黒崎麗華のオナニー生活


目次に戻る

 金曜日の夜、部屋には鍵をかけている。
 黒崎麗華は念のためにドアノブを回し、戸締りが出来ていることを確認してから、さらに窓のカーテンをきっちり閉めた。
「……うん。よし」
 麗華はパジャマズボンを脱ぎ下ろし、床へ仰向けに寝転がる。いつもならポニーテールにしているが、今は解いている黒髪が床へ広がり、背中の下へ敷き詰められる。電気を消した暗い天井を見つめ、これからしようとしている自分自身の行為に少しばかりドキドキしながら、麗華はその姿勢で両膝を立てた。
「乙女だって嗜むものだ。問題ない」
 麗華は自分に言い聞かせ、ショーツを膝まで持ち上げた。閉じていた脚に少しだけ隙間を開けて、右手をそこへ運んでゆく。秘所のぴったりと閉じ合わさった貝へ触れ、顔を火照らせながら愛撫を始めた。
 指が割れ目をなぞっている。
「……うん。気持ちいい」
 うっとりと目を細めた。
 麗華にとって、オナニーは自分へのご褒美だ。
 淫らにふける決して綺麗とはいえない行為だが、それをあえて許してもいい条件を自分自身に課している。初めに決めた計画通りの勉強をきちんとこなし、部活での練習、毎朝のジョギングや自主稽古といった鍛錬をサボることなく積み重ねる。
 目標通りの練習量、勉強量をこなせたら一回。テストで良い点を取れたら一回。剣道部の試合で勝てたら、後輩へ良い指導ができたら、と。自分にご褒美を与えても良い相応の理由が出来るごとに一回、オナニーを追加している。
 決してハードルは低くない。だから高すぎるというわけでもないが、一度決めた時間量や目標とした教科書のページ数をこなせなければ、逆に罰としてお預けにする。それどころか、ご褒美に浸るはずだった時間を勉強かトレーニングに使う。母親が子供のゲームや漫画の時間を制限するのによく似た具合に、麗華は自分の性欲を抑えていた。
 妥協はしない、言い訳をして誤魔化さない。
 自分なりのラインを定め、そこを越えない限り決して淫らな行為には走らない。こんなのは汚いことで、夢中になるなど褒められない。だからこそ、自分にオナニーを許すには相応の努力がいる。マイナスを補うプラスが必要なのだ。
 その上で、麗華の週のオナニー回数は二回か三回。
 月曜日から自分の努力点を評価して、週末をオナニーの追加先に決めている。日曜日に一回入れたら、次は手前の土曜日へ。さらにもう一回追加したら、今度は金曜日の夜へ。自分流の仕組みでご褒美を加えた結果、今週は全部で三回のオナニーが許されていた。
「麗華め、お前はエッチな女だ」
 それは自分自身に対する独り言。
「本当はこういう事がしたくて頑張っているんだろう? わかっているぞ」
 責めるような言葉と共に指を動かし、貝の膨らみを揉みしだく。間接の柔らかい細やかな麗華の指は、実に軽やかにくねり踊り、滑らかなタッチで縦筋をなぞっていく。秘密の部分は熱い刺激に温まり、火照ったように温度を上げて疼いていた。
「エッチ……私のエッチ……」
 割れ目の隙間からしだいに蜜が滲み出し、その湿っぽさが指に蒸気のようにまとわりつく。麗華のソコはほどよく蒸れ、甘い痺れを溜め込んでいく。
「こうしてやる……!」
 縦筋へ指を沈め、突起した肉芽を指先で虐めた。
 これでも、麗華はこういう事に対して複雑な気持ちがある。興味はあるし、人間として自慰は自然な行為と理解しているが、麗華のこんな姿が孤高とも気高いとも言えないのもまた事実である。
 本当はもっと、強く優美な先輩像を保ちたい。文武両道の麗華なら、別に心配せずとも周りからの評価は得られているが、もっと自分自身に対してだ。例え人前でなくとも、何者にも折れない強さのある自分でいたい。ある種の理想像を持った願望を抱いている。
 だというのに、その一方で麗華はオナニーをしているのだ。
 愛液が指に絡んで糸を引き、細やかなテクニックで熱い吐息が漏れてくる。麗華の右手はまるで意思を持ったように活発化して、思う存分に秘所を犯している。
「ああ、こんなに……私という奴は……」
 粘液の音がネチャリと鳴り、自分がいかに濡れているのかを思い知る。
「ほ、ホカホカに……」
 熱を上げた麗華の秘所は、手の平にその温度が伝わるほどに温まっている。何かが股へ集まるような痺れと、刺激を欲しがるヒクつきが、ますます麗華の手を元気にしていた。
「……あっ、ううっ」
 膣口へ中指が挿入され、麗華はゆっくりと目を瞑った。
「あ……んん……うん……くふぅ……」
 吐息を漏らすような静かな喘ぎ。
 中指に自分の膣の温かさを、そして膣内に指が出入りするピストンの心地良さを感じ取り、麗華は堪えるような表情で口を閉ざした。
 麗華は自分自身で感じている。気づいているといってもいい。
