診られてしまう私の・・・


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   たぶん私の年齢が十二歳を過ぎてから、とっくに高校生となった今の今まで、ずっとこの胸を疼かせている相手がいる。
 黒木誠也という人だ。
 ご近所に暮らす親戚の息子で、初めて見たときからイケメンだとは思ったけども、宿題でわからない部分があると知るなり、とても丁寧に教えてくれた。
 ぶっちゃけ、学校の先生が教える小学校の算数も、中学校の数学も、言いたいことがわかりにくくて、何やらさっぱりという感じがした。私がバカなばっかりとは限らなくて、普通に他の友達にも評判が悪くて、あの人は教えるのに向いていないというのがクラスの共通認識となるほどの数学教師がいたってわけだ。
 だけど、誠也が教えてくれた数学は、まるで魔法のように頭に入った。
 さっきまで解けなかった数式の答えが理解できたときには、魔法で特別な能力を与えてもらったような気分にさえなってしまった。

「俺はね。医者になるんだ」
「お医者さんに?」
「いっぱい勉強しないといけないし、まずは研修医になったり忙しいけど、もし君が病気になったら俺が診てあげるよ」

 現在、十六歳。
 風邪で学校を休まなくてはならなかった私は、最近やっと近くの病院で診察を受け持つようになったと聞いたので、約束通り診てもらおうかと町の小さな医院を訪れた。
 正直、歩くのも辛いだるさと熱があったけど……。
 共働きの家庭で、都合上付き添ってくれるような人などいないので、辛かろうが己の力で徒歩何分かをせっせと歩み続けるしかなかったのだ。
 受付に診察券を出して、待合室のベンチで十分ほど。
 やっと名前が呼ばれると、清潔な白衣の似合った誠也が私を迎えた。
「やあっ、会うのは久しぶりだね」
「お、お久しぶり……」
 思わずドキリとしてしまった。
 黒縁眼鏡の顔立ちがとても知的で落ち着いている。ちょっと事務的で淡々としていそうにも見えるけど、いざ喋ったりするときは、途端に顔の硬さが崩れて、雲一つない快晴の青空かと思うほどのさわやかな表情を送ってくる。
「ちょっと辛そうだね。一人で来たの?」
「まあ、共働きなもんで」
「そうだよね。でもよく来れたね。ここまでよく頑張りました」
 ああ、エスパーかこの人……。
 いや、医者か。
 医者だから、歩くのも辛い人の見分けくらいつくんだろう。
「俺は見ての通り、昔からの目標が叶ったよ。俺が病気を見つけてあげるから、さっそくだけど脱いでもらおうかな」
「――へ?」
「うん? うちは上半身裸でお願いしてるから、服はそこのカゴに置いておいてね」
「…………」
 上半身、裸?
 それはそれは、確かに服の上から聴診器を当てるのと、肌に直接当てるのでは、色々と正確さが変わるのかもしれないけど、相手は身内で……。
 恋だって、している相手で……。
「歩くとき、フラフラする感じがしなかった?」
 誠也の目は医者だった。
 身内に対するちょっとした砕けた態度が消え、仕事としてのことを見据えていた。
 真剣なんだ。この人。
「はい。しました」
「フラーっと力が抜けて、もしかしたら倒れちゃうかもって感じがしながら、どうにかこうにか病院まで来れたんじゃない?」
「……なんでわかるの?」
「研修でも患者さんを診てきたし、だから経験則なところもあるけど、君のことは昔から知っているからね。どうやって歩いてきたかぐらいは想像つくよ。大変だったんでしょ?」
 見抜かれている。
 このドキドキする感じが風邪のせいなのか違うのか、もう私自身にもわからない。
「君をちゃんと治したいんだ」
 熱意の瞳で言われては断れない。
 こうなったら、もしヤブ医者だったら蹴ってやろうと、密かに決意しながら脱いでいく。病院という特別な空間で、医師免許を持つ相手に見せるのは、もう単に診察を受けるため以外の何者でもないんだから気にしないようにするしかない。
 そりゃあ、服の上からが一番だけど。
 そうもいかないのなら、致し方のないことだ。
 ブラジャーまで脱衣カゴの中へ置いた私は、この両腕で覆っているしか、胸を隠している手段がない。目の粘膜を見たり、喉の中身をライトで照らしているときは、胸元で両腕のクロスをがっちり固めていても問題なかった。
 だけど、聴診器の出番が来る。
 こうなると、治療のためだからと諦めて、私は両腕を下ろすしかない。好きな男に初めておっぱいを見せるのが、まさか診察目的になってしまうとは……。
 ぺたりと、聴診器が胸の中央に当たってくる。
 ああ、誠也の指がすぐそこに……。
 もしかしたら、何かの拍子に膨らみに指が当たってくるかもしれない。だけど緊張しているのは私だけで、誠也は聴診器で聞く音にじっと集中していた。
 私のおっぱいなんて見ちゃいない。
 診察したいから脱がせただけで、初めからそういう興味なんて何もない。そもそも、そんなセクハラ医師がいては困る。やっぱり症状の有無ばっかりに関心を抱いてこそ、プロの医者なんだろうけど、それでも誠也が私の胸に無反応なのは……。
 いや、ガッカリするのはおかしい。
 きっと仕事で診ているからであって、もしも誠也と恋人になれて、エッチのために脱いだりしたら、さすがに反応は違うはず。
 色々と考えているうちに聴診も終了して、あとは処方箋を貰って、薬局で薬を貰って言家まで帰る流れとなった。
 だが、その夜だ。

