見えになるのは確実だ。それどころか、ちょっと下から覗き込むだけでも中身を鑑賞できる。
 布の上からでも、ややぴっちりしているので、お尻や胸の形が浮き出ている。立ち上がった乳首が布越しでもわかり、腰のくびれさえも確認できる。
「もっと大きいのは?」
「ありませんよ? それしか」
 わざと、なのだろう。
 サイズの小さい、丈の短い検査着を着て、大学病院へ入るまでのあいだ、こんな格好で一般大衆の中を歩かされるのだ。
「行くぞ麗華」
 担任と、医師がそれぞれのドアから降車する。
 麗華も降りるように促され、ありえない格好のまま降りることとなった。せめて脱いだ制服を持っていくだけでもしたかったが、余計な持ち物は持つなと言われてしまい、恥ずかしい上に心細い気持ちで大学の敷地内へ入っていく。
 担任と医師の二人に続いて、麗華は学生の溢れかえるキャンパス内を歩いた。
「うわぁ、なんだ? あの子」
「エっロ!」
 当然、あまりの格好に注目が集まる。
 道を行き交う学生達の視線が、麗華のいやらしい部分へ集中する。気をつけなければ、歩くための太ももの稼動だけでも丈が捲れて、多くの人間に中身を見られてしまいそうだ。
 麗華は前と後ろの裾を掴み、下へ引っ張るようにして中を見せまいと守りを固める。それでいて耳まで赤く染めながら、麗華は思い切り下を向き、地面を見ながら歩いていた。
 しかし、そんな恥じらいの伺える動作がさらに学生を沸き立たせ、携帯やスマートフォンが麗華へ向けられる。
 ――まさか撮る気じゃ――!
 麗華は咄嗟の判断で顔を下げ、顔だけは撮影からガードする。だが、守りようのないボディは、布の上からとはいえ何枚も撮られていた。動画に撮る学生さえもいた。
 ――こんな姿まで残されるなんて。
 麗華は歯噛みする。
「ほらもっとズームしろって!」
「近づいてみるか?」
 撮影に盛り上がる声がしてくる。
「ヒュー!」
 口笛を吹いてからかってくる。
 周りにいる全員を殺してやりたいほどの沸々とした気持ちが沸きあがり、麗華は横目で強く男をにらんだ。

 パシャ!

 その怒りを剥き出そうとしながらも、睨む目つきの裏側にやはり恥じらいが見て取れる表情を撮影された。
 こうなると、もう怒りより悔しさが上回る。
 こんな格好でさえなければ、撮られなくていいのに。
 竹刀でもあれば、剣道で鍛えた素早さを活かして叩きのめしてしまえるのに。
「靴下だけは履いてるんだねぇ」
「太ももまぶし〜!」
 男達は容赦なく嫌な言葉を投げてくる。
 彼らに怒りを向けたとしても、みっともない格好の麗華が気を強くすればするだけ男は喜ぶに違いない。言葉と撮影行為と視姦による、集団からのある意味でのリンチが相手では、さしもの麗華も肩を縮めて震えながら耐えるしかできなかった。
 こうして歩いているだけでもつらいのに、医師がさらに追い討ちをかける。
「おっと、いけない。ペンを落としてしまいました」
 さもわざとらしく、ボールペンを地面に落としたのだ。
「麗華、拾って上げなさい」
 担任が圧力をかけてくる。
 もし、この足元に転がったボールペンを拾えばどうなるか。拾うためには腰を折り曲げ地面に手を伸ばさなければならないわけで、つまり衆人環視に対して生尻を見せてあげるのと変わらない。
 そんなことを、二人は麗華に強要しようというのだ。
 当然しぶり、麗華は顔を背ける。
「いいんですか? 指示に対する違反行為はあなたの特にはなりませんよ?」
「くっ……」
 いつか殺す。
 殺意を胸に歯を噛み締め、必死に涙を堪えながら、麗華は腰を折り曲げていった。
「おおおお!」
「ケツ丸見え!」
 周囲から歓声があがり、野次馬の輪が麗華へ距離を縮めてくる。少しでも近くで見よう見ようとしてくる男達は、肩で互いを押しのけ合って覗きやすいポジションを奪い合っていた。
 ボールペンに手が触れる。
 そこまでくれば、もう肛門と性器の二つの穴が丸見えだ。目という目の数々が二つの穴へ集中し、肛門のシワから秘裂までもをじっくり舐めまわす。
「おいおい、濡れてるじゃん」
「撮っとけ撮っとけ!」
 興奮する男達の声。
 そして――

 パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ――

 無限に続くかにさえ思えるシャッター音の連打。
 麗華はなるべく素早く、高速で拾ってみせ、下腹部を視線に晒す時間を一秒でもいいから縮めていた。
 この一連の流れも、ほんの一瞬に過ぎないのだ。
 だが、しかし。
 拾ったボールペンを手渡そうとしたときだ。
「おや、すみません。また落としてしまいました」
「この――!」
 麗華は再び、地面のボールペンを拾わされることになる。
「ちゃんとゆっくり、丁寧に拾ってあげないと駄目だぞ?」
 担任の言葉はつまり、みんなに恥ずかしい部分を見せなさい、という意味だ。
 ――絶対殺す……!
 屈辱を噛み締めて腰を折り曲げ、麗華は自分の後ろを囲む野次馬の輪にお尻を見せる。姿勢のせいで開ききった肛門と、愛液を漏らす女性器がじっくりと目で愛撫され、再びシャッターの連打音に晒される。
「おおおっ、ヒクヒクいってる」
「エロい汁が足まで垂れてるぜ」
「最高のケツだな」
 口々に感想を述べてくる。
 ――くそ、見るな……!
 そう叫びたくもなってくる。
 だが、強制的にとはいえ、見せているのは麗華自身なのだ。
 写真には性器も肛門を写されて、動画撮影にいそしむ者もいた。中には仲間達と連携を取って役目を分担し、接写と遠方撮影に別れている者までいる。遠くから撮影する男は、恥部というより女の子があられもない格好で歩いて野次馬に囲まれる、この一連の出来事そのものを記録していた。
「さあ、ペンをこちらへ」
 それが、やっとの解放の合図だった。
 そして、医師は続けざまに――

「医学生の教室はこちらです。さあ行きましょう」

 麗華を次の羞恥地獄へ案内する。
 その背についていく麗華の気持ちは、死刑執行を受けに行く囚人と同じだった。




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