 性への好奇心を抱くもう一人の自分が、耳元で甘い囁きをして気高くあろうとする自分を陵辱している。性欲は右手に宿り、秘所を貪り甘い快感を掻き出すのだ。そして孤高な自分を引きずり落とし、この時ばかりはオナニー好きな自分が気高い自分に勝ってしまう。
 だから、思う。
 何を負けているのだろうか、と。
「んっ、んあぁ……」
 刺激で、背中が弾んだ。
 大胆に指を出し入れするピストン運動はゾッとするほど気持ちが良く、快感の荒波が背筋を通してうなじまでせり上がる。秘所を起点に熱は広がり、時間をかけて体温が上昇し、麗華はいつしか顔まで桃色に染めていた。
「ったく……くぅ…………」
 つくづく思う。性欲というものの厄介さを。
 三大欲求として食欲と睡眠欲に並ぶほど、人間という生物に当たり前の機能として宿っているものなのだろうが、己の内側にある敵には決して勝てない。ものを食べずには生きてはいけず、睡眠を取らなくては寿命が縮み、そして性欲を満たさなくては体が疼く。
 敵は体の内側からやって来る。
 たとえそれを倒して撤退へ追い込んでも、生理機能は不滅の存在として何度でも繰り返し攻めて来る。倒せば倒すほど抑圧された欲求は膨れ上がり、いつしか決して打ち勝つことのできない巨大さで襲ってくる。
 思春期に差し掛かって好奇心が芽生え、性的なことや異性への興味がしだいに根付いていたような小学六年から中学一年にかけての頃は、基本的に倒していた。汚いもの、いけないものとみなして自分自身の欲求を攻撃し、絶えず封印を繰り返した。
 だが、時間を重ねることでやがて気づいた。
 これは勝てないものなのだ。
 いや、勝つ負けるという発想自体がきっとおかしい。人間とはそういうもので、性欲を持たないことなどできはしない。それは食欲と同じで、永遠に我慢するなどできないように体が出来ているのだ。
 欲望を制御するにはそれと付き合い、コントロールし、支配するしかない。
 初めは背徳感を覚ええた麗華が性欲との付き合いを考え、実行に移すことを思いついたのは中学一年の春か夏か。正確な時期は忘れたが、その頃から自分自身の心と付き合うノウハウを蓄積していき、やがては今のやり方に至っている。
「――んく――くふっ、くふぅぅ」
 中指は大胆に膣内を探り、麗華をよがらせようと粘膜を撫で上げる。活発な手首のスナップで出入りして、愛液にまみれた指の膣壁との摩擦は麗華を強く刺激していた。
 自分なりにコントロールし、管理下に置いているつもりはある。
 ただ、そうやって普段は気高い精神が勝っていても、いざ解放する瞬間になると、途端にオナニー好きな自分が元気になる。隙を見せたのをいいことに現れて、欲望が右手に取り憑き麗華を犯しにやってくる。
「くっ、んぁ……」
 別の生き物と化した右手に穴を嬲られ、思う存分に体を楽しまれている敗北感は拭えない。
 日頃は清潔な自分が勝っていても、定期的に負けなくてはならない悔しさがある。悔しいのだが、夢中になって貪っている自分がいる。
「ん……んふぁ……あぁ……ふあぁぁっ、あぁぁ……」
 淫らな息遣いをする己自身がやりきれない。汚く、破廉恥で、卑猥な行為だと思いつつ、それに夢中になる自分自身の一面ほど麗華にとって複雑なものはありはしない。
 アソコが喜んでいる。
 膣だけでは物足りないと、淫らな自分が気高い自分に要求してくる。
「く、くそぉ……仕方ない……」
 麗華は左手の指でクリトリスを弄繰り回し、強い刺激に呻きを上げた。
「――んっ、んんっ、んふぁっ」
 快感だった。
 我慢に我慢を重ねていき、それを解放する瞬間が気持ちいい。甘い痺れが電流の渦を巻いて秘所へ帯電し、絶え間なく弾け続けている快感に全身が熱くなる。蒸し暑いような汗で肌をしっとりさせながら、よがって髪を振り乱した。
 右手が膣、左手が肉豆。
 こんな風に股を弄って悦ぶ姿のどこか強い女だろう。こんな自分は見せられない。別に他人に見せるものではないが、それでもみっともない真似をしているのだ。残念な自分がここにいると、ほとほと思わずにはいられない。
 ふと、時計を見る。
 ――一時間。
 このオナニーを開始してから、とっくにそれくらいの時間が経っていた。
「まだ……まだ足りないのか……! 私という奴は……ったく……」
 はしたない、いやらしい。
 淫らな自分が気高い自分を押し倒し、ニヤニヤしながら虐めてくる。いいようにされている悔しさと同時に、優越感に浸っているのもまた自分自身だ。性を拒む自分と、追求したがる自分と、どちらが本当の己かなどわからない。
 いや、きっと双方共に本当の自分だ。
 エッチなんてしたくない、だけどしたい。相反する二つの心が同居して、反発しながらも長くを共に過ごしている。ただ、エッチな方の麗華を知るのは麗華だけで、学校や家族のみんなが知るのは気高い方の麗華という、それだけなのだ。
 もし、エッチな部分が他人に暴かれてしまったら?