「仕事終わったから、お見舞いに来たよ」

 ベッドでゆっくり寝ているときに、いきなりインターフォンが鳴って誰かと思えば、まさかまさかの誠也が私にゼリーを買ってきてくれた。
 迷わず家に上げてしまった。
 というのも、親戚関係のお相手だから、その辺は家族や兄弟への対応に近い。家族だけれど家族じゃない、兄弟だけれど兄弟じゃない――親戚。近いけれど遠い相手は、たまに私の様子を気にしてくれる。
 テスト期間で苦しいとき、教科は違うけど誠也も隣に来てくれて、一緒にい頑張るノリで応援してくれたり……。
 薬で少しはラクになっていた私は、誠也が用意してくれたスプーンでゼリーを食べ、眠るまえにはおでこにタオルをのっけてくれて、とても安らかに眠りに落ちた。
「おやすみ。誠也……」
「うん。おやすみ。いい夢を……」
 少しだけ思う。
 私の胸、見たよね?
 だけど仕事としてだし、やっぱり気にしても仕方がないのか……。

     **

 その後は病院にかかる機会もなく、何事もなかったように日常は流れていった。
 誠也……。
 今のままでも、たまに私の様子を見にやってくる。勉強してるかなんて聞きにきながら、宿題を見せれば教えてくれる。まるで近所の優しいお兄さんのような――いや、実際優しいんだ。いつか気持ちをぶつけて一つになりたい。
 けど、もし願いが叶わなかったら……。
 もう誠也は来てくれなくなるかもしれないい。
 いっそ、だったらクラスの男子に恋した方が、今は同じ教室でも、いつかはクラス替えだか卒業なんかで遠く離れていく相手だ。告白に失敗しても、もう二度と面倒を見に来てくれなくなるわけではない。
 私の心を他の男に移せたら――そう思って、クラスの男子を見てみても、みんな誠也ほどの顔立ちじゃない。脚が長くて、スタイルの整ったラインもない。もう医者になっている男とクラスの男子では、頭の良さだって全然違う。
 駄目だ。
 どうしても誠也のことを考えてしまう。
 ああもう、どうすれば……。
 何年も何年も、ずっと長期間こんな調子だ。

・きっぱり切り捨て、何としても他の恋を見つける。
・いっそのこと誠也に告白する。

 ただ二択から選ぶだけのことが、十二歳の頃から未だにできない。
 現在、高校二年。十六歳。
 あの診察から一ヶ月以上が経って、私はまた病院へ行きたくなった。

     **
 
 ダルさ、腹痛。熱もある。
 また誠也の診察を受ける私は、またしても上半身裸で聴診器を当てられる。もう医療は医療に過ぎないから、私も気にしないようにしていた。
 誠也が私の胸に目もくれないのは、大きさが足りないのでも、形が悪いとかいった理由でも、ましてや女として見られていないからでもなく、ただただ医者として仕事をこなすべき場所にいるからだ。
 白衣を着て患者と接しているからなんであって、恋人がいて男女として胸を見れば、きっと誠也だって興奮する。
 病院で脱ぐのとホテルで脱ぐのは、もう完全に別々の出来事ということだ。
「風邪ではないみたいだね。別の病気だと思うから、そこに仰向けになってもらえる?」
 診察台に横たわると、誠也は私のお腹を押した。
 皮膚の上から臓器を押して、痛みや違和感はないかといったことを尋ねてきた。
 それに答えているうちに診察終了が告げられ、脱いだブラジャーを着けなおす私の前でやることは、診断書か何かの記入であった。
「明日は休みなんだ」
「あ、そっか。定休日」
「仕事が終わったら見舞いに行くけど、もし明日も辛かったら、直接経過を見てあげるよ」
「……ありがとう」
 一日看病、ごくり。
 病気に治らないで欲しいと初めて願った瞬間だった。