 そんな事は考えたくもない。
 もし誰かと肉体関係に発展し、男がそんな部分を知ったなら。そいつはきっと、満足そうな笑みを浮かべて上から麗華をよがらせる。切磋琢磨に腰を振り、喘ぎ声を上げて身をよじらせる光景を目で楽しむに違いないのだ。
 男とはそういうものだと、麗華は思っている。
 だから、オナニー一つが悔しいのかもしれない。それは女としての明らかな弱点で、それを突かれれば麗華も弱い。決して他人を侵入させてはならない心の領域こそ、麗華のこういう部分なのだ。
 では男は不要かといえば、そういう考えがあるわけではない。麗華も確実に年頃で、異性への興味はあり、ただ実際に誰かと交際した経験がないに過ぎない。理想とするタイプ、一緒に過ごしてみたい男性像は確かにある。
 そして、そのための弱点を自分自身で育てている。
「んっ、んぁ……」
 ぐっしょりとした股口はヨダレを垂らし、尻の割れ目を伝って床を汚す。内股までジンジン痺れ、麗華の瞳はとろけていた。
 この指の出入り、クリトリスへの愛撫こそ、ある意味での弱点強化だ。
 こうしてオナニーをすればするほど、アソコは経験を積んでしまう。鍛錬を積むほど感じやすくなったアソコは、男と重なるその瞬間を迎えた時にどうなるのか。敏感な弱点に触れられれば、男の指ならではの快感がきっとある。
 いつか男を受け入れ、嬲ってもらうための弱点を自分で育てる。
 そんな行為があるだろうか。相手を必要以上に良い気にさせかねない。
 だが、麗華はそれをやめられない。
 本当は病みつきなのだ。
「わ、私のバカ……!」
 ビクビクと唸る自分に膣に顔を顰めて、麗華は誰がいるわけでもない天井から目を背けた。
「ん――んっ、んん!」
 プシャァァァ――。
 絶頂の潮が吹き上がり、それは霧吹きかスプレー噴水のようになって、粉末状の細やかな水滴はふんわりと床を汚していく。
 麗華はそのままぐったりして、ぼんやりと放心した。
 仮に麗華のこんな性生活が人にしれたら、きっと失望されるのだろう。麗華がオナニーで潮を吹くなど、そんな事を想像するクラスメイトはさすがにいまい。
 愚かしい。
 こんなものは、いつか自分が誰かのものにされる布石ではないか。その布石を積むことをやめられない自分の性癖が憎いようでいて、いざそうなった瞬間の快楽にも薄っすらと興味のある自分がいるから厄介だ。
 心を強く持たなくては。
 たとえ誰かのものにされても、己の意思はしっかり持て。
 そして、心を許せる者でなければ、そもそも弱点など見せてはいけない。
 自分自身への戒めを抱きながら麗華はティッシュを数枚取り、愛液で汚れた床を拭き、股を拭き取く。まだ敏感さの余韻の残る絶頂後のアソコはヒクヒク唸り、二回目のオナニーを欲しがっている。
「……駄目だ。今週は三回なんだ」
 そのうち一回を消費した。
 ここでオナニーを繰り返せば、土曜日と日曜日の分が無くなってしまう。
「我慢だ我慢」
 きっぱりと終了を決め、パジャマを履き直してベッドへ潜る。それでも股の疼きは続き、眠りたくても寝付けない。ウズウズと下の口がだらしなく指を欲しがり、油断すれば二回目を消費しそうな自分がいた。
「我慢しろ、私」
 耐える代わりに、麗華は股に布団を挟んだ。内股を強く引き締め、摺り合わせることによって気を紛らわせ、求めてやまない自分自身の心を拒絶する。今日は終わりだ。明日の晩まで待てと、突き放す。
 そんなにオナニーがしたければ、もっと頑張ればいいではないか。勉強でもいい、剣道でもいい。もっとそれ以外にも、料理を覚えてみるでも家の掃除を手伝うでもいい。他に趣味を見つけて極めるでもいい。
 プラスになることを積んでいけば、はしたない真似をしたマイナスを潰せる気がする。その努力量によってはプラスがマイナスを上回り、オナニーをしていようと人として上へ昇れる。
 我慢と解放こそが自分自身に対する飴と鞭。
 だから今夜はここまでにして、余韻に浸るだけで我慢する。
 しかし。
「うぅ……」
 熱はそうそう収まらず、アソコが切ないあまりに太ももを摺り合わせる。寝つきにくくて、眠れるまでに時間がかかってしまうのだった。




目次に戻る

inserted by FC2 system