     **

 処方された座薬がやっかいだった。
 自分では見えないお尻の穴に入れるのも厄介だが、本当に腹が立つのはツルンと中から滑り出てきてしまうことだ。きちんと押し込んでいるはずなのに、えんぴつほどの太さな上に長さもあるせいか、想像以上に入りにくい。
 ミサイルのように先端が尖った形状は、突き立てやすいためなんだろうけど、長いのでバランスが倒れやすい。
 やっと先端が入って、ここぞとばかりに押し込んでも、出てきてしまって駄目だった。
 何だこの入りにくさ……。
 やっと入ったと思いきや、運悪くもトイレに行きたくなり、きっと薬が溶けて効果が出るより先に流れ出てしまっている。
 もう駄目だ。寝よう。
 ベッドに入ると急に心細くなってきた。
「誠也。まだかなぁ……」
 腹の中身がキリっと痛み、ぼんやりとした熱っぽさもあって、辛いばかりでさっさと寝たいところだけども、こんな時に限って眠気が来ない。眠れない。両親ともに仕事で、静かなばかりの部屋の中には、孤独の演出がごとく時計の針がチ、チ、チっと鳴り続けている。
 まだかな、誠也。
 いつ来てくれるんだろう。
 来るんだよね?
 終わったら見舞いにくるって、ちゃんと言っていた。

 ピンポーン。

 ――来た!

 私は飛び起きてインターフォンのモニターを覗き、誠也のために鍵を開いた。
「ごめんね。遅くなっちゃって」
「いや、別にそんなこと……」
「具合はどう?」
「まだちょっと、朝から変わらなくて……」
「薬は?」
「それは……そのぉ…………」
 座薬が肛門から抜け出てくるだなんて話は、さすがのさすがにできなくて、ただ入りにくくて入れられていないことだけを私は告げた。
「わかった。お風呂は入った?」
「うん」
「排便は?」
「……う、うん」
「ご飯は食べた?」
「ちょっとだけ」
 今の誠也は医者として来てくれたんだろうか。
 それとも、ただの優しい親戚のお兄さんとしてなのか。
 ……どっち?
 見れば誠也の手には小さな白色いケースが握られていた。そこには医療の象徴となる赤い十字架のマークがあって、わざわざ医療道具まで持ってきてくれたとわかる。
 さすがは医者だけあって、お見舞いのやり方が本格的だ。
「君のことは俺が見守るから、さあ早く寝よう」
 誠也は私を優しく抱いて、ベッドへと導いていく。
 もちろん、ただ患者を寝かせるためだけに。
「どうしても座薬が入らなかったんだね?」
 ベッドについて、私が横になったところで誠也は尋ねる。
「うん。本当にね。もう、すっごく、すごく入れにくくて……」
 まるで薬も一人で飲めない子供みたいで、そう思われるのが嫌な私は、本当の本当に入れにくいものだったと強調していた。
 それがいけなかったのだろうか。

「じゃあ、入れてあげるよ」
「――へ?」

 誠也の顔は病院のときと変わらない。
 ただ医者として、患者さんの病気をどうにかしようとする表情。
「入れにくいんでしょう?」
「それは……そうだけど……」
「治るのが遅くなるよ。明日になっても、明後日になっても、今みたいな辛い状態のままでいたい? 違うよね」
 ちょっとだけ、顔色が変わっていた。
 私を心配してくれている顔だった。
「……うん。違う」
「君を治したいんだよ。俺は」
「…………うん」
 医者としても、身内としても、そんなに真剣に気にかけられたら、私にはもう断りきれなくなってしまう。
 ここが私のベッドだとしても、誠也には医療行為のつもりしかない。
 だから……。
 だったら、もう何も言えない。

「四つん這いになってごらん?」
「………………」

 私は……。
 静かに姿勢を変えて、誠也にお尻を向けるしかなかった。
「電気、点けるよ」
 暗闇が消え、白いベッドシーツが照らし出される。
 後ろには誠也の気配。
 私はじっと、ただ四つん這いのためについた両手のあいだに目を落とした。
「頭は下にくっつけちゃって」
 肘もつけ、上半身の角度を沈めた。
 たぶん、スフィンクスが取るポーズに似ている。違いといえば、両腕のあいだに顔を押し込んでいることと、お尻だけは高くしてあることだろう。その後ろに男の人がいるだなんて、このポーズが実は人にお尻を捧げるためのようなものに思えてくる。
 いや、でも誠也は私を患者だと思っている。身内の患者だから特別に心配して、それ以上でもそれ以下でもないのに、私がいやらしい想像をしすぎなんだ。
 でも……。
 誠也はどうやって私に座薬を入れてくるのか。
 答えは一つしかない。
 それが、とっても……。
 まぶたを閉じて、ベッドシーツに顔を埋め込むことで得られる暗闇の中で、誠也の手の平に宿る温度が――その気配がお尻の上を彷徨っていることに気がついた。直接触られているわけではなくとも、熱気から出るモヤモヤが私の皮膚に染み込んで、まるで本当は目には見えない透明な手が置かれてしまったような心地になった。
 パジャマズボンが両手によって掴まれる。
 ああ、脱がされるんだ……。
「――っ!」
 そう思った時には、次の一瞬で勢いよく膝まで下げられ、頭が真っ白になってしまった。
 あ、ああっ、丸見えだ……!
 無心、無心、無心!
 医者なら色んな人の裸を見る。女の人の診察だって私だけじゃない。だから下着ぐらいでは興奮しなくて、まして今の誠也には医者としての心のスイッチが入っているはず。
 どうってことない。
 って、私がそう思ってさえいれば、誠也だって大した意識はしていない。ただ医療行為のために必要なことをやり、座薬が済んだらそれでおしまい。
 ただ、それだけ……。
「アソコは見ないようにするからね」
 優しい語りかけをして、誠也は私の下着も指で掴む。
 下げ方が、恐ろしくゆっくりだった。
 ゆったりと、のろのろと、ショーツのゴムの締め付けが下へ……下へ……あんまりにも静かに動いているから、私のお尻はどこまで見えてしまっているのか、そんなことが皮膚感覚で頭に伝わる。
 カーブラインの一番高い位置までいって、そこからもう少し先まで下がっていく。
 自分のお尻の穴が、尾てい骨から何センチの位置かを知っているわけではないけど、もう見える直前に来ているのが想像できる。
 だってこの姿勢、よく考えたら割れ目が左右に広がるから……。
 それにアソコまで見るわけではないといったって、今までくっついていたクロッチ部分の布が肌の上から浮いてって、もう何センチだかの距離まで離れてしまった。
「ここまでかな」
 そう、アソコを見るわけじゃない。
 だけどもう、もう一つのものは見えているんだ。
 誠也の目に映っているアングルからの自分の姿は、とても想像したくない。
「ちょっと待ってね」
 ケースの中から道具を取り出し、何やらシュっと、スプレーの噴射音が聞こえた。
 どこに何をかけたんだろう。
「最初に拭いちゃうから」
 ……え? 拭く?
 次の瞬間、しっとりとしたガーゼが強く押し付けられていた。
 ああっ、消毒だ――アルコールか何かで……誠也がガーゼ越しの指で私のお尻の穴を擦ってしまっている。
 人の手でお尻の穴を拭いてもらうだなんて、本当は赤ちゃんまでじゃ……。
 ガーゼ越しの指のお腹が嫌というほど丁寧で、なぞるようにして拭き取っている。丁寧な拭き掃除みたいにゴシゴシして、やっとのことでガーゼが穴か離れていく。
 最後にトイレに行ったのは入浴前のことだった。別に汚いわけではないはず。衛生的にそうしているだけなんだと、私は固く信じ込むことにした。
「じゃあ、入れるね」
 座薬の先端が、私のお尻の穴に狙いを定めて接近している。
 もう、入れるんだ……。
 正しい位置に押し込むため、一体どれほど注意深く視線を送ってきていることか。右利きの誠也は右手に座薬をつまんでいるはずで、その手の気配が皮膚の上でどんどん濃くなる。
 来ると思った時には、もう先っぽが当たっていた。
 そして、押し込まれた。
 一本の指だけで、座薬の全てが収まると、まるでフタをするみたいに指の腹がお尻の穴に触れてきている。
 その指が離れると――。
「確かに、にゅぅぅぅって、出てきちゃってるね」
 そんな……嫌だ……。
 で、出てきてるって、一度入ったものが穴の中から飛び出てくる瞬間が、誠也の瞳に納められてしまったということだ。
 そんな瞬間を見せてしまっただなんて……。
「奥まできちんと押し込む必要がありそうだね」
 もう一度、指で私のお尻に押し込んだ。
 今度は指も一緒になって、爪の先から入ってきている。えんぴつレベルの太さだった座薬よりも、もっと太い男の指が侵入してくる異物感は、穴の窄まりを広げてくる。普通に生活していれば、ものが出て行く感じは日常だけど、逆に外から入ってくる感覚には慣れっこない。
「薬が溶け出して、馴染み始めるまでちょっと待ってね」
 待つって、このまま?
 指で栓をされてしまったみたいに、誠也の指はぴったりと止まっている。
 無心、無心に……なんて、なかなかなれない。
「お尻の穴にギュゥゥゥって力を入れてくれる?」
 そんなことまでさせるの?
 いくらなんでも……。
「薬が逃げないようにね」
 ううっ、やるしかない。
 肛門括約筋に力を加えて、窄まりをぎゅっと引き締めるようにしてやると、自分のお尻の穴が誠也の指を締め付けるのが、皮膚感覚で如実にわかる。
「はい。抜くよー」
 スローモーションのように一ミリずつ、だんだんと指が後ろに抜けていく。締め込んでいる分だけ、やっぱり皮膚感覚で指の形がわかってきて、やがて第一関節まで抜けて、もう爪の部分まで出てくるところだ。
 先端まで出て行ったと思いきや、グニっと指の腹を押しつけて、マッサージみたいにお尻の穴を揉んでくる。
「せ、誠也……もう薬は入ったんだよねぇ……?」
「直腸検温もしておこうか」
「直腸って……」
 知っている。
 お尻の穴に体温計を挿し込むのだ。
 やっと誠也の指が離れても、直後に体温計の先がぷすりと、私の窄まりを貫いていて、またしても皮膚感覚が想像させる。どんなに意識を逸らしたくても、だらんとした体温計の、あってないようなちょっとした重量と、先っぽが私の内部に埋まったままとなっている感じが、嫌というほど如実でたまらない。
 ああもう……こんなのって……。
 体温計という名の尻尾を生やしたお尻が、誠也にまじまじと見られている。この時間が終わって明日になったら、もうどんな顔をして誠也に会えばいいのかわからない。
「ほら、ぎゅって力を入れて? でないと体温計がだらっとしてる」
 お願い、もう私を苛めないで……それでも私は言うことを聞いてしまうから……。
 別にだらっとしててもいいじゃないかって、そう思っていても私は何も言わなくて、言われた通りに締め上げて、そうしたら持ち上がっていくのがわかって……。
「…………」
 でも、しばらく静かになった。
 時計の秒針がうるさく聞こえるくらいの静寂。
 私はじっと、じっとじっと、暗闇とにらめっこをしていた。どんなに電気が明るく照らしてきていても、こうやって目を閉じて、シーツに顔面を預けてしまっている限り、視界だけは暗闇の中にある。
 自分自身のまぶたの裏側だけ、私はじーっと見つめていた。
 体温計の音が鳴り、検温が済んで引き抜かれると、誠也は黙って私のショーツを持ち上げていて、誠也の手によって穿き直されていた。
 人に下着を穿かせてもらう体験って……。
 それにパジャマのズボンまで、誠也の手で直されてしまった。
 私、何でこんな目に遭ったんだろう。
「お疲れ、頑張ったね」
 頑張ったっていうのかな。
 確かに心は疲れきったけど。
「明日はいいものを処方してあげるよ」
 いいもの? なんだろう?
 私が静かにポーズを解くと、誠也は黙って私に布団をかける。
「おやすみなさい。よい夢を……」
 よい夢なんて、見れるものか。
 私が見たのは、またお尻の穴を見られたり触られたりする悪夢だった。

     **

 いいものっていうのはね。
 俺はずっと、君の恋の病を放置してきた。
 いや、放置どころかね。
 少しでも症状が長期慢性化するように努力してきた。
 面倒を見てあげたり、勉強を教えたり、色々とね。
 どうしてかっていうと、ちゃんと医者になってから治してあげようと思ったんだ。

 ああ、君のおっぱい。
 本当は綺麗だったよ?

 他の女性だったら、ただの患者として診ていられるけど、好きな女の子の胸が出てきちゃうと少しね。
 まあ幸い、医者としての顔しか見せないように抑えていたから、俺の本心が医療現場でバレるようなことはなかったけど。

 明日になったら、バラしてあげよう。
 けど、大丈夫かな。
 もしフラれたらって思うと……。
 それでも、明日は伝えようって決めてあるから――。
 
     **

 朝になっての処方箋は、私をかつてないほど元気にするお薬だった。
 なんで? なんでだ!
 そんな薬があったなら、もっと、もっと早く……。
 よし、決めた。
 それだけは一生恨んでやる。




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